お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 18

2023年02月21日 | ジェシルと赤いゲート 
 背中の感触と同時に、ジェシルは前方へと跳躍し、燭台を握ったままの『ブラキオーレス』を床に投げ捨て、壁に向かって振り返って片膝を突いた時には、メルカトリーム熱線銃を手にし、銃口を壁に向け、いつでも撃ち出せる状態になっていた。
 ジャンセンは床にうつ伏せになって這いつくばっている。背中を押された驚きで腰が抜けてしまったようだ。頭だけ壁の方に向けている。
 壁に設えてある書棚の二面が両開きの扉のように室内に向かって開いていた。下へと向かう階段が見える。続く地下への入り口だ。
「ジャン……」ジェシルは立ち上がると無様な格好のジャンセンを見て、小馬鹿にしたようにくすっと笑う。「あなた、まるでカンデーリャ星のベラートカゲみたいだわ。その首の捻り方なんか、そっくりだわ」
「ふん!」ジャンセンは鼻を鳴らしながら立ち上がる。「ちょっと驚いただけだよ。それに、ぼくは爬虫類じゃない」
「分かっているわよ! だから似ているって言ったのよ。無様に這いつくばった姿が!」
「ぼくが言いたいのはそう言う事じゃなくて、ケガしてないかとかとか聞くもんなんじゃないかって事だよ」
「あんな程度でケガするようじゃ、使い物にならないわよ」
「君って、同僚がケガをしてもそう言うのかい?」
「そうね、言うわね」ジェシルは同僚のカルースを思い浮かべる。続いて、何故かトールメン部長の顔が浮かんだ。途端に不機嫌になる。「いっその事、わたしがケガをさせてやりたいって言うヤツもいるわ!」
「そうなのか……」ジャンセンは、ぷりぷりと怒っているジェシルに、半ば呆れたように言った。「……まあ、とにかく、地下二階への入り口は開いた。ぼくは、ジェシルの部屋でも、こんな風になるんじゃないかって思っていたんだけどなぁ」
「でも、あの壁の厚みじゃ、細工は出来ないわ」ジェシルはむっとした表情になる。「でも、わたしの部屋もこういう仕掛けだったら、机も花瓶も無事だったのに……」
「まあ、仕方ないさ。気を取り直して、下りてみようじゃないか」
 ジャンセンは階段へと進もうとする。
「ジャン!」ジェシルの鋭い声が飛ぶ。何事と言う顔でジャンセンが振り返る。「あなたって、自分の分野以外に使う脳味噌はどこかへ落してきての?」
「何だよ、どう言う事だよ?」
「わたしの部屋から下りてくる時、左右の壁から槍が飛び出してきたじゃない?」
「……そうだったなぁ」
「この目の前の階段にも、そんな仕掛けがあるって思わないの?」
「……そうか、そうだよな。すっかり忘れていた」
「そんな事で今まで調査なんてやっていたわけぇ?」ジェシルは呆れる。「あなたって、最低ね……」
「と言う事は、また槍の類が飛び出すかもって事だね」ジャンセンにジェシルの嫌味が通じていないようだ。「でも、どうやって確かめようか?」
「そうねぇ……」ジェシルは周囲を見回す。「そこら辺の文献を放り込んだら分かるんじゃない?」
「おい、何て事を言うんだ!」ジャンセンが珍しく怒った。しかし、迫力はまるでない。「ここにある文献は全て貴重な資料だぞ! 傷なんてつけられるわけないじゃないか!」
「じゃあ、どうするのよ?」そう言ってから、ジェシルはにやりと笑う。「文献が大事だって言うんなら、あなたを放り込んでみましょうか? あなたの方が大事じゃ無さそうだし……」
「何を訳の分からない事を言っているんだよ!」ジャンセンは必死な顔で言う。ジェシルならやりかねないと、本気で思っているようだ。「何か他にないかなぁ……」
「そうねぇ……」
 二人の視線が『ブラキオーレス』が握っている燭台に注がれた。
「……これを使う?」
「そうだなぁ……」
 ジャンセンは燭台を取り上げ、鞄から虫眼鏡を出すと調べ始めた。しばらくして、顔をジェシルに向けた。興奮した顔つきだ。
「これは本物だよ! 最初のはレプリカだったけどさ! これは考古学的に貴重な資料だよ!」
「あらそうなの?」ジェシルは言いながらジャンセンの手から燭台を取る。「……確かに、わたしの部屋のものより重たいし、しっかりしている気がするわ」
「だろう? だからこれは使えないよ」
「ねえ、ジャン……」ジェシルが飛び切りの笑みを浮かべてジャンセンを見る。さすがのジャンセンもどきりとしてしまった。「この手の燭台って大発見なの?」
「いや、そうでもないかな?」じっと見つめてくるジェシルの視線を照れくさそうに避けながらジャンセンは答えた。「数はそれほど多くはないけど見つかってはいるよ」
「そうなんだ……」ジェシルはつぶやくと、今度は子供の頃のいたずらっ子の笑みを浮かべる。「じゃあ、問題ないわね?」
 ジェシルは手にした燭台を目の前の階段に放り投げた。燭台は階段を転がった。すると、天井から無数の槍が勢い良く突き出してきた。その様にジャンセンはまた腰を抜かして座り込んだ。
「ふふふ…… 思った通りね」ジェシルは楽しそうに言う。「じゃあ、ここも熱線銃で破壊しながら進みましょう」
 ジェシルは突き出している槍に熱線銃を向けて引き金を引いた。槍を溶解させると、ジャンセンに振り返った。
「ジャン! なに座り込んでんのよう!」ジェシルが叱る。「それと、例の発光粘土をよろしく。見えないと、さすがのわたしでも危ないわ」
 ジャンセンはふらふらと立ち上がるとカバンの中に粘土を引き千切り捏ね回す。ぱあっと広がった光りで先まで見通せる。途中に踊り場があった。
「とりあえず、あそこまで行くわよ」
 ジェシルは言うと、楽しそうに熱線銃で天井を撃ちまくる。


つづく


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