「ジェシル、ギッタンギッタンにグッチャングッチャンには出来なかったようだな」
騒ぎのあった翌日の午後、退院したジェシルはトールメン部長のオフィスにいた。部長の嫌味に対して大きな欠伸をして見せた。騒ぎがあってから寝ていなかったのと、部長の話を聞く気になれないと言う意思表示でもあった。
「ですが、これでニンジャ野郎が実際にいることは信じていただけました?」ジェシルは眠そうな声で言った。「それとも、部長の目の前に現われなければ信じてもらえませんか?」
「わたしはそこまで懐疑的ではない」トールメン部長はジェシルの皮肉に動ぜずに言う。「病室の窓が破壊された状況を見れば、少なくとも何者かが逃走した事は分かる。自演でなければな」
「自演だと思っているんですか? たかが部長に信じ込ませたいだけで、そんなことすると思っているんですか? この、わたしが?」
「多くの仮説の一つとして話しているだけだ。君を疑っているわけではない」
「まあ、良いですけど……」ジェシルはつまらなさそうに言う。「それで、提出したニンジャ野郎の破片から何か分かりましたか?」
「その点だがな、ジェシル……」トールメン部長がじろりとジェシルを見つめる。「破片は完全に溶解してしまっていて判別できなくなっているそうだ。どうやら、使用したメルカトリーム熱線銃は規定よりも出力が高いものだと結論が出た。あの銃はどこで手に入れたのだ?」
ジェシルは答えなかった。ドクター・ジェレミウスが作った物だからだ。ドクターは宇宙パトロールから要注意人物に指定されていて、接触が禁じられているからだ。
「……まあ良いだろう」口を真一文字に結んだジェシルを見て、トールメン部長は諦めたように溜め息をついた。「とにかく分かったのは、その者が怪力のサイボーグか、またはアンドロイドかと言う事と、モーリーとクェーガーを殺した犯人らしいと言う事だな」
「サイボーグです。首を絞められそうになった時に、ヤツがしている防御マスク越しに呼吸音が聞こえましたから」
「そうか。だが、二十三階から飛び降りるとはな……」
「そう、驚きました。ヤツはかなり高度なサイボーグですね。手足だけなのか、からだのほとんどなのか……」
「それほど特徴的ならば、絞り込みやすいのではないか?」
「それはどうでしょうね? そんなヤツがいるんなら必ず情報は入ってきます。そのために情報屋がいるんですから。……あ、キャリア組の部長は知らないでしょうけど」
「つまらんことは言わなくてもよい」
「極秘に製造されたサイボーグかも知れませんし、最新のサイボーグかも知れません。とにかく、メインコンピューターで調べてみますけど」
「そうしてくれ」
ジェシルは部屋を出ようとして立ち止まり、部長のデスクに詰め寄った。
「そうだ、部長。資料室に行かなきゃ重要事項が調べられないって言うシステム、何とかなりませんか?」
「それは以前からの決まりだからな。わたしに言っても仕方のないことだろう。それに、わたしの権限が及ぶことでない」
「じゃあ、誰に言えば良いんですか?」
「ビョンドル統括管理官だろうな。だが、あの方は物事を新しくすることには至極消極的だ」
「そうですか……」ジェシルはうんざりした顔をする。「資料室のオムルも何だか最近辛そうに見えちゃって……」
「じゃあ、君からビョンドル統括管理官に進言するのだな。数々の手続きがあるだろうがな」
「考えただけでイヤになっちゃいます」ジェシルはさらにうんざりした顔をする。「部長経由じゃダメなんですか?」
「わたしは今のその方法で不自由を感じてはいない」
トールメン部長はそう言うと椅子を回転させ、ジェシルに背中を向けた。話し合いは終わりと言う合図だ。ジェシルは昨日のニンジャ野郎の代わりにトールメン部長を「ギッタンギッタンにグッチャングッチャンに」してやった(見えない攻撃だったが)。
むっとした顔でトールメン部長のオフィスを出たジェシルだったが、背後で扉が開き、トールメン部長が出てきて、ジェシルを呼び止めた。
「どうしたんですか? わたしの代わりに進言してくれる気になったんですか?」
「そうではない」トールメン部長はむっとしたジェシルを平然と見返して言う。「ビョンドル統括管理官がお呼びだ。すぐにオフィスに向かうように」
