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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 197

2020年11月30日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「さあ、着いたわよ」タイムマシンの移動感覚が止まったので、逸子が言う。「早く捜しましょう!」
「オバさん、あわてるなよ」チトセが文句を言う。「外には何があるのか分からないんだから、一応、外をちらっとでも確認しなきゃ、危ないだろ?」
「何よ、大人ぶって!」逸子はぷっと頬を膨らませる。「どうせ、お兄様の受け売りなんでしょ?」
「だったら何だって言うんだよ?」チトセは言いながら光の壁へと近づく。その一部から外を覗こうと言う事のようだ。「文句があるんなら、ケーイチ兄者に言うんだね、オバさん」
「オバさんオバさんって言うけどね、少しは大人を敬ったらどうなのよ!」
「敬われるような大人かよ! オレよりガキっぽいじゃないか!」
「何ですってぇぇぇ……」
「何だよぉぉぉぉ……」
 二人はにらみ合う。しばらくして「ふん!」と鼻を鳴らしたチトセは、光の壁に頭を突っ込んだ。外からは生じた光でこちらの様子は分からない。
「……おい、オバさん……」チトセは顔を戻したが、イヤなものを見たような表情をしている。そのままの顔で逸子を見ながら言う。「外に何かいたぞ……」
「何かって、何よ?」
 チトセは答えない。逸子はぶつぶつ言いながら、チトセの真似をして光の壁から顔を出した。すぐに戻す。
「あのさ……」逸子もイヤな者を見たような顔をする。「薄汚い髭面の厳つい男たちが数人見えたような気がしたんだけど……」
「やっぱりな」チトセはうなずく。「オレにもそう見えた」
「何なの、あの人たち?」逸子は険しい表情をする。「普通の人たちじゃなさそうね……」
「あれは山賊どもだ」チトセは言う。「オレの兄者やその仲間と居た時と同じ感じがするから、間違いないよ」
「ああ、あの山賊たち……」逸子は、アツコと共に倒した山賊たちを思い出していた(主に山賊を倒したのはアツコだったが)。「確か、お兄さんは十郎丸とか言ったかしら?」
「そうだ。オバさんが蹴り倒し、終いには高い杉の木のてっぺんにぶら下げたんだよ」チトセは言うが、逸子を恨んでいる感じはなかった。チトセの中ではもう整理できた話なのだろう。「あいつらは、山賊さ。間違いない!」
「そう…… 面倒くさいのに絡まれちゃったわねぇ……」
「光っているから、何だろうと思って集まって来たんだ」チトセは言いながら笑う。「山賊は光り物に弱いのさ」
「邪魔くさそうだから、いきなり出て行って倒しちゃおうかな」
「落ち付けよ、オバさん。やつら、コーイチの事を知っているかもしれないだろ?」チトセが言う。「だから、話を聞く方が先だ。多少の時間のずれはあるかもしれないけど、コーイチたちが来たのはここいら辺なんだからさ」
「みんなで手分けして探しているんだから、他の場所って可能性だってあるじゃない?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」
 ……チトセちゃん、きっとケーイチお兄様と一緒に居るうちに冷静な判断と分析が出来るようになったのね。逸子はそんなチトセに感心している。……でも、生意気だわ! 逸子は口を尖らせる。
「ちょっとタイムマシンが操作できっるからって、何よ!」
「じゃあ、オバさんが操作すりゃあ良いじゃないか!」
「出来るものなら、やっているわよ!」
「出来ないんなら、黙っていろよ!」
 二人はまたにらみ合った。すると、いきなり山賊男が一人、逸子のすぐ目の前に現れた。息がかかる程の近さだった。二人は驚いた顔で見合う。
「きゃあ!」
 逸子は叫ぶ。
「うわああああ!」
 山賊男が叫ぶ。
 逸子は無意識にからだが反応したような動きで、男を思い切り蹴り飛ばした。男は外へ消えて行った。
「何よ、何よ、何なのよう!」
「外にいる連中の一人がたまたま入って来ただけだよ」チトセは冷静に言う。「もう外に出ようぜ。また入って来られたら、それこそ面倒だよ」
 二人は外に出た。白目をむいてひくひくと痙攣して地面に倒れているのは、先程逸子に蹴り飛ばされた男だ。倒れている男を囲んでいた男たちは一斉に振り返った。タイムマシンの光が消えた。しかし、男たちにはそれどころではなかった。男たちは目をぎらつかせ、歯を剥き出しにして、逸子とチトセをにらみ付けて来た。
「ふん、女とガキんちょか!」男の一人が小馬鹿にしたように言う。「こんな変な格好のにのされるたぁ、新吉も情ねぇな」
「不意打ちだったとしても情ねぇ……」別の一人は白目をむいている新吉の頭を軽く蹴る。「……だがよ、仲間をやってくれた落とし前は付けてもらわなきゃあな」
「そうだな、女なりの落とし前だな」別な男がにやにやしながら言う。「毒虫の忠太一味の怖さを教えてやるぜぇ……」
「馬鹿野郎」男たちの中から声がした。「怖さじゃねえ、優しさだろうがよ。女扱いは皆が皆、得意だからな!」
 男たちは下卑な笑い声をあげ、逸子とチトセを中心とした輪を、ゆっくりと狭めはじめる。
「あら、楽しませてくれるの?」逸子は言うと一歩前に出た。笑顔を浮かべている。「じゃあ、サービスしてあげるわね」
「オバさん、何を言ってんだ?」
「そんな呆れた顔をしてないで、見ていなさい……」
 逸子はチトセに言うと、軽い跳躍を繰り返しだした。それに合わせて、逸子のたわわな胸が上下に揺れる。男たちの視線が逸子の胸に集まる。逸子の背後にいる者たちは、同じようにぷるんぷるんと揺れるお尻を見つめている。男たちは、上下に揺れる逸子の胸とお尻に合わせて頭を上下させ始めた。そして、じわじわと逸子とチトセを囲む輪を狭めて行く。
「……オバさん、何をやってんだよう!」
 しびれを切らせたチトセが文句を言う。跳躍しながら逸子がチトセに視線を移す。
「チトセちゃん、伏せて!」
 逸子は叫ぶ。チトセはとっさにしゃがみ込む。逸子は高く跳躍しながら右脚を正面に蹴り出し、そのままで宙を時計回りに数回回転した。逸子の踵が、輪を狭めた男たちの顎を捕える。逸子が地に降り立つと同時に、男たちは全員、後ろへ大きな音を立てながら倒れた。倒れた様子は逸子を中心にして花が開いたようだった。
「『真風会館空手秘奥義・豊胸開花』!」
 逸子はそう言うと、不敵な笑顔を浮かべた。


つづく


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