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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第五章 駈け回る体育館の怪 23

2022年03月31日 | 霊感少女 さとみ 2 第五章 駈け回る体育館の怪
「ねえ、春美先生……」
 さとみが声をかける。春美はさとみを見るが、また駈け出そうとするまさきときりとを押さえつけていて大変そうだ。
「竜二、子供たちをお願いできる?」さとみが笑みを浮かべて竜二に言う。だが、それは取りあえずの愛想笑いだ。「春美先生とお話があるから……」
「え? さとみちゃんがオレに笑いかけてくれた……」竜二の涙腺が崩壊しかかる。「いつも怒ってばかりだったさとみちゃんが……」
「ほらほら、しっかりしてよ」虎之助が竜二の背中をさする。「さっきみたいに泣いていたら、さとみちゃんの御用が果たせないでしょ?」
「うん……」
 竜二は涙を拭いながら言うと、うなずく。……なんだか竜二って大きな子供ねぇ。だからあのボクちゃんたちと相性が良いのかも。さとみは、竜二の生い立ちに同情した自分が馬鹿馬鹿しくなってしまった。結局は、竜二の精神年齢があの幼稚園児たちと同等なのだと言う事だ。
 竜二はまさきときりとを手招きして呼び寄せると、一緒に座り込んで話しを始めていた。何の話をしているのかは聞き取れなかったが、まさきもきりとも笑っている。
「あの人、保父さんに向いていますね……」春美は竜二を見てつぶやく。「わたしなんて、全然で……」
「保父さんねぇ……」さとみは竜二を見て、ため息をつく。「と言うよりも、あの竜二は、精神年齢があの子供たちと同じなのよ。だから、世話してるって言うよりも、一緒に遊んでいるんだわ」
「そうなんですか……」
「まあ、それはそれで良いとして……」さとみは言う。「今は、もう少し聞きたい事があるの、春美先生」
「先生はやめてください。わたし、先生なんて呼ばれる自信がありませんから……」
「そう……」さとみはため息をつく。「……じゃあ、春美さん、わたしの所に、どうやって来れたの?」
「え?」
「何とか抜け出せたって言ってたけど、そこの所を事を詳しく訊きたいわ」
「……どうやってって言われても……」春美は下を向いておどおどしている。「気がついたら外に居て……」
「それは、ご自分で出たんで? それとも、どこかの誰かさんに出されたんで?」
 豆蔵が割って入る。目に鋭い光を湛えている。『目明しモード』になっているようだ。
「それは……」春美は豆蔵を見る。しかし、すぐに下を向いてしまった。「それは、ここに連れて来られてからは、早く抜け出したいとは思ったいましたけど……」
 確かに子供に不慣れな新人保母さんなら、こんなやんちゃな子供やおませな子供と一緒には居たくはないだろう。さとみは少し同情する。
「じゃあ、ご自分から出たわけじゃねぇと……?」豆蔵はさらに問う。「誰かが出してくれたってわけですかね?」
「そこは、はっきりとはしません…… ただ、出たいと思い続けていたら、あの日、ふっと外に出られて……」
「ほう…… じゃあ、誰かが春美さんの思いを汲み取ったと言う訳で……」
「そう、みたいです……」
「思い当たりはありやせんか?」
「さあ…… わたし、霊体になってから日も浅くて知り合いもいなですし、一緒に居るのはこの子供たちだけでしたから……」
「知り合いは子供たちだけだと?」
「はい、すみません……」
 春美は消え入りそうな声で答えた。豆蔵は礼を言うと下がった。
「ところで……」今度は冨美代が割って入って来た。「あなたは、子供も連れて行こうとは思いませんでしたの?」
「え?」
「ですから、子供たちと共に早く抜け出したいとは思わなかったのですか?」
「それは……」威圧的な冨美代の態度に春美はおろおろしている。「一緒の子供たちは、幼稚園でも問題になる子たちでしたので……」
「では、見捨てると言う事でしょうか?」
「いえ、そこまでは思っていませんでした…… ただ、わたしはもともと保母には向かないと思っていた矢先の事故でしたので……」
「逃れたいと思ったわけですね?」
「それはあったと思います…… すみません……」
「わたくしに謝ってどうなさるのです?」
「あの、冨美代さん……」さとみが言う。「冨美代さんも、さっき、子供たちを成敗しようとしたじゃない?」
「わたくしは、子供の面倒を見る立場ではございませんから」冨美代はまさきときりとを睨みつける。いつの間にか右手に薙刀を握っている。「あのままでは正しい日本男児には育ちますまい。ならば、いっそ成敗した方が……」
「怖い事言わないで!」さとみが言うと、冨美代は機嫌を損ねたようで、ぷいと向こうを向いて、薙刀を振り回しながら行ってしまった。「……やれやれ」
 さとみは笑みを春美に向けた。
「みんな勝手な事を言っているけど、何とか助けてあげたいと思っているのよ」さとみは言う。「でも、ここから出られないんじゃなぁ……」
「じゃあさ」虎之助が割り込んできた。「今度はさ、子供たちと一緒に外に出たいって思い続ければさ、出られるんじゃない?」
「でも、春美さんはここへ連れ戻されちゃったのよ」
「だったらさ、誰も連れ戻さないでってのも思えば良いんじゃない?」
「……本当に、それが効き目あると思うの?」
「それは……」さとみに睨まれて、虎之助は苦笑する。「そうだったら良いなって事じゃない。実際に出たいと思って出られたんだからさ。あきらめちゃダメって事よ」
 そう言うと虎の助は竜二の傍へと行ってしまった。
「あんな事言って……」さとみはため息をつく。「でもさ、思うって大事かもね」
「そう、だと良いですね……」
 春美は自信なさそうに、力なく笑む。


つづく


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