さとみが聞き返す前に、えぐえぐ泣いていた女が急に立ち上がり、竜二に胸座をつかんだ。
「あなた、知ってるのね! 教えてちょうだい! わたしは誰なの? どうしてここに居るの? ねえ、黙ってないで、早く教えてよう!」
つかんだ胸座を激しく揺する。竜二の頭ががくがくと前後に揺れる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったあ!」
竜二は溜まらず、女の両肩を強くつかむ。女の動きが止まった。我に返ったように、慌てて胸座から手を放す。
「いいかい、お嬢さん・・・」乱れたシャツとリーゼントを直しながら、竜二は気取った声を出す。「そんなに揺すられちゃ、話したくても話せないじゃないか」
「ごめんなさい・・・」女は頭を下げた。上げた顔には涙の筋が出来ていた。「わたし、気がついたらこんな所で、こんな恰好で・・・」
女は声を上げて泣き出した。また座り込んでしまった。
竜二は困ったような表情で、さとみを見た。
さとみは竜二を手招きした。途端に竜二はさとみのすぐ目の前に現れた。軽い悲鳴を上げて、さとみは尻もちをついてしまった。
「何やってんのよう!」さとみはふくれっ面をしながら、立ち上がった。「湧いて出る方法を、少しは考えてやってもらいたいわね!」
「だってさ、さとみちゃんに手招きされるなんて、思わずワクワクしちゃうよ」
へらへら笑いながら言う竜二に、反省の色は全くない。さとみは溜め息をついた。
「・・・で?」さとみは竜二をにらみつけながら聞く。「どうだったの?」
「このお嬢さんの事かい?」
「当たり前じゃないの! 他に聞くことなんて、ひとっつもないじゃない!」
「・・・やれやれ、冷たいんだねえ・・・」
竜二は両腕を大袈裟に広げてみせた。呆れた様子を気取ってやっているのだが、さとみには全く通用していない。諦めて竜二は腕を下ろし、話し始めた。
昨夜、この辺をふわふわと漂っていた時の事。身動きの取れない権吉じいさんをからかってやろうかと思い、この公園にやってきた。
時間がかなり遅かったのか、誰も居なかった。こんなに静かだと、権吉じいさん、眠っちまっているんじゃなかろうか。それならば、そっと近づいて脅かしてやれ。どうせビックリしたって、死ぬ事はない。
にたにた笑いながら、竜二はそっと音を立てないように気をつけながら(実際、音が立つわけがないのだが)、公園の中央にある、権吉じいさんの蹲っている大木に、背後から近寄り始めた。
突然、背後で音がした。枝が折れるような音だ。
竜二は驚いて思わず飛び上がった(実際、浮いているので飛び上がれるわけはないのだが)。それから、慌てて地面に伏せた。
二つ折りになった白いものが宙を漂っている。恐怖に叫びだしそうになる口を必死に押さえた。
その白いものがいきなり地面に落ちた。それは動く事はなかった。
しばらくすると、また、枝が折れるような音がし、それきり音はなくなった。
「・・・で、ほとぼりが冷めた頃合いを見計らって、恐る恐る、その白いものに近づいたんだよねえ。そしたらさ・・・」
「それがあの女の人だった、って言うんでしょ?」
「そう! その通り!」竜二は驚いたような顔をして見せた。「さすが、さとみちゃん! 俺達が見えるだけじゃないんだねえ! 霊感が上がったのかなあ?」
「あのねえ・・・」さとみはうんざりした表情をして見せた。「そんな事は、あなた意外なら、み~んな分かることなのよ!」
「ふ~ん、そうなんだあ。霊感が上がったんじゃないんだあ」
竜二は暢気そうにそう言うと、唇を尖らせた。
「・・・それで」さとみは爆発寸前の自分を無理矢理押さえ込んで聞いた。「それで、どうなの?」
「へっ?」とぼけた顔で竜二が聞き返す。「どうって、なにが?」
「・・・二つ折りになっていたってことは、この女の人を肩に担いできた人物がいるって事でしょ? 女の人を担ぐなんて、きっと男の人なんじゃないかな?」
「な~るほど!」竜二は然りとばかりに手を叩く。「さとみちゃんって、名探偵だねえ! それで?」
「・・・だから、どんな人だったの? 担いできた男の人って?」
「う~ん・・・」竜二は腕組みをして考え込んだ。「真っ暗だったし、そこまで考えが回らなかったし、何よりも怖ろしかったからなあ・・・」
さとみは爆発した。
つづく
