翌朝、さとみは通学路をてこてこと歩いている。
「さとみぃ!」
背後からの呼びかけにさとみが振り返ると、麗子が立っていた。
麗子は、心霊話のあった夜は、自分の部屋で壁に背をぴったりつけて、やや大きめの音で好きなアイドルの曲を流して、一睡もしないと言うのが、お決まりだった。なので、そう言う話のあった翌朝は目の下に隈を作り、虚ろな眼差しをしているのが常だった。
しかし、今朝は、妙にすっきりとした表情だった。
「麗子……」さとみが驚いている。「どうしたの? 昨日の今日だって言うのに……」
昨日、学校の怪現象のヒントとなる封印の話を麗子に訊いたさとみだった。麗子はイヤな顔をし青褪めた顔もしていた。当然、徹夜したと思ったのに……
「わたしね、もう怖がるのをやめたのよ」麗子が胸を張る。「もうね、開き直る事にしたの。だって、居るものは居るんだし、出るものは出るんだし。びくびくおどおどしていても仕方がないじゃない?」
「ふ~ん……」さとみは感心したようだ。「じゃあ、もう『弱虫麗子』って言えないんだ……」
「そうよ! 絶対に言わせないわ!」麗子はドヤ顔を決める。「これからは『霊感美少女 麗子』って呼ぶ事ね」
「でも、麗子に霊感は無いんじゃない?」
「良いの! 『霊感美少女』って言うのが良いんじゃないの!」麗子は『美』を強調して言う。「本当の霊感はさとみに任せるわ」
「なんだ、そりゃ?」
二人は笑いながら登校する。校門に松原先生が立っていた。さとみと麗子を認めると、小走りに近づいてきた。
「先生、おはようございます!」さとみは朝の挨拶をする。「今日はどうしたんですか?」
「いや、百合恵さんからちょっと話を聞いてな」松原先生はぽりぽりと頭を掻く。「綾部、お前、色々と大丈夫なのか?」
「はい、まあ、何とか……」さとみは答える。「とにかく、今は屋上に行かない事が一番の方法なんです」
「そうか……」
「あら、先生、さとみが心配なんですか?」麗子がからかい気味に言う。「そうか、百合恵さんにお願いされたんですね?」
「ははは、ばれたか……って、そんな笑い話に出来るようなものじゃ無さそうだってなぁ。百合恵さんが言っていたよ……」
「そうですか……」松原先生の心配そうな顔を見ながら、さとみは言う。「まあ、わたしも気を付けます」
「そうだな。何しろ、霊の世界には興味関心はあるけど、実際には何もできないからなぁ……」
「でも、理解してくれる人がいるの力強いです」
さとみは言うと、ぺこりと頭を下げた。
「会長!」
アイの声がした。振り向くと、アイが朱音としのぶを左右に従えて駈けて来た。ぴたりとさとみの前で止まると、三人は同時に直角にからだを曲げた。
「おはようございますぅぅぅぅ!」
通学中の皆が驚いて振り返るほどの大きな声で、三人同時に挨拶をし、挨拶を終えると同時にからだを戻した。
「昨日、百合恵姐さんから色々と訊かれました」アイが言う。「お話しした事、役に立ったでしょうか?」
「ええ、とっても」さとみはうなずく。「麗子からも話を聞いたし、後は、これからどうするかってところね」
「会長、アイ先輩から聞いた話から察するに、それって、封印が破られたって事ですか?」しのぶが目をきらきらさせながら訊いて来る。その隣では朱音も目をきらきらさせている。「そこの所、詳しく!」
「それって……」アイが言う。「わたしが屋上で見た、さゆりって言う、あの変な女の幽霊が関係しているんですか?」
「そうね」さとみは答える。「わたしはまだ会ってはいないんだけど、会うととっても危険なんだって」
「でしょうね」アイがうなずく。「会長の名前を呼んで、邪魔するなって抜かしていましたからね」
「アイ先輩、怖くないんですか?」朱音が心配そうな顔で訊く。「先輩、その…… ひどい目に遭ったから……」
「ははは、舎弟は会長の代わりになれた事が誇らしいものなんだ」アイは笑う。「怖くなんかないのさ。……まあ、ほんのちょっとだけ、そう思うけどな」
「良かったぁ……」朱音がほっとしたように言う。「アイ先輩も人間だったんですね!」
「おい!」アイが朱音を怒鳴る。「お前は、わたしを何だと思っていたんだぁ?」
朱音がきゃいきゃいと楽しそうに飛び跳ねる。つられてしのぶも飛び跳ねる。 アイと麗子は呆れた顔で二人を見ている。
「あ、そうだ……」松原先生がさとみに話す。「午後に片岡さんが学校に見えるそうだ」
「学校に……?」さとみは怪訝な顔をする。しかし、すぐに思い当たった。「封印についてね……」
「まあ、詳しい事は分からないけど、百合恵さんと一緒に来るそうだ」松原先生が言う。「だから、ボクも立ち会う事にするよ」
朝の予鈴が鳴った。さとみたちは慌てて駈け出した。
つづく
「さとみぃ!」
