降りて来るムハンマイドはジェシルを見た。ジェシルが猿轡をされている事に気が付いた。ムハンマイドは降下を止めた。
「おい! ジェシルに手を出すなと言ったはずだ!」ムハンマイドは宙に留まりながら、オーランド・ゼムを睨む。「どう言うわけなんだ!」
「これをしたのはミュウミュウなのだよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムは言うと、ミュウミュウの肩を軽く叩く。「ミュウミュウに訊いてくれたまえ」
「おい、ミュウミュウ! どう言うつもりだ!」ムハンマイドはミュウミュウを睨む。「さっさと猿轡を外せよ!」
「イヤよ!」ミュウミュウはムハンマイドを見上げ、べえと舌を出して見せた。「ジェシルは口数が多すぎるわ。だから黙っていてもらうのよ」
「ふざけた事を言っているんじゃないぞ!」ムハンマイドは言うと、隣に居るハービィが両手でぶら下げている道具袋からハンマーを取り出した。「このハンマーはデラノス鉄で出来ている。このハンマーは、軽く叩いても強い衝撃が伝わる。これで修理した所をぶん殴るってやる。そうすれば、修理個所は破壊され、この宇宙船は永遠に飛べない!」
ムハンマイドは言うと、ジェットを噴射して上昇を始めた。と、左腰のジェット推進装置が吹き飛んだ。バランスを崩したムハンマイドは、悲鳴を上げながら、くるくると回転しながら落ちて来る。やがて大きな音と共にムハンマイドは地面に落ちた。
ミュウミュウの右手に熱線銃が握られていた。
「ほう、ミュウミュウ、君の射撃の腕は大したものだ……」オーランド・ゼムは感心する。「あの小さなジェット推進装置に当てるとはねぇ……」
「いいえ、外れだわ!」ミュウミュウは、残忍な笑みを浮かべた顔を、オーランド・ゼムに向ける。「わたしは、ムハンマイドの右腕を狙ったのよ」
ミュウミュウは言うと、銃を呆れた顔をしたオーランド・ゼムに預け、倒れているムハンマイドに向かう。ムハンマイドはうつ伏せになって呻いている。
「あら、まだ生きているんだ……」ミュウミュウは笑む。「そうでなくっちゃね。生意気なボクちゃんには、たっぷりとお仕置きをしなきゃいけないから」
ミュウミュウは左手に持っている立方体を右手で叩いた。紐状になって左手から垂れ下がった。
「さあて、どうやって縛ってやろうかしら?」ミュウミュウはムハンマイドを見て微笑む。しかし、目は笑っていない。「ふん! 天才だか何だか知らないけど、生きる大変さを知らないヤツは、こんな程度よね!」
ミュウミュウはムハンマイドの両足首を縛った。まだ紐は余っている。ミュウミュウはムハンマイドを乱暴に蹴って仰向けにした。落下の際に顔を打ったのだろう、擦り傷と鼻血に埃が付着し、顔中が汚れている。うっすらと意識はあるのだろうか、唸り続けている。
「あらあら、汚いし動物みたいに唸るしで、良い男が台無しじゃない」ミュウミュウは小馬鹿にしたように笑う。「でも、その方が、あなたにはお似合いよ、情けないボクちゃん!」
ミュウミュウはムハンマイドの両手首も縛った。紐を叩く。紐はきつく締まった。それが痛かったのか、ムハンマイドは大きな唸り声を上げた。ミュウミュウは楽しそうに笑った。
そこへ、ハービィが降りて来た。倒れて拘束されているムハンマイドの傍らに立った。今はムハンマイドに従っているので、後に着いて来たと言った態だ。ハービィはムハンマイドの様子には無頓着で、黙って立っている。
「あら、ハービィ、ちょうど良いわ」ミュウミュウはハービィを見る。「ムハンマイドをジェシルの所まで運んでほしいのよ」
「それくらいでしたならば、かしこまりましてございますです」
ハービィは言うと、両手にぶら下げている道具袋を、ミュウミュウに差し出した。かなり重そうだ。
「ちょっと、ハービィ、それってどう言う意味? わたしに袋を持てって言うの?」
「わがはいは腕が二本しかない。両手で袋を持っていては、ムハンマイドは運べない。だから、袋を持ってもらわなければならないのでありますです」
「さっきみたいに首から下げりゃあ良いじゃない?」
「それは出来ませんです」
「……じゃあ、ここに袋を置いて、ムハンマイドを運んでから取りに戻れば良いじゃない」
「それは、わがはいの権限の範疇ではない。わがはいは、今はムハンマイドに従っている。ムハンマイドが道具袋を首に下げろと言ったので下げたのでありますです。でも、今の指示は道具袋を持てに変更された。持てと言われたきりで、下ろしても良いとは言われていないのでありますです」
「わたしが下しても良いって言っているのよ?」
「わがはいは、ミュウミュウに従うようにとは、決められていないのでありますです」
「でも、ムハンマイドを運んでくれるんでしょ?」
「その程度の軽微なお手伝いするが、それ以上は出来ないのでありますです」
「わたしに従うようにさせるのは、誰が決めるのよ!」
「オーランド・ゼムでありますです」
