コーイチは思わず京子を見た。赤くなっているコーイチの名前を驚いた顔で見つめている。
「あのさ…… さっきの話じゃ、金色だったよね……」
コーイチは無理矢理な笑顔を作って言った。声が上ずっている。
「そのはずよ。ノートは、書き始めの期待感と、書き終わりの満足感とが、一番大きいのよ」
京子は不服そうに言った。声が怒っている。
「でもさ、これはどう見ても、赤…… だよね?」
「そうね、赤ね」京子は首を傾げながら答えた。「しっかりくっきりと名前を書いてもらったのに……」
スミ子にとって見れば、お預け状態を一気に解消できた事になるはずだ。しかも、しっかりくっきりと名前を書いたと言う事は、大好物を与えられたと言う事だ。それなのに、金色にならないのだから、満足していないのはハッキリしている。どうしたものだろう……
「そうだ!」コーイチに一つの閃きがあった。「別のページにもボクの名前を書いてみようよ。しっかりくっきりとさ。そうすれば金色になるんじゃないかな」
張り切ってしゃべっているコーイチを見て、京子は悲しそうに首を左右に振って見せた。
「それがダメなの。スミ子に二度は同じ名前は書けないわ。魔力は一人に一回だけしか働かないのよ」
「そうなんだ……」
「そうなの……」
コーイチと京子は顔を見合わせてため息をついた。コーイチが名前を書いたページは、名前が消えて白紙になっていた。……何だか思った通りに行ってないぞ。イヤな予感がして来たぞ。コーイチの額を、つつつと汗が伝った。
しばらく沈黙が続いた。
「あのさ……」
沈黙に耐え切れなくなったコーイチが言った。
「なあに?」
京子は物憂い感じでコーイチの方を見た。
「赤って、どんな意味があるんだい?」
「赤……」
京子はぽつんとそう言って、じっとコーイチの顔を見つめていた。放心したような表情だった。
また、沈黙が続いた。
「赤は……」
しばらくして京子が口を開いた。
「赤は……?」
コーイチが鸚鵡返しに言った。喉がゴクリと鳴る。
「赤はねぇ……」京子はいきなりくすくすと笑い出し、スミ子をぱたんと閉じて立ち上がった。「赤は、分かんないわ!」
「ええええっ!」
コーイチは驚いて京子を見上げた。……なんだなんだ! 分かんないってどういう事なんだ! ボクがこんなに不安がっているのに、なぜ笑っていられるんだ! どうして立ち上がったんだ! スミ子はどうなったんだ!
「じゃあ、コーイチ君、これでお別れにしましょ。楽しかったわ。じゃ、バイバイ」
あっけに取られているコーイチに、京子は笑顔を向けて手を振り、スミ子を抱え、白いハイヒールを突っ掛け、閉まっているドアから出て行こうとした。
その時だった。
「お姉様!」
ドアの向こう側から大きな声がした。
つづく
「あのさ…… さっきの話じゃ、金色だったよね……」
コーイチは無理矢理な笑顔を作って言った。声が上ずっている。
「そのはずよ。ノートは、書き始めの期待感と、書き終わりの満足感とが、一番大きいのよ」
京子は不服そうに言った。声が怒っている。
「でもさ、これはどう見ても、赤…… だよね?」
「そうね、赤ね」京子は首を傾げながら答えた。「しっかりくっきりと名前を書いてもらったのに……」
スミ子にとって見れば、お預け状態を一気に解消できた事になるはずだ。しかも、しっかりくっきりと名前を書いたと言う事は、大好物を与えられたと言う事だ。それなのに、金色にならないのだから、満足していないのはハッキリしている。どうしたものだろう……
「そうだ!」コーイチに一つの閃きがあった。「別のページにもボクの名前を書いてみようよ。しっかりくっきりとさ。そうすれば金色になるんじゃないかな」
張り切ってしゃべっているコーイチを見て、京子は悲しそうに首を左右に振って見せた。
「それがダメなの。スミ子に二度は同じ名前は書けないわ。魔力は一人に一回だけしか働かないのよ」
「そうなんだ……」
「そうなの……」
コーイチと京子は顔を見合わせてため息をついた。コーイチが名前を書いたページは、名前が消えて白紙になっていた。……何だか思った通りに行ってないぞ。イヤな予感がして来たぞ。コーイチの額を、つつつと汗が伝った。
しばらく沈黙が続いた。
「あのさ……」
沈黙に耐え切れなくなったコーイチが言った。
「なあに?」
京子は物憂い感じでコーイチの方を見た。
「赤って、どんな意味があるんだい?」
「赤……」
京子はぽつんとそう言って、じっとコーイチの顔を見つめていた。放心したような表情だった。
また、沈黙が続いた。
「赤は……」
しばらくして京子が口を開いた。
「赤は……?」
コーイチが鸚鵡返しに言った。喉がゴクリと鳴る。
「赤はねぇ……」京子はいきなりくすくすと笑い出し、スミ子をぱたんと閉じて立ち上がった。「赤は、分かんないわ!」
「ええええっ!」
コーイチは驚いて京子を見上げた。……なんだなんだ! 分かんないってどういう事なんだ! ボクがこんなに不安がっているのに、なぜ笑っていられるんだ! どうして立ち上がったんだ! スミ子はどうなったんだ!
「じゃあ、コーイチ君、これでお別れにしましょ。楽しかったわ。じゃ、バイバイ」
あっけに取られているコーイチに、京子は笑顔を向けて手を振り、スミ子を抱え、白いハイヒールを突っ掛け、閉まっているドアから出て行こうとした。
その時だった。
「お姉様!」
ドアの向こう側から大きな声がした。
つづく
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