お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  39

2009年07月27日 | 朧 妖介(全87話完結)
 葉子は眉をひそめた。・・・あいつ、一体何を考えているのよう! わたしはもう関わらないって決めたのよう!
 しかし、視線を逸らす事ができなかった。
 ユウジの開いた手の上の古びた小さな木の棒が、葉子を誘う。
 葉子の手がゆるゆると伸びる。その手が止まった。ユウジが怪訝そうな顔をし、『斬鬼丸』をさらに差し出して、葉子の手に触れさせた。
「・・・いやっ!」
 途端に葉子は叫び、ユウジの手を払い除けた。『斬鬼丸』は空に弧を描いて大きく跳ね上がり、アスファルトの路面で乾いた木の音を響かせた。
「お願いだから、もう関わらせないで! わたしにはとても出来ないのよう!」葉子は顔を覆って泣き出した。「いやなのよう・・・ 恐いのよう・・・」
「そう言われやしても・・・ おれもガキの遣いじゃないもんで・・・」ユウジは困惑したように言って、『斬鬼丸』を拾いに向かった。「あっ! 葉子さん!」
 葉子はアパートへ駆け出した。ユウジは葉子を追いかけようとしたが、路上に転がる『斬鬼丸』も気になるらしく、足が止まったまま、頭だけを葉子と『斬鬼丸』とに交互に向けていた。
 その間に、葉子は階段を駆け上がり、通路の一番奥のドアの前に立ち、震える手でバッグを開け、何度も掴み損ねながらやっと鍵束を取り上げ、三つ目の鍵でようやくドアを開け、転がるように部屋に飛び込むと、大慌てで内側から鍵をかけた。ドアに背中をもたせかけ、荒い息を整える。
「・・・葉子さん、葉子さん・・・」
 外からユウジの声がした。ドアが何度も叩かれる。その衝撃が葉子に伝わる。
「いい加減にしてよう! そうしつこいと、警察を呼ぶわよう!」ドアに背中を向けたまま葉子は叫んだ。「戻ってあいつに言ってやって! わたしはどうなっても良いから放っておいてって!」
「そうは言われやしても・・・」ドアを叩くのをやめたユウジが困惑した声で答えた。「手ぶらで戻ったりしたら、エリお嬢に何をされるか・・・」
 ・・・あの娘、あのヤクザのアニキが与えた恐怖を自分が与えた事にして、脅しているんだわ! 葉子はエリの皮肉っぽい笑顔を思い出した。・・・いいえ、脅してるんじゃない、楽しんでいるんだわ・・・
「とにかく!」葉子はユウジに同情しかけた自分を振り払うようにして続けた。「今日は帰って!」
「そいつは出来やせん・・・ おれの身にもなってくだせえよ・・・」
「あなたがどうなろうと、知った事じゃないわよう!」葉子はついに爆発した。「それにいつまでのそこにいるって言うんなら、本当に警察を呼ぶわ! 捕まって色々と調べ上げられたら良いんだわ!」
 葉子はバッグから携帯電話を取り出した。
「本当に、今、警察にかけるから!」
「わ、分かりやした! 今日は引き上げやす。・・・ですが、例のあれはお渡ししないと・・・」
「例のあれ・・・?」・・・『斬鬼丸』の事だわ! 葉子は喫茶店での事を思い出した。『斬鬼丸』に操られたような感触。妖魔を倒したときに一瞬感じた快感。・・・「いらないわよう、そんなもの! 持って帰って、あいつに付き返してやって!」
 葉子はドアを離れ、居間へと向かった。
「・・・分かりやした。そういたしやす。また日を改めてめえりやす・・・」 
 ユウジの声の後、通路に靴音が響いた。やがてそれは消えた。


      つづく


     著者自註 

 勝手に「妖魔始末人 朧 妖介」主題歌にした7月29日発売の堂本光一さんのシングル『妖~あやかし~』、あちこちで耳にしたり、目にしたりが増えてきましたね。音だけでももちろん良いですが、PVつきだと余計に良く見えますね。コンサート用と言うと語弊があるかもしれませんが、基本的にダンスナンバーとして作ったんじゃないでしょうか。あと、アルバムは出ないような成り行きですねえ。残念ですねえ。それとも密かに作成中なんでしょうかね? ある日突然アルバム発表! な~んてなると楽しいんですが・・・ 応援しています。



web拍手を送る



にほんブログ村 小説ブログへ


にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宇宙探検隊の冒険 65 ~宇... | トップ | ヒーロー「スペシャルマン」・7 »

コメントを投稿

朧 妖介(全87話完結)」カテゴリの最新記事