ハービィはそう言うと、道具袋をミュウミュウに差し出したまま動かなくなった。
「ちょっと、ハービィ! ……まったく、もうっ!」ミュウミュウはうんざりした顔をして、舌打ちをする。「融通の利かないポンコツ野郎め!」
ミュウミュウはハービィをそのままにして、オーランド・ゼムの元に戻る。
「どうしたのだね?」オーランド・ゼムはミュウミュウの顔を見て言う。「そんなにむすっとして?」
「ハービィがね、言う事を聞いてくれないのよ。わたしに従うように言われていないとか言って!」
「ははは!」オーランド・ゼムは愉快そうに笑う。「言っただろう? ハービィは嘘が言えない正直者なのだよ」
「程と言うものがあるわ! あんな旧式なポンコツは願い下げよ!」
「まあ、そう言わないでくれたまえ。それで行くと、わたしも旧式なポンコツになってしまう」
「あら……」ミュウミュウは微笑むと、オーランド・ゼムの腕に自分の腕を絡める。「あなたは別よ……」
「ははは、嬉しい事を言ってくれるね」
二人は話をしながらハービィの所に向かう。ハービィは相変わらず動かずに立っている。
「……じゃあ、ハービィ……」オーランド・ゼムはハービィの前に立つと話しかける。「道具袋を置いて、ムハンマイド君をジェシルの所まで運んでくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」
ハービィは答えると、道具袋を地面に置いた。重さで袋は少し地面にめり込んだ。
「何よ、ハービィ! こんな重たいものをわたしに持たせるつもりだったの!」
ミュウミュウは文句を言ったが、ハービィは答えず、仰向けになっているムハンマイドの縛られた足首をつかんで引き摺り始めた。
「おいおい、引き摺っちゃいけないよ」オーランド・ゼムは言う。「肩に担いで運んでくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」
ハービィは、ムハンマイドをひょいと肩に担ぐと、がちゃがちゃと足音高くジェシルの方へと進んで行った。
「何よ、あのポンコツ!」ミュウミュウはぷりぷり怒っている。「ハービィのくせに生意気よ! 嫌いだわ! ……ねえ、あんなポンコツ、この星に置いて行っちゃいましょうよ。そして、もっと優秀なのを買いましょう? ね、良いでしょ?」
「ははは、考えておくよ……」
オーランド・ゼムは苦笑しながらハービィを見ている。
つづく
「おい! ジェシルに手を出すなと言ったはずだ!」ムハンマイドは宙に留まりながら、オーランド・ゼムを睨む。「どう言うわけなんだ!」
「これをしたのはミュウミュウなのだよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムは言うと、ミュウミュウの肩を軽く叩く。「ミュウミュウに訊いてくれたまえ」
「おい、ミュウミュウ! どう言うつもりだ!」ムハンマイドはミュウミュウを睨む。「さっさと猿轡を外せよ!」
「イヤよ!」ミュウミュウはムハンマイドを見上げ、べえと舌を出して見せた。「ジェシルは口数が多すぎるわ。だから黙っていてもらうのよ」
「ふざけた事を言っているんじゃないぞ!」ムハンマイドは言うと、隣に居るハービィが両手でぶら下げている道具袋からハンマーを取り出した。「このハンマーはデラノス鉄で出来ている。このハンマーは、軽く叩いても強い衝撃が伝わる。これで修理した所をぶん殴るってやる。そうすれば、修理個所は破壊され、この宇宙船は永遠に飛べない!」
ムハンマイドは言うと、ジェットを噴射して上昇を始めた。と、左腰のジェット推進装置が吹き飛んだ。バランスを崩したムハンマイドは、悲鳴を上げながら、くるくると回転しながら落ちて来る。やがて大きな音と共にムハンマイドは地面に落ちた。
ミュウミュウの右手に熱線銃が握られていた。
「ほう、ミュウミュウ、君の射撃の腕は大したものだ……」オーランド・ゼムは感心する。「あの小さなジェット推進装置に当てるとはねぇ……」
「いいえ、外れだわ!」ミュウミュウは、残忍な笑みを浮かべた顔を、オーランド・ゼムに向ける。「わたしは、ムハンマイドの右腕を狙ったのよ」
ミュウミュウは言うと、銃を呆れた顔をしたオーランド・ゼムに預け、倒れているムハンマイドに向かう。ムハンマイドはうつ伏せになって呻いている。
「あら、まだ生きているんだ……」ミュウミュウは笑む。「そうでなくっちゃね。生意気なボクちゃんには、たっぷりとお仕置きをしなきゃいけないから」
ミュウミュウは左手に持っている立方体を右手で叩いた。紐状になって左手から垂れ下がった。
「さあて、どうやって縛ってやろうかしら?」ミュウミュウはムハンマイドを見て微笑む。しかし、目は笑っていない。「ふん! 天才だか何だか知らないけど、生きる大変さを知らないヤツは、こんな程度よね!」
