お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 52

2024年07月21日 | ベランデューヌ

「ジャンセンさん!」トランは驚いている。しかし、すぐに状況を呑み込んだようで、大きくうなずいた。「……そうか、アーロンテイシアのメッセンジャーはジャンセンさんだったんですね」
「デスゴンは君たち姉弟だったんだね」ジャンセンは嬉しそうにトランを見る。「デスゴンの正体がマーベラって分かった時点で気付くべきだったなぁ」
「相変わらずのマイペースですねぇ」トランも楽しそうな顔だ。「ジャンセンさんがいるから色々と詳しかったんですね。ぼくは本物のアーロンテイシアとそのメッセンジャーかと思ってました」
「本当にそうだったら、幸運だったわ」マーベラは忌々しそうなジェシルを睨む。「でも、とんだ暴力女だったのよねぇ……」
「姉さん!」トランがマーベラを叱る。「知り合いにこうして逢えただけでも物凄い幸運だよ!」
「まあ、ジャンセンに逢えたのは本当に幸運だけど」マーベラはジャンセンに笑顔を向ける。「連れ合いがいたのは不幸だったわ」
「それはこっちの科白だわ!」ジェシルがマーベラを睨み付ける。「デスゴンに憑りつかれるような悪意の塊は、弟さんには不幸の極みよ!」
「なによ!」
「なによって、なによ!」
 トランはそっとジャンセンの傍に寄る。
「……ジャンセンさん、これは一体……?」
 トランは睨み合っている二人を見て、小声でジャンセンに訊く。
「ま、色々とあってね」ジャンセンも小声でトランに返す。「ぼくは、彼女たちの着ている衣装に神が宿っていると考えているんだよ。戦いが終わっても、まだ神の残留思念が二人に宿っていると思うんだ」
「そうなんですか……」トランは改めて二人を見る。「……でも、それだけじゃ無さそうな…… 何だかジャンセンさんを取り巻いて勃発しているように思えますが……」
「どう言う事?」
「ジャンセンさんは考古学界では若くて才能があって、しかもいい男って評判じゃないですか」
「そうなの?」ジャンセンは驚く。「聞いた事無いけど……」
「ジャンセンさんはその手の話に疎すぎますからねぇ。ぼくは姉さん経由でジャンセンさんにきゃあきゃあ言っている女性たちの話をこれでもかってほど聞かされているんです」
「ふ~ん……」ジャンセンは上の空な返事をする。「まあ、ぼくの研究には関係の無い話だね」
「そんな所がジャンセンさんらしいですね」トランは笑うと、独り言のように言う。「……まあ、最近ではきゃあきゃあ言う男性もいるようですけど……」
「え?」
「いや、何でもないです……」
 慌てているトランを不思議そうな顔で見るジャンセンだったが、思い出したようにマーベラに振り向いた。
「マーベラに訊こうと思っていたんだけど……」ジャンセンは真っ直ぐマーベラを見つめる。マーベラの頬がうっすら染まる。「どうして君やトランがここにいるんだい?」
「あ、そう、その事ね……」
 マーベラは軽く咳払いをし、染まった頬をかき消すように両手で自分両頬を叩いた、ジャンセンは不思議なものを見るような顔になっていた。
「……それを話そうと思っていたら、このジェシルが邪魔し続けてたわけなのよ」マーベラはジェシルに顔を向け、目を細める。「困った話だわ……」
 ジェシルはマーベラに近寄ろうとする。ジャンセンはジェシルの右腕をつかんで制した。ジェシルはジャンセンを睨む。

 

つづく

 



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