「何だってぇぇぇ!」ガルベスは大声を上げ、アーセルを見る。「……おい、じいさん、本当なんだろうな?」
「オレが逃げ出さねぇで、ここに居るって事を考えりゃあ、嘘か本当かわかるってもんだろうがよう!」アーセルは怒鳴る。「そんな事がすぐに分かんねぇから、お前ぇにゃあシマを譲れねぇって言うんでぇ!」
「……そうかい、床下かい……」ガルベスは喚くアーセルを無視して、足元の絨毯を見つめる。「こんな所にお宝が眠っていやがったとはなぁ……」
「だからよう! さっさと絨毯をひっ剥がせって言ってんだ!」アーセルは言うと、ノラを指さす。「だからよう、あんな娘っ子に関わってんじゃねぇよ!」
ガルベスはノラを見る。ノラはすっと身構える。しかし、ガルベスは視線をアーセルに向けた。そしてにやりと笑う。アーセルもそれに応えるように、にやりと笑う。悪党同士、意見の一致が見られたようだ。
「……まあ、それもそうだな……」ガルベスは大仰にうなずいて見せた。「それじゃあよ、絨毯をひっ剥がすからよ、お宝を分けてくれよな」
「仕方ねぇなぁ……」アーセルは機嫌が良い。「だがよ、取り分はオレの方が多くさせてもらうぜぇ」
「欲張りじいさんだなぁ、おい」
二人は「ひっひっひ!」「ふあっふあっふあっ!」と不気味な笑い声を上げる。
「ちょっとぉ!」ノラがむっとした表情で割り込む。「わたしは、どうするつもりよう!」
「何でぇ、小娘?」ガルベスが面倒くさそうにノラを見る。「お前ぇは後で相手してやる。それまで大人していやがれ!」
「そうだそうだ!」アーセルもうなずく。「娘っ子は大人しく順番を待っていやがれってんだ!」
「おう、ねえちゃんたち!」ガルベスは部屋の隅で手を取り合ったままのエリスとダーラに向かって言う。「二人で小娘を押さえていろ」
エリスとダーラは急ぎ足でノラの所まで行き、ノラを間に挟むように立つと、ノラの腕を左右からつかんだ。
「ノラ…… お願い、暴れないでね」エリスが小声で言う。「わたしたちじゃ、あなたには敵わないけど、あなたが暴れると、わたしたちの命が危険になるわ……」
「そう言う事よ……」ダーラもうなずく。「本当は、あなたとガルベスさんを二人っきりにするのが心配になっちゃって、ガルベスさんについて来たんだけど、こんな事になっちゃって……」
「あら、ガルベスさん次第なんて言ってウインクまでしてたのに」ノラがダーラを見る。腕に入れていた力を抜いた。「なんだかんだ言って、心配してくれたのね。……分かったわ。あなたたちの命と友情に為に、大人しくしているわ」
エリスとダーラはほっと息をついた。……まあ、仕方がないわね。内心のジェシルは思った。
「それでよう、じいさんよう!」ガルベスがアーセルに言う。やたらと声が大きい。「お宝はどの辺にありやがるんでぇ?」
「おいおい、そんなにはしゃぐんじゃねぇよ、ガキじゃねぇんだからよう」アーセルが呆れ顔で言う。「それによう、オレの年寄なもんでなぁ、しかも、こう絨毯を敷き詰められて、あれこれ位置が変わっちまっちゃあ、良く分からねぇ」
「何でぇ、偉そうな事をぬかしてやがったくせに、結局は、耄碌してたのかい?」ガルベスは小馬鹿にしたように言う。「まあ、良いや……」
ガルベスは言うと、足元にしゃがみ込み、絨毯の上に両手を乗せる。
「おい、何をやろうってんでぇ?」アーセルはガルベスを訝しそうな顔で見る。「でんぐり返しでもやろうってぇのか? いくら何でもはしゃぎ過ぎだぜぇ?」
「ひっひっひ、まあ、見ていろや」
ガルベスはそう言うと、絨毯に乗せた手で絨毯を握りしめ始めたのだ。べりべりと絨毯の裂ける音がする。裂けて穴の開いた所をつかみ直し、勢い良く立ち上がる。ガルベスがつかんだ幅で絨毯の裂け目が音と共に前方へと走って行く。途中にあるソファが傾いて倒れた。裂け目はそれにひるむことなく壁まで走り続けて、止まった。
「……相変わらずの馬鹿力だなぁ、おい……」アーセルが呆れながら、ガルベスが持ち上げている絨毯の下のテラト合金の床を覗く。そして、ガルベスに振り返り、頭を左右に振る。「……ここじゃ無ぇな」
「何だとぉ!」ガルベスは絨毯を放す。大量の埃が舞う。「じいさんが、ここだって面ぁしやがるから、やったんじぇねぇかよう!」
「そんな事を言ったってよう、ここじゃ無ぇんだ」アーセルは、怒るガルベスを平然とした顔で見る。「ここじゃ無ぇんだよ!」
「じゃあ、どこなんだ?」ガルベスは怒鳴る。「じいさんよう、どこだって言うんでぇ!」