ミュウミュウはムハンマイドの両足首を縛った。まだ紐は余っている。ミュウミュウはムハンマイドを乱暴に蹴って仰向けにした。落下の際に顔を打ったのだろう、擦り傷と鼻血に埃が付着し、顔中が汚れている。うっすらと意識はあるのだろうか、唸り続けている。
「あらあら、汚いし動物みたいに唸るしで、良い男が台無しじゃない」ミュウミュウは小馬鹿にしたように笑う。「でも、その方が、あなたにはお似合いよ、情けないボクちゃん!」
ミュウミュウはムハンマイドの両手首も縛った。紐を叩く。紐はきつく締まった。それが痛かったのか、ムハンマイドは大きな唸り声を上げた。ミュウミュウは楽しそうに笑った。
そこへ、ハービィが降りて来た。倒れて拘束されているムハンマイドの傍らに立った。今はムハンマイドに従っているので、後に着いて来たと言った態だ。ハービィはムハンマイドの様子には無頓着で、黙って立っている。
「あら、ハービィ、ちょうど良いわ」ミュウミュウはハービィを見る。「ムハンマイドをジェシルの所まで運んでほしいのよ」
「それくらいでしたならば、かしこまりましてございますです」
ハービィは言うと、両手にぶら下げている道具袋を、ミュウミュウに差し出した。かなり重そうだ。
「ちょっと、ハービィ、それってどう言う意味? わたしに袋を持てって言うの?」
「わがはいは腕が二本しかない。両手で袋を持っていては、ムハンマイドは運べない。だから、袋を持ってもらわなければならないのでありますです」
「さっきみたいに首から下げりゃあ良いじゃない?」
「それは出来ませんです」
「……じゃあ、ここに袋を置いて、ムハンマイドを運んでから取りに戻れば良いじゃない」
「それは、わがはいの権限の範疇ではない。わがはいは、今はムハンマイドに従っている。ムハンマイドが道具袋を首に下げろと言ったので下げたのでありますです。でも、今の指示は道具袋を持てに変更された。持てと言われたきりで、下ろしても良いとは言われていないのでありますです」
「わたしが下しても良いって言っているのよ?」
「わがはいは、ミュウミュウに従うようにとは、決められていないのでありますです」
「でも、ムハンマイドを運んでくれるんでしょ?」
「その程度の軽微なお手伝いするが、それ以上は出来ないのでありますです」
「わたしに従うようにさせるのは、誰が決めるのよ!」
「オーランド・ゼムでありますです」
ハービィはそう言うと、道具袋をミュウミュウに差し出したまま動かなくなった。
「ちょっと、ハービィ! ……まったく、もうっ!」ミュウミュウはうんざりした顔をして、舌打ちをする。「融通の利かないポンコツ野郎め!」
ミュウミュウはハービィをそのままにして、オーランド・ゼムの元に戻る。
「どうしたのだね?」オーランド・ゼムはミュウミュウの顔を見て言う。「そんなにむすっとして?」
「ハービィがね、言う事を聞いてくれないのよ。わたしに従うように言われていないとか言って!」
「ははは!」オーランド・ゼムは愉快そうに笑う。「言っただろう? ハービィは嘘が言えない正直者なのだよ」
「程と言うものがあるわ! あんな旧式なポンコツは願い下げよ!」
「まあ、そう言わないでくれたまえ。それで行くと、わたしも旧式なポンコツになってしまう」
「あら……」ミュウミュウは微笑むと、オーランド・ゼムの腕に自分の腕を絡める。「あなたは別よ……」
「ははは、嬉しい事を言ってくれるね」
二人は話をしながらハービィの所に向かう。ハービィは相変わらず動かずに立っている。
「……じゃあ、ハービィ……」オーランド・ゼムはハービィの前に立つと話しかける。「道具袋を置いて、ムハンマイド君をジェシルの所まで運んでくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」
ハービィは答えると、道具袋を地面に置いた。重さで袋は少し地面にめり込んだ。
「何よ、ハービィ! こんな重たいものをわたしに持たせるつもりだったの!」
ミュウミュウは文句を言ったが、ハービィは答えず、仰向けになっているムハンマイドの縛られた足首をつかんで引き摺り始めた。
「おいおい、引き摺っちゃいけないよ」オーランド・ゼムは言う。「肩に担いで運んでくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」
ハービィは、ムハンマイドをひょいと肩に担ぐと、がちゃがちゃと足音高くジェシルの方へと進んで行った。
「何よ、あのポンコツ!」ミュウミュウはぷりぷり怒っている。「ハービィのくせに生意気よ! 嫌いだわ! ……ねえ、あんなポンコツ、この星に置いて行っちゃいましょうよ。そして、もっと優秀なのを買いましょう? ね、良いでしょ?」
「ははは、考えておくよ……」
オーランド・ゼムは苦笑しながらハービィを見ている。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます