お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 167

2020年10月26日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「……テルキ……さんに?」
 ナナはそう言うと、首を傾げる。その状態で逸子たちに振り返った。逸子たちも同じ様に首を傾げていた。ナナは傾げたままの首をタケルに戻した。
「あのさ、タケル……」ナナが言う。「それって、どう言う事?」
「ああ……」タケルは深呼吸をした。「……今、テルキ先輩と一緒に行動しているんだ」
「知っているわ。潜入捜査でしょ?」
「そう。『ブラックタイマー』以後に現われた最大の組織への潜入捜査だよ。それで打ち合わせをしている時に、改めて、ボクたちの作戦の事を話したんだよ」
「あら、テルキさん、わたしたちの作戦には関心が無かったんじゃないの?」
「そうだったんだけどさ、打ち合わせが早く終わって、ちょっと時間が出来たんだよ。その時に、よっぽど暇だったんだろうね、先輩から話を切り出されたんだ。それで色々と話をした……」
「じゃあ、協力をしてくれるって事になったの?」
「いや、そうじゃないな。協力って言うよりは助言者って感じかなぁ……」タケルは思い出しながら言う。「『オレはこんなんでもタイムパトロールの一員だ。だから直接手は貸せないが、助言くらいならパトロールの規則に抵触しないだろう』って言ってくれたんだ」
「それで?」
「アツコさんと逸子さんが、支持者が来るのをエデンの園で手ぐすね引いて待っているって話したら、『待機状態では、いざと言う時に動けないかもしれない。だから、からだが鈍らないように実践的な訓練をした方が良い。そのためには意表を突く行動が必要だ』って言われたんだ」
「実践的ねぇ……」逸子が言う。「アツコとわたし、いつも組み手をやって時間を過ごしていたから、そんな訓練は必要ないわ。免許皆伝の力を知ら無さ過ぎね」
「でもさ、ボクはそんな事よく分かんないからさ、先輩の言う事が正しいって思ってさ、それで、支持者の真似してみたんだ。そうしたら……」
「実践的訓練なんかいらないって言うくらいに、ぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにされたってわけね」ナナが言う。「ご愁傷様な話だわ……」
「わたしもアツコも、本当に支持者だって思ったから…… ごめんなさいね……」
 逸子は申し訳なさそうだ。
「いや、大丈夫さ。気にしないでくれ。二人がこれだけ強いって分かれば全然問題が無いって、先輩に報告できるからさ」
 うんうんとうなずいているタケルを、今まで黙っていたアツコが心配そうな顔で見た。
「あのね、タケルさん……」アツコは言いにくそうに続ける。「聞きたい事があるんだけど…… 良いかしら?」
「何だい? もうすっかり回復したから、遠慮なく聞いてくれよ。……でもね、やられた時の感想は聞かないでよ。正直覚えていないんだ」
「それじゃないわ……」アツコが真剣な顔になる。「……タケルさん、支持者の真似って、誰から教えてもらったの?」
「え?」驚いた顔のテルキは、しかし次には笑った。「ははは、そりゃあ、テルキ先輩に決まっているじゃないか。他に誰がいるって言うんだい?」
 タケルはそう答えたが、アツコの表情は晴れない。
「ねえ、アツコ、どうしたのよ?」逸子がいぶかしむ。「何が気になるのよ? タケルさんの言った通りだって、わたしにだって分かるわ」
「うん……」アツコは逸子に顔を向ける。「実はね。……支持者の様子を知っているのは、わたしとタロウだけなのよ……」
「そうか」タケルは明るく答える。「じゃあ、タロウさんが先輩に教えたんだな。ほら、タイムパトロールで清掃中に親しくなって話したとか……」
「いや、それは無いよ……」タロウはタケルと反対に暗い表情で言う。「だって、テルキさんって、パトロール内にほとんど居ないってタケルさんが言ってたじゃないか。実際会った事ないよ」
「……ほら、先輩ってさ、潜入捜査のエキスパートだろう?」タケルはさらに明るい声を出す。「だからさ、二人が支持者に会っていた所を狙って、こっそり見ていたんだよ」
「それは無理だわ……」アツコもタロウと同じ暗い表情で言う。「いつどこに現われるか、わたしにもタロウにも分からなかった支持者を、待ち伏せなんかできないわ……」
「そうだよ、タケルさん……」タロウが言う。「支持者がいきなり現われて、ボクは驚いたんだからね。会うタイミングを狙ったり待ち伏せたりとかは出来ないよ……」
「じゃあさ、どうやって、先輩は支持者の真似をボクに教えてくれたんだよ?」タケルはむっとした表情だ。「支持者はこう言うんだって、先輩は紙に書いてくれたんだぜ! だから、ボクはどこかで会ったり聞いたりしたんだとばかり思っていたんだ!」
「……タケルさん……」アツコが悲しそうな顔でタケルを見る。「分かっているでしょう?」
「いいや、ボクにはさっぱり分からないよ!」タケルはムキになって答える。「全然、さっぱり全く、これっぽっちも、分からないね!」
「ダメよ! そんな事を言っても……」アツコがじっとタケルを見る。「テルキさんが、支持者なのよ……」


つづく


コメントを投稿