重い空気が流れる。
「……そんな馬鹿な事……」タケルがつぶやく。「……だって、先輩はタイムパトロールの中でも優秀な隊員なんだぞ」
「でも、他に考えられないわよ」アツコが厳しい表情で言う。「どうしてこんな事をするのかは分からないけど」
「ねえ、アツコさん……」ナナがアツコを見る。「間違っていない? 本当にテルキさんだと?」
「疑うの?」アツコがナナをにらむ。「そりゃ、わたしとタロウしか支持者に会っていないし、しかも顔も見ていないし、声だって機械で変えていたわ。でも、間違いないわよ」
「イヤ! ボクは信じないぞ!」
タケルは立ち上がる。いきなり立ち上がったせいかふらふらとよろめく。手を貸そうと腕をつかんだナナの手をからだをひねって振り払った。タケルはアツコをにらむ。
「アツコさん……」タケルは低い声で言う。「先輩が『ブラックタイマー』を解散させたから、逆恨みしているんだろう? だから、そんな事を言うんだろう?」
「それは違うわよ、タケル!」ナナがタケルの前に立つ。「解散の時、わたしたち現場に居たじゃない! その時、すでにアツコさんは、あのお城には居なかったのよ!」
「そう。あの時点でアツコはここ、エデンの園へ移っていた。……そして、ボクは恥ずかしながら、テルキさんに、こてんぱんにやられてしまった。それで『ブラックタイマー』は解散になってしまった」タロウは苦笑しながら言う。「まあ、結果的には良かったんじゃないかと思うんだ……」
「……」タケルは頭を抱えた。「じゃあ、先輩が支持者をやって『ブラックタイマー』も解散させたのか? と言う事はさ、支持者ってのも『ブラックタイマー』解散のための作戦だったんじゃないのか?」
「でもね、次第に歴史への介入を指示し始めたのよ」アツコは言って逸子を見る。「コーイチさんを捕える指示もあったし」
「でもさ、それって、歴史上の人物と入れ替わって楽しむって言う、君たちのような違反者の遊びの一環じゃないのか?」タケルがアツコに言う。「ボクたちタイムパトロールが出来たのも、そんな事が横行していたからって言う実情があったからだ」
「支持者は、楽しむだけで始めたわたしたちに、どんどん歴史を変えさせるように指示を出し続けたわ。だから、実際に『ブラックタイマー』を動かしていたのは支持者だったわ」アツコがタケルに言う。「どんどん危険な方向へと向かっていくのを感じていたわ。後、上から目線の偉そうな態度も嫌いだった」
「先輩はそんな人じゃない!」
「じゃあ、支持者の時だけそうしていたのよ。……それとも、そっちの方が本当の姿だったんじゃないかしら」
「そんな事、あるもんか!」タケルが叫ぶ。「先輩は、ボクに色々と教えてくれた良い先輩なんだぜ! それにさ、アツコさんの言う事には証拠が無いじゃないか!」
「……あるわよ、タケル」ナナが静かに言う。「テルキさんは支持者の事を細かく知っているじゃない? 誰に聞いたわけでもないのに。そのせいでアツコさんがあなたを支持者だって思ったから、ぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにやられてしまったのよ……」
「……」タケルはぎゅっと握り拳を両手に作った。「とにかく、ボクは先輩が支持者だなんて信じないからな!」
「気持ちは分かるわ」ナナが言う。「だったら、なおさら、テルキさんに聞いてみなくちゃいけないわ。それでわたしたちの誤解だって分かれば、改めて支持者を捜せば良いんだし」
タケルは下を向いたまま答えない。ナナがタケルの肩に手を置いた。
「タケル…… あなたがテルキさんを信じているのなら協力してよ。テルキさんが支持者でないと分かったら、わたし、あなたのために何でもするわ」
タケルはナナを見た。ナナは真剣だった。アツコもタロウも逸子もナナに同調するようにうなずいている。
「……分かったよ」タケルは大きく息をついた。「じゃあ、交換条件だ。もし先輩が支持者だったら、ボクがみんなのために何でもするよ……」
「うん……」ナナはそう言うと、優しい表情になった。「それで、今テルキさんはどこ? 潜入先なのかしら?」
「いや、それはもう終わったんだ。だから、ボクはここに来たんだよ。さすがに任務中に出来る事じゃないからね」タケルは言う。「多分、タイムパトロール本部に戻ったと思う。でも、あの先輩の事だから、ふらっとどこかへ出かけているかもしれない」
「じゃあ、今から行ってみましょう」ナナが言ってアツコたちに振り返る。「直接聞き出してみるわ」