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「あなた、知ってるのね! 教えてちょうだい! わたしは誰なの? どうしてここに居るの? ねえ、黙ってないで、早く教えてよう!」
つかんだ胸座を激しく揺する。竜二の頭ががくがくと前後に揺れる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったあ!」
竜二は溜まらず、女の両肩を強くつかむ。女の動きが止まった。我に返ったように、慌てて胸座から手を放す。
「いいかい、お嬢さん・・・」乱れたシャツとリーゼントを直しながら、竜二は気取った声を出す。「そんなに揺すられちゃ、話したくても話せないじゃないか」
「ごめんなさい・・・」女は頭を下げた。上げた顔には涙の筋が出来ていた。「わたし、気がついたらこんな所で、こんな恰好で・・・」
女は声を上げて泣き出した。また座り込んでしまった。
竜二は困ったような表情で、さとみを見た。
さとみは竜二を手招きした。途端に竜二はさとみのすぐ目の前に現れた。軽い悲鳴を上げて、さとみは尻もちをついてしまった。
「何やってんのよう!」さとみはふくれっ面をしながら、立ち上がった。「湧いて出る方法を、少しは考えてやってもらいたいわね!」
「だってさ、さとみちゃんに手招きされるなんて、思わずワクワクしちゃうよ」
へらへら笑いながら言う竜二に、反省の色は全くない。さとみは溜め息をついた。
「・・・で?」さとみは竜二をにらみつけながら聞く。「どうだったの?」
「このお嬢さんの事かい?」
「当たり前じゃないの! 他に聞くことなんて、ひとっつもないじゃない!」
「・・・やれやれ、冷たいんだねえ・・・」
竜二は両腕を大袈裟に広げてみせた。呆れた様子を気取ってやっているのだが、さとみには全く通用していない。諦めて竜二は腕を下ろし、話し始めた。
昨夜、この辺をふわふわと漂っていた時の事。身動きの取れない権吉じいさんをからかってやろうかと思い、この公園にやってきた。
時間がかなり遅かったのか、誰も居なかった。こんなに静かだと、権吉じいさん、眠っちまっているんじゃなかろうか。それならば、そっと近づいて脅かしてやれ。どうせビックリしたって、死ぬ事はない。
にたにた笑いながら、竜二はそっと音を立てないように気をつけながら(実際、音が立つわけがないのだが)、公園の中央にある、権吉じいさんの蹲っている大木に、背後から近寄り始めた。
突然、背後で音がした。枝が折れるような音だ。
竜二は驚いて思わず飛び上がった(実際、浮いているので飛び上がれるわけはないのだが)。それから、慌てて地面に伏せた。
二つ折りになった白いものが宙を漂っている。恐怖に叫びだしそうになる口を必死に押さえた。
その白いものがいきなり地面に落ちた。それは動く事はなかった。
しばらくすると、また、枝が折れるような音がし、それきり音はなくなった。
「・・・で、ほとぼりが冷めた頃合いを見計らって、恐る恐る、その白いものに近づいたんだよねえ。そしたらさ・・・」
「それがあの女の人だった、って言うんでしょ?」
「そう! その通り!」竜二は驚いたような顔をして見せた。「さすが、さとみちゃん! 俺達が見えるだけじゃないんだねえ! 霊感が上がったのかなあ?」
「あのねえ・・・」さとみはうんざりした表情をして見せた。「そんな事は、あなた意外なら、み~んな分かることなのよ!」
「ふ~ん、そうなんだあ。霊感が上がったんじゃないんだあ」
竜二は暢気そうにそう言うと、唇を尖らせた。
「・・・それで」さとみは爆発寸前の自分を無理矢理押さえ込んで聞いた。「それで、どうなの?」
「へっ?」とぼけた顔で竜二が聞き返す。「どうって、なにが?」
「・・・二つ折りになっていたってことは、この女の人を肩に担いできた人物がいるって事でしょ? 女の人を担ぐなんて、きっと男の人なんじゃないかな?」
「な~るほど!」竜二は然りとばかりに手を叩く。「さとみちゃんって、名探偵だねえ! それで?」
「・・・だから、どんな人だったの? 担いできた男の人って?」
「う~ん・・・」竜二は腕組みをして考え込んだ。「真っ暗だったし、そこまで考えが回らなかったし、何よりも怖ろしかったからなあ・・・」
さとみは爆発した。
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