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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 2

2022年07月05日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「さとみちゃん、竜二ちゃんを助け出そうよ!」
 そう言って、さとみの目の前に立ったのは虎之助だった。涙目になっている。
「さとちゃん!」冨が強い口調で言う。「気持ちは分かるけど、ダメよ!」
「でも、富さん……」虎之助が富を見る。「竜二ちゃんは捕らえられているのよ? それが分かったんだから、助けたいわ!」
「虎之助」静が言う。「辛抱する事だよ。楓の話が本当なら、竜二は消えちゃあいないんだ。時期を待つんだ」
「でもさ……」虎之助はすんすんと泣き出す。その姿はどう見ても恋に一途な女の娘だ。「竜二ちゃん……」
「仮に竜二を助けても、だ」静が言う。「珠の姿なんだろう? それをどうやって元に戻すんだい? 虎之助、お前さん知っているのかい?」
「……いや、知らない……」
「そうだろう? ここにいる誰もが知らないよ」
「そうだわ!」虎之助は楓を見る。「あなたなら、知っているわよね? ねえ、知っているんでしょ? 教えなさいよ!」
「知ってりゃ教えるよ」虎之助の圧に押されて、楓は言う。「でも、珠になったってところまでしか分かっていないんだ」
「そう……」
 虎之助は悲しそうにつぶやくと、両手で顔を覆い、わあわあと泣き出した。さとみは優しく虎之助の背中をなでる。竜二に全く関心のないさとみだが、虎之助があまりにも可哀想だった。
「わたし、必ず助けるわ」さとみが言う。「だから、泣かないで」
 さとみの言葉で、虎之助は顔を上げる。間近で見ても、女の人にしか見えない。
「……さとみちゃん、ありがとう」虎之助は涙を拭う。「わたし、一生さとみちゃんについて行くわ」
「一生ってさ、あんたはもう死んでんだよ?」楓がからかう様に虎之助に言う。「そんな事されちゃ、お嬢ちゃんが迷惑だろうさ」
「うるさいわねぇ」虎之助はむっとする。「それだけ感謝の気持ちが一杯って事じゃないのよ!」
「何だい、あの坊やの話を持って来たのは、わたしだよ?」楓はむっとする。「感謝なら、わたしにするのが筋だろうが」
「まあまあ、二人ともやめるんだ」豆蔵が割って入る。「今は、そんな喧嘩をしている場合じゃねぇ」
 楓と虎之助はぶんむくれた顔のまま、豆蔵を見る。
「さゆりは学校の屋上から動けないとしてもだ」豆蔵は楓と虎之助の視線を受けながら、平然と続ける。「ユリアと辰の二人は好き勝手に動き回れるんだろう? だとしたら、嬢様はいつも危ねぇって事に無りゃしねぇかい?」
 豆蔵は言うと、他の皆にも顔を向ける。皆は、なるほどと言う顔をしている。
「え? それじゃあ……」さとみは慌てる。「わたし、どこにいても危険って事? それはイヤだ……」
「わたしは、それは大丈夫だと思うけど」楓が言う。「ユリアや辰がどんなに強くっても、さゆりには敵わない。さゆりはお嬢ちゃんを仇のように狙っているんだ。だから、ユリアと辰が勝手にお嬢ちゃんに何かしたら、さゆりが黙っちゃいないよ」
「でも、さゆりって学校の屋上からは動けないんでしょ?」さとみが不安そうに言う。「それだったら、ユリアも辰も止められないじゃない?」
「あのね、さゆりの手下って、その二人だけじゃないのよ」楓が言う。「学校に碌で無しどもが一杯いるだろう? あいつらみんな、さゆりの手下なんだ。ヤツらはどこにでもふらふらと行ける。見聞きした事をさゆりに教えるのさ」
「さゆりのスパイってわけね」さとみがつぶやく。それから、はっとなる。「じゃあさ、楓、あなたがわたしと会っているのだって、さゆりに伝わるんじゃないの?」
「わたしは大丈夫さ」楓は言うと、とんと胸を叩く。「わたしは、ユリアや辰と違って、威張り散らさないからね。嫌われちゃいない。逆に慕われているんだ」
「本当?」さとみは疑いの眼差しを楓に向ける。「信じられないけど……」
 さとみの言葉に皆が大きくうなずく。
「何だよ、誰も信じちゃくれないのかい!」楓は声を大きくする。「いいかい! わざわざ姿を晒しているってことは、隠す気はないって事なんだよ。わたしは仲間なんだ。いや、仲間になりたいんだよ! 頼むよう……」
 楓は座り込むと、わああっと泣き出した。さとみは楓の前にしゃがんだ。
「楓……」さとみは優しい口調だ。「あなたを信じてあげたいわ。でも、今までが今までだから、みんな心配なのよ」
「じゃあさ、どうすればいいんだい?」楓は顔を上げる。不思議と涙の跡は無かった。嘘泣きだったのかもしれない。「どうやったら、わたしを仲間だって思ってもらえるんだい?」
「それは……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃと手で叩きはじめる。しばらくして手が止まった。「……ダメだわ。浮かばない……」
 と、そこへ突然、大男の辰が壁から抜け出てきた。皆は再びさとみを背後に隠して立った。
 しかし、辰は皆を見る事もせず、じっと楓を睨んでいた。
「楓」辰の声が重々しく響く。「さゆりが呼んでいるぞ」
「さゆりが?」楓が怪訝な顔をする。「何の用があるって言うんだい?」
「知らん」辰は冷たく言う。「オレ様も、お前みたいな雑魚に何の用がるのかって、さゆりに聞いたんだがな、教えてくれねぇんだ」
「ふん!」雑魚と呼ばれ、楓はむっとする。「四天王気取りのお前に言われたくないね! ……きっと、さゆりが本当に必要としているのは、わたしの方だって事なんじゃないのかねぇ?」
「言ってろ!」辰はつまらなさそうな顔で言う。「さあ、行くぞ!」
「ちょっとお待ちよ」楓が皆を見回して言う。「せっかくここまで来たのに、こいつらには無いもないのかい?」
「お前を連れて来いってだけだったんでな」辰は皆の方をちらと見ただけだった。「こいつらは、また別の時だ」
 辰は言うと楓の着物の襟首をつかんだ。
「おいこら! 何て事してくれるんだよ!」楓は暴れるが、辰はびくともしない。「一緒に行くから、手をお放しよ!」
「お前は信用出来ねぇ」
 楓は両陣営から信用が無い様だ。
 辰は、楓を引きずるようにして壁に入って行って消えた。


つづく

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