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コーイチ物語 「秘密のノート」 147

2022年09月26日 | コーイチ物語 1 17) 最後の闘い 
「さあ、始まるわ!」
 ブロウが言って、床のコーイチを見た。
 コーイチはぱっちりと両目を開けると、上半身をむっくりと起き上がらせた。シャンとブロウに目を留めるとにっこりと笑顔を見せた。二人も可愛らしい笑顔で応えた。コーイチは満足そうに大きく伸びをした。
「さすがに金色ね」シャンが魔女だけに通じる言葉でブロウにささやいた。「さっきまで湯気出して倒れていたとは思えない回復ぶりね」
「純金色だったでしょ?」ブロウも魔女の言葉でささやいた。「最高のラッキーカラーよ。無意識、無自覚でも全てが良い方へと転がって行くのよ」
「だから、知らぬ間にすっかり回復ってわけね……」
 二人はコーイチが立ち上がったのを見て話を止めた。
「ああ……」コーイチは二人を交互に見ながら声を出した。「色々と二人には迷惑をかけたみたいだね。……ところで、ボクはどうなったんだい? 大丈夫になったのかい? それとも……」
「その点は、ばっちり大丈夫よ!」ブロウが笑顔で言った。「コーイチ君の頑張りと、スミ子の聞き分けの良さ(「ブロウの脅しのおかげよ」とシャンが口をはさんだ)で、コーイチ君の赤い色は無しになったわ」
「じゃ、悲しい結末にはならないんだね。良かったぁ!」
 コーイチは嬉しそうに言った。
「ねえ、ブロウ……」シャンが魔女の言葉でささやいた。「純金色のこと、コーイチ君に言わなくて良いの?」
「言わなくても良いと思うわ。もちろん、コーイチ君なら純金色の意味を知っても、その力を利用するはずは無いけど、もし、そのことを知った誰かに利用されてしまうかもしれないわ」
「コーイチ君、人が良いから……」
「そうなのよねぇ! そんな事にならないかって、心配になっちゃうじゃない。いっつも監視してなきゃならないわ!」
「私は平気だけどなぁ……」
「お姉様!」
「冗談よ。ブロウはコーイチ君の事になるとムキになるんだもの、ちょっとからかっただけよ」
「ラッキーカラーの力は知らず知らずにコーイチ君個人にだけ使われていれば良いわ」
「そうね、それが一番ね。あんな感じのほんわかコーイチ君が最高だものね」
 コーイチは窓から射し込んでいる朝の光をぼんやりと見ていた。
「もう、朝か……」コーイチは時計を見た。とたんにあわて出した。「大変だ! これじゃ遅刻だ!」
「あのねぇ、コーイチ君……」ブロウが諭す様な口調で言った。「今日は、お休みよ」
「えっ?」コーイチはカレンダーを見た。「今日は土曜日…… 良かった、休日出勤も無いぞ!」
 コーイチは床に座り直した。何気なく座卓を見た。閉じられて黒い表紙を見せているスミ子がおとなしく乗っていた。コーイチは手を伸ばしかけたが、思い直したのか、手を戻した。
「事の始まりは、このスミ子だったんだね」コーイチはスミ子を見ながら言った。「色々あったけど、結果として君たち二人に逢えたんだから、ボクとしては嬉しいなぁ」
「あら、私も嬉しいわよ」シャンが言った。「ブロウの姿を真似て、ちょっとコーイチ君をからかったりしたけど、とっても楽しかったわ」
「私だって」ブロウも言った。「いつも見ているだけだったコーイチ君と仲良くなれたんだもの、お姉様以上に嬉しいわ!」
「あらあら、私の方が嬉しいわよ!」
「なによ! 私の方が嬉しいに決まっているでしょ!」
 二人の間が険悪になった影響なのだろうか、窓の外が急に暗くなった。
「これは秘奥義『ティダ隠し』……」コーイチはつぶやいて、あわてて頭を振って気を取り直すと、二人の間に割って入った。「……まあまあまあ、二人とも仲良く、仲良く……ね?」
 シャンとブロウはふと我に返り、照れくさそうな笑顔を見せた。窓の外が明るくなった。
「やれやれ、良かった」
 コーイチはつぶやいた。
 その時、ドアチャイムが鳴った。

       つづく


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