「でも、ナナさん……」アツコが言う。「正直に話してくれるかしら?」
「支持者の事をあんなに詳しく知っているのよ。もし、話をはぐらかしたとしても、タケルを危険な目に遭わせた責任はあるし」
「上手く行くかしら……」
「何よ、アツコ」逸子が言う。「あなたがそんな弱気でどうするの? 一番の被害者じゃない? 上手く行くかしらじゃなくて、上手く行かせるのよ!」
「そうよね……」
「話は決まったわね」ナナが言う。「じゃあ、みんなで行きましょう」
皆がうなずく。ナナは自分のタイムマシンを操作した。光が生じた。タケルはいきなり座り込んだ。
「イヤだ! ボクは行かない!」
「タケル……」ナナはタケルを見て溜め息をつく。「気持ちは分かるけど、さっきは納得してくれたじゃない」
「でも行かない!」
「……分かったわ」ナナは決然とした声で言う。「じゃあ、あなたはここに居ると良いわ。結果が分かったら伝えに戻って来るから」
「先輩は関係が無いんだ!」
タケルは言うと突然立ち上がり、自分のタイムマシンを操作し、生じた光の中へと飛び込んだ。そして、手にテニスボールくらいの大きさの金属製の球体を持って出て来た。
「これは、先輩がくれたものだ! 支持者が何か武器を持っていたら、二人がどう対応するのかも検討しなければいけないだろうって言ってね!」
「じゃあ、それって武器って事?」ナナが呆れたように言う。「そんな形だったら、爆弾かその類なんじゃないの?」
「だとしたら危ないわよ!」アツコが叫ぶ。「タケルさん! 落ち着いてよ!」
「どいつもこいつも先輩を犯罪者扱いしやがって!」
タケルは涙を流しながらそう叫ぶと、手にした球体を地面に叩き付けようと腕を振り上げた。逸子は右腕全体にオーラを湧き出させた。湧き出したオーラを人差し指に集中させ、指先を球体に向け、オーラを撃ち出した。光線銃からの発射の様だった。タケルの手から離れた球体にオーラは命中した。弾き飛ばそうと思っていたが、球体は二つに割れた。
中からピンク色のガスが漂い出た。
それは、あっという間に四方に広がり、皆を包み込んだ。その途端、皆は一言も発する間もなく、ばたばたと倒れてしまった。
つづく
「……そんな馬鹿な事……」タケルがつぶやく。「……だって、先輩はタイムパトロールの中でも優秀な隊員なんだぞ」
「でも、他に考えられないわよ」アツコが厳しい表情で言う。「どうしてこんな事をするのかは分からないけど」
「ねえ、アツコさん……」ナナがアツコを見る。「間違っていない? 本当にテルキさんだと?」
「疑うの?」アツコがナナをにらむ。「そりゃ、わたしとタロウしか支持者に会っていないし、しかも顔も見ていないし、声だって機械で変えていたわ。でも、間違いないわよ」
「イヤ! ボクは信じないぞ!」
タケルは立ち上がる。いきなり立ち上がったせいかふらふらとよろめく。手を貸そうと腕をつかんだナナの手をからだをひねって振り払った。タケルはアツコをにらむ。
「アツコさん……」タケルは低い声で言う。「先輩が『ブラックタイマー』を解散させたから、逆恨みしているんだろう? だから、そんな事を言うんだろう?」
「それは違うわよ、タケル!」ナナがタケルの前に立つ。「解散の時、わたしたち現場に居たじゃない! その時、すでにアツコさんは、あのお城には居なかったのよ!」
「そう。あの時点でアツコはここ、エデンの園へ移っていた。……そして、ボクは恥ずかしながら、テルキさんに、こてんぱんにやられてしまった。それで『ブラックタイマー』は解散になってしまった」タロウは苦笑しながら言う。「まあ、結果的には良かったんじゃないかと思うんだ……」
「……」タケルは頭を抱えた。「じゃあ、先輩が支持者をやって『ブラックタイマー』も解散させたのか? と言う事はさ、支持者ってのも『ブラックタイマー』解散のための作戦だったんじゃないのか?」
「でもね、次第に歴史への介入を指示し始めたのよ」アツコは言って逸子を見る。「コーイチさんを捕える指示もあったし」
「でもさ、それって、歴史上の人物と入れ替わって楽しむって言う、君たちのような違反者の遊びの一環じゃないのか?」タケルがアツコに言う。「ボクたちタイムパトロールが出来たのも、そんな事が横行していたからって言う実情があったからだ」
「支持者は、楽しむだけで始めたわたしたちに、どんどん歴史を変えさせるように指示を出し続けたわ。だから、実際に『ブラックタイマー』を動かしていたのは支持者だったわ」アツコがタケルに言う。「どんどん危険な方向へと向かっていくのを感じていたわ。後、上から目線の偉そうな態度も嫌いだった」
