お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 50

2024年07月19日 | ベランデューヌ

「マーベラ…… マーベラ・トワットソンはね」ジャンセンは二人のやり取りに気がついておらず、説明を続ける。「ぼくと同じ、考古学者だよ。仲間だ」
「考古学者……?」
 ジェシルは言いながら、訝しそうな眼差しでマーベラを見る。ジャンセンが「仲間」と言った時、勝ったと言うような表情をしたマーベラに腹が立つ。
「そんなお仲間さんが、どうしてこんな所に?」
「彼女は基本フィールドワークが中心で、文献や伝承の真偽を現地調査するんだ」ジャンセンはジェシルの質問には答えていない。それも腹が立つ。「優秀な考古学者なんだよ」
「ああ、そうなの」ジェシルは素っ気なく答える。ジャンセンが「優秀」と言った時、再び勝ったと言うような表情をしたマーベラにさらに腹が立つ。「それで、わざわざ、ここまで現
地調査に来たって言うの? そんな事したせいで、デスゴンに憑りつかれちゃったって言うの?」 
「そんなわけないじゃない!」マーベラが呆れた顔をしてジェシルに答え、そしてジャンセンに顔を向ける。「ジャンセン、彼女って何なの? 見た目は確かにアーロンテイシアって感
じだけど、聡明さに欠けているわね」
「何ですってぇ!」
 ジェシルが大きな声を上げた。民たちは畏れて両手の平を上に向け、頭を下げる。
「あらあら、みんな怖がっているじゃない」マーベラが小馬鹿にしたように言う。「アーロンテイシアは慈愛に満ちた神なのよ。あなたじゃ真逆だわ」
「うるさいわねぇ! デスゴンに気に入られたあなたに言われたくないわ!」ジェシルは腰の熱線銃に手を伸ばす。「それに、わたしは好きでここへ来たわけじゃないわ! ジャンがわ
たしの屋敷に来たせいなんだから!」
「ジャン……って、随分と馴れ馴れしいわね。あなたこそ何なのよ!」
「それはこっちの科白よ!」
「あのさ……」
 ジャンセンの声が聞こえると、二人はむっとしたままの顔をジャンセンに向けた。ジャンセンは珍しいものを見るような顔をする。
「……順番に説明するよ」ジャンセンが言うと軽く咳払いをし、マーベラに話し始める。「ジェシルはぼくの従姉妹で、宇宙で一番古い貴族の直系で現当主だ。ジェシルが住んでいる屋
敷の地下に考古学上の貴重な品々があると分かって、調査をしていたんだよ」
「その直系貴族の話、聞いたことがあるわ」マーベラはジェシルを見る。「噂じゃ、宇宙パトロールで大暴れしているんだってね? お屋敷も好き勝手に改装しているとか?」
「それがどうしたって言うのよ!」ジェシルはマーベラを見る。「わたしの家なんだから、わたしがどうしたって構わないじゃないのよ!」
「歴史の価値を知らない者って憐れだわ……」
「ジャン! 何なのよ、この女はぁ!」
「だから、マーベラ・トワットソン、優秀な考古学者で、ぼくの仲間だよ」ジャンセンにジェシルの怒りは伝わっていないようだ。「でも、彼女、ぼくがジェシルの屋敷を訪ねるしばら
く前に行方不明になってしまっていたんだよ。彼女の弟のトランと一緒にね」
「えっ……?」ジェシルは驚いた顔をマーベラに向ける。「……でも、宇宙パトロールに捜索願は出ていなかったと思うけど?」
「まあね」ジャンセンは平然と答える。「ぼくたちは、マーベラがまた何か情報をつかんで、勝手に出掛けたんだと思っていたんだよ」
「随分と傍迷惑な学者なのね」ジェシルはイヤそうな顔でマーベラを見る。「出掛ける前に行先を伝えておくなんて常識も知らないのかしら?」
「良くある事だったからさ。だから抛っておいたんだ」
「だらしないわねぇ……」ジェシルは蔑んだ眼差しをマーベラに向ける。「ジャンと言い、学者って社会不適合者ばかりなのね!」
「そうだなぁ……」ジャンセンは腕組みをして考え込んだ。「あながち間違ってはいないかなぁ……」
「あなたねぇ……」マーベラがジェシルに向かって一歩前に出る。「ジャンセンは宇宙の考古学者が認める優秀な学者なのよ! そんな彼を、つまらない事で悩ませないで!」
「つまらないって、何よ!」ジェシルも一歩前に出る。「わたしは、はっきり言って被害者なのよ!」
「な~にが被害者よ!」マーベラは抗議する様にちょっと目を細める。「被害者がアーロンテイシアの衣装なんて着ないわよ! ジャンセンが無理やり着せるわけないわ! 自分で着た
んでしょ?」
「なっ……」痛い所をつかれ、ジェシルは絶句する。しかし、すぐにイヤそうな顔をして見せる。「あなただって、デスゴンの衣装じゃない! 弟さんに着せられたのかしら? そんな
変わった弟さんを持っているの?」
「トランを悪く言わないでよ!」
「じゃあ、その格好は自分からしたんでしょ? あんなへんてこりんな仮面まで付けちゃってさ!」
「……あ、そうだ、そうだよ、そうなんだよ!」
 突然、ジャンセンが大きな声を上げた。ジェシルとマーベラは驚いてジャンセンを見る。
「訊くのを忘れていたんだけどさ」ジャンセンは真剣な顔をしてマーベラに向き直る。「君はどうしてデスゴンの格好をしているんだい?」

 

つづく



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