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ジェシル、ボディガードになる 164

2021年07月12日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ムハンマイドが格納庫から出て来た。後ろに従えたハービィが、自身の大きさくらいはある薄い長方形の金属板を両手で持っていた。加工した部品のようだ。道具袋は首から下げている。
「……あんな部品、本当に必要なの?」ミュウミュウは怪訝な顔で二人を見ている。「ねえ、あなた、大丈夫なのかしら?」
「実はわたしは宇宙船の構造を詳しくは知らないのだよ……」オーランド・ゼムは苦笑する。「そのあたりの事は、ハービィに任せっきりなのでね。でも、ハービィは優秀だ。今までもメンテナンスをしてくれていたが、失敗は無かった」
「そのハービィが文句を言わずにムハンマイドに従っているって事は、問題なしって事よね?」
「そうだ。ハービィは嘘が言えない。もし、ムハンマイド君がおかしな事をしようとすれば、すぐに気が付いて、わたしの報告に来るよ」
「分かったわ。……ハービィって、頼りなさそうに見えて、実は優秀なのね」
「そりゃそうさ。わたしが選んだアンドロイドなのだからね」
「……まあ、妬けるわ!」
 オーランド・ゼムとミュウミュウは顔を見合わせて笑った。ジェシルは猿轡をされたままだが、勝手に惚気てやがれと言った顔をする。
 ムハンマイドは振り返る事も無く、ジェットを噴射して作業現場へと向かった。ハービィがそれに続く。
「ムハンマイドのヤツ、わたしが嫌いだから、こっちを見もしないわ……」ミュウミュウがつぶやく。「ふざけたボクちゃんだわ……」
「いや、そうじゃないさ」オーランド・ゼムは作業をしている二人を見上げる。「ムハンマイド君は、一刻も早くわたしたちに出て行ってもらいたのだよ。そのために時間を無駄にしたくないのさ」
「……どっちにしても生意気だわ」ミュウミュウは言うと、残忍な笑みを浮かべる。「ふふふ…… 修理が終わってからが、見ものよね」
 ジェシルは呻く。しかし、声にはならない。ミュウミュウはしゃがんで、ジェシルの顔を覗き込んだ。
「何? 何が言いたいの?」ミュウミュウはおどけた言い方をする。「……ああ、そうか。ムハンマイドも、あなたと同じように縛って、隣に並べてほしいって言いたいのね? 分かったわ。……でも、あなたたちって、何時の間にそんなに仲良しになっちゃったの? 妬けるわねぇ」
 ミュウミュウはくすくす笑いながら立ち上がった。と、真顔になってジェシルを見つめた。
「二人共、死んでもらうわね……」
 ミュウミュウは冷たい声でそう言うと、オーランド・ゼムに耳打ちをした。オーランド・ゼムは苦笑しながらうなずくと、格納庫へと向かって行った。ジェシルはその姿を目で追う。
「ちょっと、何を見ているのよ! わたしのオーランド・ゼムよ!」
 ミュウミュウは言うと、縛られて伸びているジェシルの脚を跨いで立ち、ジェシルを見下ろした。残忍な笑みを浮かべると、ジェシルの脚の上に勢いよく座り込んだ。苦痛でジェシルの顔が歪む。ミュウミュウはジェシルの顔を見ながら、何度も腰を浮かしては落とすを繰り替えす。華奢で骨ばったミュウミュウの尻が幾度もジェシルの太腿に当たる。猿轡を通して、ジェシルの呻く声が漏れる。
「どう? 痛いでしょ?」ミュウミュウは笑いながら続ける。「……それにしても、あなたの太腿って弾力があるわねぇ。やっぱり、子供時代の育ち方が違ったのかしらね? わたしは毎日が食うや食わずだったわ。だからこんなに痩せているの。それに、いつも逃げ回っていたしね…… でも、あなたは色々と満足の行く食事や生活をしていたようね! 気に入らないわ!」
 ミュウミュウは大きく腰を上げると、かなりの勢いで座り込んだ。ジェシルの顔が歪み、長い呻き声が漏れた。ミュウミュウは残忍な笑みを浮かべて、それを見つめる。
「……おいおい、何を楽しそうに遊んでいるのだね?」戻って来たオーランド・ゼムが、ジェシルの太腿に座っているミュウミュウに、背後から声をかけた。「わたしも混ぜてもらおうか?」
「遊んでいたんじゃないわ、暇潰しをしていたのよ」ミュウミュウは言うと立ち上がって、オーランド・ゼムに向き直る。「……それで、持って来てくれた?」
「ああ、持って来たよ」オーランド・ゼムは右手に持った布袋を軽く振って見せた。「後はムハンマイド君の作業が終わるのを待つばかりだ」
「時間が掛かるとか言っていたけど、もう終わりそうじゃない?」
「本当に、わたしたちにさっさと出て行ってもらいたのだねぇ……」
「それだからって、手抜き作業をしていないでしょうね?」
「ハービィが居るのだよ。彼は正直者でもある。手抜きをしたら指摘するだろう。もし、それをムハンマイド君が無視したなら、それもわたしに報告するよ。わたしが主人なのだからね」
「じゃあ、安心ね」
「そう言う事だ。彼とは長い長い付き合いだからねぇ」
 オーランド・ゼムとミュウミュウは修理作業を見ていた。ハービィの持っていた部品を取り付け、割れていた外壁版を溶接し直す。溶接が終わり、ハービィが点検をしている。ムハンマイドがうなずいている。
「……そろそろ終わりそうだ」オーランド・ゼムは言うと、ミュウミュウを見つめながらポケットを探る。「……これを渡しておこう」
 オーランド・ゼムが取り出したのは半インチ四方の黒い立方体だった。ジェシルを拘束した道具だ。ミュウミュウはにやりと笑って受け取った。
「ふん! 用済みのボクちゃんは、これでおしまいね」
 ミュウミュウは、作業を終えて降りてくるムハンマイドを見ながらつぶやく。


つづく


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