「さっきも言ったじゃねぇか? 良く分からねぇってよう!」アーセルも怒鳴り返す。「こんなに模様替えされちゃあよう! 全然さっぱりだぜぇ!」
「じゃあ、どうしろってんでぇ!」
「そんな事も分からねぇのか? だからお前ぇにはシマは譲れねぇってんだ」アーセルが馬鹿にしたように言う。「簡単な事じゃねか? 絨毯をひっ剥がし続けりゃあ良いんだよ!」
「……クソじじいめがぁ……」
「そんな悪態をつく暇があるんなら、他の所を剥がしやがれ! そのうち思い出すかもしれねぇし、先に隠し場所が見つかるかもしれねぇぜぇ」
ガルベスはアーセルを睨み付けながら、裂いた絨毯の隣の部分も同じようにした。調度品が転がる。剥き出しになった床をアーセルが覗き込む。期待している顔のガルベスに向き直ると、頭を左右に振って見せた。
「……ここでも無ぇ……」アーセルは呟いて部屋の中を見回す。「お宝はどこだったか…… なにしろ、すっかり変わっちまったからなぁ……」
「じゃあ何か!」ガルベスが怒鳴る。だが、肩で息をしているので、迫力が無い。絨毯剥がしは馬鹿力のガルベスでも重労働のようだ。「もっと剥がさねぇと分かんねぇって言うのかよう!」
「さっきも言ったじゃねぇか? 覚えていねぇのか? オレより若ぇのに、オレより先にボケちまってんのか?」アーセルは小馬鹿にする。「そのうち思い出すかもしれねぇし、先に隠し場所が見つかるかもしれねぇってよう! ついさっきだぜ、そう言ったのはよう!」
「くっ! うるせぇ!」
ガルベスはそう吐き捨てると、新たに絨毯を裂き始めた。しかし、覗き込むアーセルは首を左右に振る。それを見てガルベスは怒声を張り上げ、次の場所の絨毯を裂く。そして、アーセルは首を左右に振る。ガルベスの荒い息が続く。着ていた上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩め、シャツの袖ボタンを外してめくり上げる。禿げ上がった頭のてっぺんから汗が滴り落ちてくる。
「おい、ガルベスよ。そこいらじゃなくって、向こうだったような気がするぜぇ」
「うるせぇ!」ガルベスはアーセルを睨みつける。「オレ様が先に見つけたら、オレ様が全部頂くからな!」
つづく
「オレが逃げ出さねぇで、ここに居るって事を考えりゃあ、嘘か本当かわかるってもんだろうがよう!」アーセルは怒鳴る。「そんな事がすぐに分かんねぇから、お前ぇにゃあシマを譲れねぇって言うんでぇ!」
「……そうかい、床下かい……」ガルベスは喚くアーセルを無視して、足元の絨毯を見つめる。「こんな所にお宝が眠っていやがったとはなぁ……」
「だからよう! さっさと絨毯をひっ剥がせって言ってんだ!」アーセルは言うと、ノラを指さす。「だからよう、あんな娘っ子に関わってんじゃねぇよ!」
ガルベスはノラを見る。ノラはすっと身構える。しかし、ガルベスは視線をアーセルに向けた。そしてにやりと笑う。アーセルもそれに応えるように、にやりと笑う。悪党同士、意見の一致が見られたようだ。
「……まあ、それもそうだな……」ガルベスは大仰にうなずいて見せた。「それじゃあよ、絨毯をひっ剥がすからよ、お宝を分けてくれよな」
「仕方ねぇなぁ……」アーセルは機嫌が良い。「だがよ、取り分はオレの方が多くさせてもらうぜぇ」
「欲張りじいさんだなぁ、おい」
二人は「ひっひっひ!」「ふあっふあっふあっ!」と不気味な笑い声を上げる。
「ちょっとぉ!」ノラがむっとした表情で割り込む。「わたしは、どうするつもりよう!」
「何でぇ、小娘?」ガルベスが面倒くさそうにノラを見る。「お前ぇは後で相手してやる。それまで大人していやがれ!」
「そうだそうだ!」アーセルもうなずく。「娘っ子は大人しく順番を待っていやがれってんだ!」
「おう、ねえちゃんたち!」ガルベスは部屋の隅で手を取り合ったままのエリスとダーラに向かって言う。「二人で小娘を押さえていろ」
エリスとダーラは急ぎ足でノラの所まで行き、ノラを間に挟むように立つと、ノラの腕を左右からつかんだ。
「ノラ…… お願い、暴れないでね」エリスが小声で言う。「わたしたちじゃ、あなたには敵わないけど、あなたが暴れると、わたしたちの命が危険になるわ……」
「そう言う事よ……」ダーラもうなずく。「本当は、あなたとガルベスさんを二人っきりにするのが心配になっちゃって、ガルベスさんについて来たんだけど、こんな事になっちゃって……」
