お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 27

2012年08月26日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
「さて……っと」短くなったタバコを路上に捨て、踵で踏み潰すと、百合恵は大きく伸びをした。「これからどうしたものかしらねえ……」
「姐さん……」豆蔵が百合恵に顔を向けた。いつもの精悍な面構えに戻っている。「もう一度あっしだけで参ります」
「う~ん……」百合恵は腕を組んで、店の壁に寄り掛かった。「それは得策じゃないわね。またここまで吹き飛ばされてしまうのがオチだわねえ……」
「……そう言えば、嬢様」豆蔵がさとみに怪訝そうな表情を向ける。「どうして、あっしや竜二さんみたいに吹き飛ばされなかったんでしょうかね?」
「……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃ叩いた。「よくわかんないけど、何とか踏ん張れたのよね。でも、あの四天王の一人の気障ったらしいヤツに変な事言われたとたんに恐ろしくなって、気が付いたらからだに戻っていたの」
「左様で……」
「ねえ、さとみちゃん……」百合恵が壁から身を起こした。「地縛霊の主に吹き飛ばされたんじゃないのね?」
「そうなんです。気障ったらしいあのいやなヤツに……」
「そう……」
 百合恵は再び壁に寄り掛かり、タバコをくわえて火をつけた。主の棲家の闇をじっと見つめながら、煙を吐き出す。さとみも一緒になって闇を見ている。
「さとみちゃん……」百合恵の呼びかけにさとみは振り返ったが、百合恵は闇を見つめていた。「主はあなたを見た?」
「いいえ!」さとみは憤慨しながら言った。「『この街の女だったのだから、俺の物だ。俺の女だ。女は俺のためにあるのだ!』なんて言うもんだから、かっとして文句を言ったんです! ひどい事言うでしょ? でも、馬鹿にしているのか、ちらっとも見ないんです!」
「あら、そんなことを言うなんて、度胸があるのねえ」百合恵はさとみを見て微笑んだ。しかし、すぐに厳しい顔を闇に向け、つぶやくように言った。「……ふ~ん、ちらっとも見なかったのね……」
 百合恵の厳しい視線がふっと和らいだ。唇に皮肉な笑みを浮かべる。
「姐さん……」その様子を見た豆蔵がすっと立ち上がった。「何かお考えでも浮かびましたようで…… よろしければ、豆蔵がお手伝いいたします」
「あら、相変わらず察しがいいのねえ」百合恵は豆蔵に笑顔を向けた。豆蔵は照れ臭そうに下を向く。「でも、ここはさとみちゃんが一人で行かなきゃならないわ……」

 つづく



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