背後からの呼びかけにさとみが振り返ると、麗子が立っていた。
麗子は、心霊話のあった夜は、自分の部屋で壁に背をぴったりつけて、やや大きめの音で好きなアイドルの曲を流して、一睡もしないと言うのが、お決まりだった。なので、そう言う話のあった翌朝は目の下に隈を作り、虚ろな眼差しをしているのが常だった。
しかし、今朝は、妙にすっきりとした表情だった。
「麗子……」さとみが驚いている。「どうしたの? 昨日の今日だって言うのに……」
昨日、学校の怪現象のヒントとなる封印の話を麗子に訊いたさとみだった。麗子はイヤな顔をし青褪めた顔もしていた。当然、徹夜したと思ったのに……
「わたしね、もう怖がるのをやめたのよ」麗子が胸を張る。「もうね、開き直る事にしたの。だって、居るものは居るんだし、出るものは出るんだし。びくびくおどおどしていても仕方がないじゃない?」
「ふ~ん……」さとみは感心したようだ。「じゃあ、もう『弱虫麗子』って言えないんだ……」
「そうよ! 絶対に言わせないわ!」麗子はドヤ顔を決める。「これからは『霊感美少女 麗子』って呼ぶ事ね」
「でも、麗子に霊感は無いんじゃない?」
「良いの! 『霊感美少女』って言うのが良いんじゃないの!」麗子は『美』を強調して言う。「本当の霊感はさとみに任せるわ」
「なんだ、そりゃ?」
二人は笑いながら登校する。校門に松原先生が立っていた。さとみと麗子を認めると、小走りに近づいてきた。
「先生、おはようございます!」さとみは朝の挨拶をする。「今日はどうしたんですか?」
「いや、百合恵さんからちょっと話を聞いてな」松原先生はぽりぽりと頭を掻く。「綾部、お前、色々と大丈夫なのか?」
「はい、まあ、何とか……」さとみは答える。「とにかく、今は屋上に行かない事が一番の方法なんです」
「そうか……」
「あら、先生、さとみが心配なんですか?」麗子がからかい気味に言う。「そうか、百合恵さんにお願いされたんですね?」
「ははは、ばれたか……って、そんな笑い話に出来るようなものじゃ無さそうだってなぁ。百合恵さんが言っていたよ……」
「そうですか……」松原先生の心配そうな顔を見ながら、さとみは言う。「まあ、わたしも気を付けます」
「そうだな。何しろ、霊の世界には興味関心はあるけど、実際には何もできないからなぁ……」
「でも、理解してくれる人がいるの力強いです」
さとみは言うと、ぺこりと頭を下げた。
「会長!」
アイの声がした。振り向くと、アイが朱音としのぶを左右に従えて駈けて来た。ぴたりとさとみの前で止まると、三人は同時に直角にからだを曲げた。
「おはようございますぅぅぅぅ!」
通学中の皆が驚いて振り返るほどの大きな声で、三人同時に挨拶をし、挨拶を終えると同時にからだを戻した。
「昨日、百合恵姐さんから色々と訊かれました」アイが言う。「お話しした事、役に立ったでしょうか?」
「ええ、とっても」さとみはうなずく。「麗子からも話を聞いたし、後は、これからどうするかってところね」
「会長、アイ先輩から聞いた話から察するに、それって、封印が破られたって事ですか?」しのぶが目をきらきらさせながら訊いて来る。その隣では朱音も目をきらきらさせている。「そこの所、詳しく!」
「それって……」アイが言う。「わたしが屋上で見た、さゆりって言う、あの変な女の幽霊が関係しているんですか?」
「そうね」さとみは答える。「わたしはまだ会ってはいないんだけど、会うととっても危険なんだって」
「でしょうね」アイがうなずく。「会長の名前を呼んで、邪魔するなって抜かしていましたからね」
「アイ先輩、怖くないんですか?」朱音が心配そうな顔で訊く。「先輩、その…… ひどい目に遭ったから……」
「ははは、舎弟は会長の代わりになれた事が誇らしいものなんだ」アイは笑う。「怖くなんかないのさ。……まあ、ほんのちょっとだけ、そう思うけどな」
「良かったぁ……」朱音がほっとしたように言う。「アイ先輩も人間だったんですね!」
「おい!」アイが朱音を怒鳴る。「お前は、わたしを何だと思っていたんだぁ?」
朱音がきゃいきゃいと楽しそうに飛び跳ねる。つられてしのぶも飛び跳ねる。 アイと麗子は呆れた顔で二人を見ている。
「あ、そうだ……」松原先生がさとみに話す。「午後に片岡さんが学校に見えるそうだ」
「学校に……?」さとみは怪訝な顔をする。しかし、すぐに思い当たった。「封印についてね……」
「まあ、詳しい事は分からないけど、百合恵さんと一緒に来るそうだ」松原先生が言う。「だから、ボクも立ち会う事にするよ」
朝の予鈴が鳴った。さとみたちは慌てて駈け出した。
つづく
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