「あら、ガルベスさん次第なんて言ってウインクまでしてたのに」ノラがダーラを見る。腕に入れていた力を抜いた。「なんだかんだ言って、心配してくれたのね。……分かったわ。あなたたちの命と友情に為に、大人しくしているわ」
エリスとダーラはほっと息をついた。……まあ、仕方がないわね。内心のジェシルは思った。
「それでよう、じいさんよう!」ガルベスがアーセルに言う。やたらと声が大きい。「お宝はどの辺にありやがるんでぇ?」
「おいおい、そんなにはしゃぐんじゃねぇよ、ガキじゃねぇんだからよう」アーセルが呆れ顔で言う。「それによう、オレの年寄なもんでなぁ、しかも、こう絨毯を敷き詰められて、あれこれ位置が変わっちまっちゃあ、良く分からねぇ」
「何でぇ、偉そうな事をぬかしてやがったくせに、結局は、耄碌してたのかい?」ガルベスは小馬鹿にしたように言う。「まあ、良いや……」
ガルベスは言うと、足元にしゃがみ込み、絨毯の上に両手を乗せる。
「おい、何をやろうってんでぇ?」アーセルはガルベスを訝しそうな顔で見る。「でんぐり返しでもやろうってぇのか? いくら何でもはしゃぎ過ぎだぜぇ?」
「ひっひっひ、まあ、見ていろや」
ガルベスはそう言うと、絨毯に乗せた手で絨毯を握りしめ始めたのだ。べりべりと絨毯の裂ける音がする。裂けて穴の開いた所をつかみ直し、勢い良く立ち上がる。ガルベスがつかんだ幅で絨毯の裂け目が音と共に前方へと走って行く。途中にあるソファが傾いて倒れた。裂け目はそれにひるむことなく壁まで走り続けて、止まった。
「……相変わらずの馬鹿力だなぁ、おい……」アーセルが呆れながら、ガルベスが持ち上げている絨毯の下のテラト合金の床を覗く。そして、ガルベスに振り返り、頭を左右に振る。「……ここじゃ無ぇな」
「何だとぉ!」ガルベスは絨毯を放す。大量の埃が舞う。「じいさんが、ここだって面ぁしやがるから、やったんじぇねぇかよう!」
「そんな事を言ったってよう、ここじゃ無ぇんだ」アーセルは、怒るガルベスを平然とした顔で見る。「ここじゃ無ぇんだよ!」
「じゃあ、どこなんだ?」ガルベスは怒鳴る。「じいさんよう、どこだって言うんでぇ!」
「さっきも言ったじゃねぇか? 良く分からねぇってよう!」アーセルも怒鳴り返す。「こんなに模様替えされちゃあよう! 全然さっぱりだぜぇ!」
「じゃあ、どうしろってんでぇ!」
「そんな事も分からねぇのか? だからお前ぇにはシマは譲れねぇってんだ」アーセルが馬鹿にしたように言う。「簡単な事じゃねか? 絨毯をひっ剥がし続けりゃあ良いんだよ!」
「……クソじじいめがぁ……」
「そんな悪態をつく暇があるんなら、他の所を剥がしやがれ! そのうち思い出すかもしれねぇし、先に隠し場所が見つかるかもしれねぇぜぇ」
ガルベスはアーセルを睨み付けながら、裂いた絨毯の隣の部分も同じようにした。調度品が転がる。剥き出しになった床をアーセルが覗き込む。期待している顔のガルベスに向き直ると、頭を左右に振って見せた。
「……ここでも無ぇ……」アーセルは呟いて部屋の中を見回す。「お宝はどこだったか…… なにしろ、すっかり変わっちまったからなぁ……」
「じゃあ何か!」ガルベスが怒鳴る。だが、肩で息をしているので、迫力が無い。絨毯剥がしは馬鹿力のガルベスでも重労働のようだ。「もっと剥がさねぇと分かんねぇって言うのかよう!」
「さっきも言ったじゃねぇか? 覚えていねぇのか? オレより若ぇのに、オレより先にボケちまってんのか?」アーセルは小馬鹿にする。「そのうち思い出すかもしれねぇし、先に隠し場所が見つかるかもしれねぇってよう! ついさっきだぜ、そう言ったのはよう!」
「くっ! うるせぇ!」
ガルベスはそう吐き捨てると、新たに絨毯を裂き始めた。しかし、覗き込むアーセルは首を左右に振る。それを見てガルベスは怒声を張り上げ、次の場所の絨毯を裂く。そして、アーセルは首を左右に振る。ガルベスの荒い息が続く。着ていた上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩め、シャツの袖ボタンを外してめくり上げる。禿げ上がった頭のてっぺんから汗が滴り落ちてくる。
「おい、ガルベスよ。そこいらじゃなくって、向こうだったような気がするぜぇ」
「うるせぇ!」ガルベスはアーセルを睨みつける。「オレ様が先に見つけたら、オレ様が全部頂くからな!」
つづく
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