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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪  1

2022年07月04日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 豆蔵たちが解放されて、数日が経っていた。
 さとみは自分の部屋にいる。
 豆蔵たち、祖母たちもいる。さとみも生身をベッドの上に座らせて霊体を抜け出さている。祖母三人は並んで床に座り、豆蔵はドアを背にして佇み、みつと冨美代は隣り合って宙を漂い、虎之助は机の椅子の背もたれを前にして足を拡げて座り、さとみは生身の時分の隣にちょこんと座っている。霊体とはいえ、大人数がいると、部屋が狭く感じる。
「とにかくだ」静が言う。「これからが最後の対決になるんだよ」
 皆はうなずく。
 さゆりに対抗するための作戦会議だった。とは言え、具体的な案は出ない。
 さゆりは強いし、側近の辰とユリアも強い。強いだけではない。凶悪だ。あの黒い影など問題にならないだろう。
「とにかく、どうやるかが決まらないうちは、さとちゃんは絶対に屋上へ行っちゃいけないよ」冨が言う。「いいね? 楓が現われて、口八丁な事を言っても、絶対に乗っちゃダメよ」
「分かっています」さとみは答える。「……でも、百合恵さんの話だと、また改心したって言ってたけど……」
「一度裏切ったヤツは、何度でも裏切りよる!」虎之助がいつも以上に野太い声で言う。「……な~んて、どっかの映画のセリフじゃないけどさ、楓は信用できないわよ」
「でも……」
「さとみ殿は優しすぎるのです」みつが言う。「そこがさとみ殿の美点でもあり、ともすると欠点ともなるのです」
「わたくしもさとみ様のそのお優しいところに惹かれました」冨美代が言う。「ですが、その優しさに付け入る者が必ずや居るものです」
「そうですぜ、嬢様」豆蔵が言う。「楓は自分が真ん中に居ないと治まらないヤツですぜ。信じちゃいけやせん」
「そうねぇ……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃし、しばらくして手を止める。「わたしを連れ出した時も、結局は騙してたんだものね」
「そうだろう?」珠子が言う。「反省した、改心したって言ったって、すぐに忘れてしまうのよ。まるで鶏!」
 皆が笑い出した。
「おいおい、ひどいじゃないか!」
 声がして、壁から楓がむっとした顔で現われた。皆はさとみの前に立つ。
「何だよ、別にお嬢ちゃんを取って食おうなんて言う気はないよ」楓は苦笑する。「たださ、あんまりの言われようだからさぁ」
「何を言ってんだい!」静が強い口調で言う。「何だかんだ言って、さとみを狙ってんだろう?」
「さとみちゃんをさゆりの所に連れて行って、四天王だかになろうって言うんだろう?」珠子が言う。「……あ、三天王だったっけ?」
「ここで逢ったが運の尽き……」みつは言うと、刀を抜く。冨美代も取り出した薙刀を構えた。「覚悟しろ」
「まあ、待ちなよう……」楓は両手を前に出して振って見せる。「わたしはやる気なんざないんだよ。それにさ、こんな大人数じゃ、わたしに勝ち目なんかありゃしないよ」
「じゃあ、何しに来たんだい?」
 静が訊く。皆が「そうだ、そうだ」とうなずき合いながらも楓から目を離さない。
「だからさ、通りすがったら、わたしの悪口が聞こえてさ。腹が立ったってわけだよ」楓が言う。「別にどうこうって気はないんだ」
「通りすがったらって言うけどさ」虎之助が言う。「何で、わざわざさとみちゃんの家の傍なのさ?」
 皆が「そうだ、そうだ」とうなずき合う。
「そりゃあ、あれだよ……」
 楓は言葉に詰まる。皆は「やっぱり悪い事を考えているんだ」とか「改心したなんて百合恵さんを騙すなんて」とか「鶏以下だねぇ」とか、ぼそぼそと囁き合っている。
「ええい! うるさいねぇ!」楓は声を荒げる。「せっかく良いネタを持って来てやったってのにさ! いいよ、もういいよ! わたしゃ、帰るよ!」
 楓は壁の中に戻りかけた。
「待って!」そう言ったのはさとみだった。皆の間を抜けて前に出る。「良いネタって、何?」
「さすが、お嬢ちゃんだ」楓は壁から戻る。みつと冨美代がさとみの両側に立つ。「……だからさ、取って食う気はないんだってば!」
「みつさん、冨美代さん……」さとみが笑顔を二人に向ける。「大丈夫です。でも、いざとなったら、お願いします」
「おいおい、可愛い顔して怖い事を言いなさんなよ」さとみの言葉で手にした得物を握り直したみつと冨美代を見て、楓はわざとらしくからだを震わせた。「だからさ、良いネタだって言ってんだろ?」
「じゃあ、話してよ」さとみが言う。「聞いた時点で良いネタかどうか判断させてもらうわ」
「やれやれ、厳しいねぇ……」楓は苦笑する。「じゃあ、話すよ。実は、お嬢ちゃんの仲間でチンピラ風のがいただろう?」
「……チンピラ?」さとみは首をかしげる。「そんなのいたっけ?」
「それって、竜二ちゃんの事?」そう言ってずいっと前に出てきたのは虎之助だった。「さとみちゃん、竜二ちゃんよ!」
「竜二……」さとみはしばらく考え込んで、やっと思い出したようだ。「……ああ、竜二……」
 さとみの喜びの無い声を聞いて、楓は拍子抜けしたみたいだ。心配そうにしているのは虎之助だけだ。
「何だい、あの坊やを心配してんのは支那服のお姉ちゃんだけかい? あ、お兄ちゃんだっけ?」
「わたしはね、心はそこらの女に負けてないの!」
 虎之助は楓に言い返す。楓は返答に困ってさとみを見る。
「それで?」さとみはため息をつきながら言う。「竜二がどうかしたの?」
「見つけたんだよ」楓が言う。「さゆりの着ている着物の袂にさ、小さな珠が入っているんだけどね、それが竜二なんだよ」
「えええっ! 竜二ちゃん、無事なのぉ!」
 歓喜の声を上げたのは虎之助だけだ。
「……どうやって見つけたの?」さとみは憮然とした表情を崩さない。「あなたって、さゆりから離れたんじゃなかったの?」
「わたしが離れたのは、あのユリアと辰の二人からさ」楓がイヤそうな顔で言う。「本当、生意気なヤツらだよ!」
「じゃあ、何?」さとみは表情を変えずに続ける。「あなたは、さゆりとは繋がっているってわけ? 百合恵さんに、改心したって言ったんじゃなかったの?」
「だからさ、悪い事はやめたんだ」楓が言う。真顔になっている。「さゆりはね、周りの事には無関心なんだ。わたしの事だって、それほど思っちゃいない。ユリアと辰についてもそうさ。四天王だろうが何だろうが、勝手にやればって感じだよ。そんなさゆりだからさ、近づいても何ともないんだ」
「でも、ユリアと辰は黙っていないんじゃないの?」
「あいつらがいない時を見計らって、さゆりに近づいているよ」楓はにやりと笑む。「さゆりの弱点を探るためにさ」
「やっぱり、わたしを誘い出した時には、何にも分かっていなかったのね!」さとみはぷっと頬を膨らませる。「ひどいじゃないのよう!」
「そんなに怒るもんじゃないよ」楓は平然としている。「あの時はさゆりの所に連れて行くのが目的だったからね。仕方がないだろうさ」
「もうっ!」さとみはさらにぶんむくれる。「もうっ!」
「お嬢ちゃん、『もうッ!』は牛だよ」
 楓は言うと楽しそうに笑う。 


つづく

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