お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 27

2021年11月19日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 動きを止めた影から突き出ている切っ先は、さとみに向いている。さとみは覚悟を決めたのか、目を閉じた。……「霊感少女 さとみ」が「生ける屍少女 さとみ」になっちゃうかも知れないわ。さとみは思った。
 不意に金属が硬いものにぶつかる音がした。さとみは目を開ける。目の前の踊り場に刀が転がっていた。さとみは顔を上げた。影は消えていた。
「え? なんで? どうして?」
 さとみはきょろきょろする。豆蔵が現われた。
「嬢様、あの野郎、消えちまいやしたよ」
「消えた……?」
「へい。嬢様が目を閉じなすって、しばらくしたら、すうっと消えちまいやした」
「どうしてだろう?」
「さあ…… ひょっとして、嬢様の度胸に畏れ入ったんじゃねぇでしょうかね?」
「度胸……」
 ふと背後から肩を掴まれた。さとみはびくんとなる。
「……さとみ殿」みつだった。笑みを浮かべているが、まだ辛そうだ。「何と、無茶な事を…… でも、お蔭で助かりました……」
「ええ、良かったわ……」
「気配も消えたようです」みつは周囲を見回しながら言う。「それにしても、得体の知れない相手ですね……」
「でも、あれがラスボス(みつも豆蔵も意味が分からないと言う顔をしている)、ええと…… 親玉なんでしょ?」
「それは何とも言えやせんぜ」豆蔵が言う。「野郎の後ろにさらに嫌な野郎が居ないとも限りやせん」
「……脅さないでよう……」さとみはイヤな顔をする。「やっと一安心したところなんだから」
「そりゃあ、申し訳のねぇこって……」豆蔵がぽりぽりと頭を掻く。「でやすが、油断は禁物で」
「その言葉、わたしも肝に銘じておきます」みつが神妙な面持ちで言う。「まだまだ修行が足りない事も痛感しました」
「いえ、みつ様に申し上げたんじゃねぇんで……」
 豆蔵が慌てて手を振り回して否定する。
「じゃあ、わたしに言ったってこと?」
 さとみがむすっとした顔で豆蔵を見る。
「いえ、そう言うわけでも……」豆蔵は困ったように頭を掻いている。「……そうだ、これはあっし自身に言ったんでやすよ。おい、豆蔵、油断は禁物だぜ、ってね」
 さとみとみつが笑い出した。必死な豆蔵が可笑しかったからだ。
「さあ、一段落したようね」百合恵が言いながら階段を下りてくる。「……さとみちゃんもそろそろからだに戻った方が良いわよ。それに、ほら、しのぶちゃんが……」
 さとみはしのぶを見た。踊り場に座り込んだまま、目と口をを大きく見開いている。さとみは霊体をからだに戻した。油の切れかかったロボットのように動くさとみだったが、しばらくして、いつもの動きに戻った。
「……しのぶちゃん? 大丈夫?」
 さとみは座り込んでいるしのぶの顔を覗きこむ。しのぶはそのままの顔をさとみに向ける。途端に、顔をくしゃくしゃにして、さとみの胸に縋り付いた。
「先輩ぃぃぃぃ!」しのぶは言うと、わんわん泣き出した。「わぁぁぁぁ! 見ちゃいました! 見ちゃいましたぁぁ!」
「しのぶちゃん、もう大丈夫よ」さとみは言いながら、しのぶの頭を撫でる。「怖かったわよねぇ……」
「え?」しのぶはさとみの胸から顔を上げた。ぽかんとした表情だ。「怖い…… ですか?」
「そうよ、見ちゃったって言うから、怖かったんだろうって……」
「そんな事あるわけないじゃないですか!」
 しのぶはすっと立ち上がった。その勢いに、逆にさとみが座り込んでしまった。
「わたし、初めてだったんです!」しのぶは座り込んださとみにぐっと顔を寄せる。「初めて、霊を見たんですよ! ああ! なんて幸運! この喜びを幸運の女神フォルトゥーナにお礼しなくちゃいけません! あああ、幸せぇ!」
 しのぶはきゃいきゃいと飛び跳ねている。さとみは呆然とした顔でしのぶを見ている。
「姐さん……」百合恵の横に立った豆蔵が、はしゃぐしのぶを見ながら苦笑する。「今時の娘っ子ってのは、あっしには分かりやせんねぇ…… 普通なら、怖がるはずなのに」
「あの娘は特別なのよ」百合恵が笑む。「でもね、怖がってひんひん泣かれるよりは、はるかにましだわ」
「でも、気になるのは……」みつも百合恵の横に立った。「あのように、普段は霊を見ない娘が見えたと言う事は、あの黒い影、極めて強力と言えそうです。実際、わたしも危なかったわけですし……」
「そうね……」百合恵ははしゃぐしのぶ見ながらようやく立ち上がってさとみを見つめる。「でも、どうして、あの影、さとみちゃんの前から消えちゃったのかしら?」
 別の声が聞こえてきた。「のぶ~っ!」「百合恵さ~ん!」朱音と松原先生の声だった。
「これで北階段のお話はケリが付いたようね」百合恵がみつと豆蔵を見て言う。「ここはもう大丈夫の様だわ」
「そうですね。わたしも新たな修行の目標が出来ましたし……」
「あっしも、もう少し聞き込みをしてみてぇと思いやす……」
「二人とも、無理をしちゃダメよ」
 みつと豆蔵は百合恵に一礼すると、すっと消えた。
「……この感じだと、これでおしまいってわけにはいかなそうよねぇ……」
 百合恵はつぶやくと、胸元からシガレットケースを取り出した。 


つづく 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 霊感少女 さとみ 2  学校... | トップ | ヒーロー「スペシャルマン」・16 »

コメントを投稿

霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪」カテゴリの最新記事