「先輩はそんな人じゃない!」
「じゃあ、支持者の時だけそうしていたのよ。……それとも、そっちの方が本当の姿だったんじゃないかしら」
「そんな事、あるもんか!」タケルが叫ぶ。「先輩は、ボクに色々と教えてくれた良い先輩なんだぜ! それにさ、アツコさんの言う事には証拠が無いじゃないか!」
「……あるわよ、タケル」ナナが静かに言う。「テルキさんは支持者の事を細かく知っているじゃない? 誰に聞いたわけでもないのに。そのせいでアツコさんがあなたを支持者だって思ったから、ぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにやられてしまったのよ……」
「……」タケルはぎゅっと握り拳を両手に作った。「とにかく、ボクは先輩が支持者だなんて信じないからな!」
「気持ちは分かるわ」ナナが言う。「だったら、なおさら、テルキさんに聞いてみなくちゃいけないわ。それでわたしたちの誤解だって分かれば、改めて支持者を捜せば良いんだし」
タケルは下を向いたまま答えない。ナナがタケルの肩に手を置いた。
「タケル…… あなたがテルキさんを信じているのなら協力してよ。テルキさんが支持者でないと分かったら、わたし、あなたのために何でもするわ」
タケルはナナを見た。ナナは真剣だった。アツコもタロウも逸子もナナに同調するようにうなずいている。
「……分かったよ」タケルは大きく息をついた。「じゃあ、交換条件だ。もし先輩が支持者だったら、ボクがみんなのために何でもするよ……」
「うん……」ナナはそう言うと、優しい表情になった。「それで、今テルキさんはどこ? 潜入先なのかしら?」
「いや、それはもう終わったんだ。だから、ボクはここに来たんだよ。さすがに任務中に出来る事じゃないからね」タケルは言う。「多分、タイムパトロール本部に戻ったと思う。でも、あの先輩の事だから、ふらっとどこかへ出かけているかもしれない」
「じゃあ、今から行ってみましょう」ナナが言ってアツコたちに振り返る。「直接聞き出してみるわ」
「でも、ナナさん……」アツコが言う。「正直に話してくれるかしら?」
「支持者の事をあんなに詳しく知っているのよ。もし、話をはぐらかしたとしても、タケルを危険な目に遭わせた責任はあるし」
「上手く行くかしら……」
「何よ、アツコ」逸子が言う。「あなたがそんな弱気でどうするの? 一番の被害者じゃない? 上手く行くかしらじゃなくて、上手く行かせるのよ!」
「そうよね……」
「話は決まったわね」ナナが言う。「じゃあ、みんなで行きましょう」
皆がうなずく。ナナは自分のタイムマシンを操作した。光が生じた。タケルはいきなり座り込んだ。
「イヤだ! ボクは行かない!」
「タケル……」ナナはタケルを見て溜め息をつく。「気持ちは分かるけど、さっきは納得してくれたじゃない」
「でも行かない!」
「……分かったわ」ナナは決然とした声で言う。「じゃあ、あなたはここに居ると良いわ。結果が分かったら伝えに戻って来るから」
「先輩は関係が無いんだ!」
タケルは言うと突然立ち上がり、自分のタイムマシンを操作し、生じた光の中へと飛び込んだ。そして、手にテニスボールくらいの大きさの金属製の球体を持って出て来た。
「これは、先輩がくれたものだ! 支持者が何か武器を持っていたら、二人がどう対応するのかも検討しなければいけないだろうって言ってね!」
「じゃあ、それって武器って事?」ナナが呆れたように言う。「そんな形だったら、爆弾かその類なんじゃないの?」
「だとしたら危ないわよ!」アツコが叫ぶ。「タケルさん! 落ち着いてよ!」
「どいつもこいつも先輩を犯罪者扱いしやがって!」
タケルは涙を流しながらそう叫ぶと、手にした球体を地面に叩き付けようと腕を振り上げた。逸子は右腕全体にオーラを湧き出させた。湧き出したオーラを人差し指に集中させ、指先を球体に向け、オーラを撃ち出した。光線銃からの発射の様だった。タケルの手から離れた球体にオーラは命中した。弾き飛ばそうと思っていたが、球体は二つに割れた。
中からピンク色のガスが漂い出た。
それは、あっという間に四方に広がり、皆を包み込んだ。その途端、皆は一言も発する間もなく、ばたばたと倒れてしまった。
つづく
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