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ジェシル 危機一発! ㊷

2019年12月26日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 トールメン部長はジェシルの病室からあちこちの連絡をして状況の把握に努めた。ジェシルは働くトールメン部長を初めてみたような気がした。
 状況をまとめると、クェーガーに関しても匿名の連絡があったのだそうだ。半信半疑で捜索班がヘリム街の安アパートに向かうと、クェーガーはモーリーと同じようにひもを首に巻かれて締め上げられた状態で発見された。そして、モーリーと同様、首が千切れかかっていたそうだ。
「じゃあ、モーリーの時と同じ、物凄い力持ちの仕業ですか?」ジェシルはトールメン部長に言う。「同一犯……」
「その可能性は高いだろう」トールメン部長は無表情で答える。「首が千切れそうになるくらい締め上げることができるヤツなど、そうはいないだろうからな」
「わたしの襲撃に失敗したから消された……」
「そうかも知れないが、まだ捜査中だ。迂闊な断定はできない」 
「匿名の連絡があったと言っていましたけど?」
「そうだ。モーリーの時と同じだ。発信元を調べたが、盗難届の出ている携帯電話だった。全く別の場所で捨てられているのが発見された」
「モーリーの時は発信元が確認できなかったのに、今回は出来たんですか」
「あれから、万一に備え準備をしていたのだ」
「そうでしょうね、モーリーの時は部長が連絡を受けたのに、発信元がわからなかったんですからね」
「クェーガーの居た部屋には、作りかけのものも含めて、様々な爆発物があったそうだ」トールメン部長にはジェシルの皮肉が全く通じていない。ジェシルはつまらなさそうな顔をする。「押収し調べれば、カルースの車や君の屋敷、資料室の気体毒、さらには、最初に君に投げつけられた爆弾の事もわかるかも知れない」
「そう願いたいものですわ」
「これから本部に戻り、今後の対策を練らねばならない。君は安静にしているのだな」
「もう大丈夫です」ジェシルはベッドから降りようとする。「これから受付へ行って、すぐ退院手続きをしてきます」
「何も慌てることはないだろう。散々、地球で身を隠していたのだからな。そのついでだ」
 トールメン部長に皮肉を言われ、ジェシルはむっとした顔になった。しかし、そんな事にかまっていられない。
「部長……」ジェシルは真顔になって言う。「一つ忘れてはいませんか?」
「何をだ?」
「えっ? もう忘れたんですか?」ここぞとばかりにジェシルが罵詈雑言をトールメン部長に浴びせる。「部長なのに! 管理職なのに! こんな大切なことを?」
「何が言いたいのだ?」トールメン部長は全く動じない。「わたしは忙しい。用件を言いたまえ」
「あと一人、わたしのオフィスに忍び込んだニンジャ野郎がいたと言うことです」
 病室を出ようとしたトールメン部長がジェシルの言葉に振り返った。
「映像も何も残っていなかったと言う件か?」
「そうです。モーリーもクェーガーもいなくなった今、次はそのニンジャ野郎の出番になるんじゃないでしょうか?」
「だがな、ジェシル。目撃者は君だけだ。盛られた薬で幻覚を見ていたのかもしれない」
「ですが、防犯カメラの映像が不自然に途切れていました」
「それは機械的な問題だろう。何者かの仕業と言うには根拠が薄弱だ」
「じゃあ、部長はニンジャ野郎は居なかったって言うんですか!」
「そうではない。ただ、確認できないものは、どうにもできないと言っているのだ」
「万が一、この病室にニンジャ野郎が現われたら、どうすればいいんですか!」
「君はパトロール内部の、それも上層部を疑っている。ここは病院だ。パトロールではない。心配はいらないだろう」
「でも、パトロール専属の病院です」
「専属なだけだ。セキュリティは別物だ」
「そうは言いますけど、パトロールの連中がうろうろしているじゃないですか。パトロール内部と変わりありませんけど」
「ジェシル……」トールメン部長は溜め息をついた。「まさか、君は守ってほしいと言うのかね?」
「はあ?」
 唐突なトールメン部長の言葉にジェシルの思考が混乱する。……部下を守らない気なの? 見殺しにする気なの? やっぱり、部長が黒幕だったのかしら……
「『ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてあげるわ』が、君のモットーではなかったのか?」
「……」
「それにここはパトロールではない。何かあっても責任は個人持ちだ。わたしの関知することではない」
 トールメン部長はそう言うと病室を出て行った。
「ふん、部長のヤツ! 何を偉そうに言ってんのよ!」ジェシルはベッドの寝転がる。「ふん! 何が『ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてあげるわ』よ!」
 ジェシルは鼻を鳴らしながら、じっと天井を見つめていた。


つづく



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