用件を伝えるとトールメン部長はオフィスに戻った。
「ふん! 何よ! 偉そうに!」ジェシルは鼻を鳴らし、口を尖らせる。「これだから管理職って嫌いだわ! 用があるなら自分から来ればいいのよ!」
ブーツの靴音も高く、ジェシルは上層部専用のエレベーターホールへと向かう。
警備のジョグがジェシルを見ると思い切り嫌な顔をした。
「……またお前か……」ジョグは眉間に縦皺を寄せる。「今回は何だ?」
「あら、聞いてないのかしら?」ジェシルは嫌味っぽく言う。「ビョンドル統括管理官から直々に呼ばれたのよ! 直々にね!」
「待っていろ、確認する」
ジョグはジェシルを睨みつけながら携帯電話を取り出した。操作をし、低い声でやり取りをしている。やがて電話を切ると、忌々しそうに舌打ちをした。
「確認した。ビョンドル統括管理官がお待ちだ」
「だから、そう言ってるじゃないの」
「さっさとエレベーターに乗れ」
ジョグは言うとエレベーターの扉を開ける。ジェシルはわざとらしくゆっくりと乗り込んだ。ジョグがその後に素早く乗り込み、エレベーターの扉を閉めた。階を示すランプが黙々と上層階へと上がって行く。
つづく
騒ぎのあった翌日の午後、退院したジェシルはトールメン部長のオフィスにいた。部長の嫌味に対して大きな欠伸をして見せた。騒ぎがあってから寝ていなかったのと、部長の話を聞く気になれないと言う意思表示でもあった。
「ですが、これでニンジャ野郎が実際にいることは信じていただけました?」ジェシルは眠そうな声で言った。「それとも、部長の目の前に現われなければ信じてもらえませんか?」
「わたしはそこまで懐疑的ではない」トールメン部長はジェシルの皮肉に動ぜずに言う。「病室の窓が破壊された状況を見れば、少なくとも何者かが逃走した事は分かる。自演でなければな」
「自演だと思っているんですか? たかが部長に信じ込ませたいだけで、そんなことすると思っているんですか? この、わたしが?」
「多くの仮説の一つとして話しているだけだ。君を疑っているわけではない」
「まあ、良いですけど……」ジェシルはつまらなさそうに言う。「それで、提出したニンジャ野郎の破片から何か分かりましたか?」
「その点だがな、ジェシル……」トールメン部長がじろりとジェシルを見つめる。「破片は完全に溶解してしまっていて判別できなくなっているそうだ。どうやら、使用したメルカトリーム熱線銃は規定よりも出力が高いものだと結論が出た。あの銃はどこで手に入れたのだ?」
ジェシルは答えなかった。ドクター・ジェレミウスが作った物だからだ。ドクターは宇宙パトロールから要注意人物に指定されていて、接触が禁じられているからだ。
「……まあ良いだろう」口を真一文字に結んだジェシルを見て、トールメン部長は諦めたように溜め息をついた。「とにかく分かったのは、その者が怪力のサイボーグか、またはアンドロイドかと言う事と、モーリーとクェーガーを殺した犯人らしいと言う事だな」
「サイボーグです。首を絞められそうになった時に、ヤツがしている防御マスク越しに呼吸音が聞こえましたから」
「そうか。だが、二十三階から飛び降りるとはな……」
「そう、驚きました。ヤツはかなり高度なサイボーグですね。手足だけなのか、からだのほとんどなのか……」
「それほど特徴的ならば、絞り込みやすいのではないか?」
「それはどうでしょうね? そんなヤツがいるんなら必ず情報は入ってきます。そのために情報屋がいるんですから。……あ、キャリア組の部長は知らないでしょうけど」
「つまらんことは言わなくてもよい」
「極秘に製造されたサイボーグかも知れませんし、最新のサイボーグかも知れません。とにかく、メインコンピューターで調べてみますけど」
「そうしてくれ」
ジェシルは部屋を出ようとして立ち止まり、部長のデスクに詰め寄った。
「そうだ、部長。資料室に行かなきゃ重要事項が調べられないって言うシステム、何とかなりませんか?」
「それは以前からの決まりだからな。わたしに言っても仕方のないことだろう。それに、わたしの権限が及ぶことでない」
「じゃあ、誰に言えば良いんですか?」
「ビョンドル統括管理官だろうな。だが、あの方は物事を新しくすることには至極消極的だ」
「そうですか……」ジェシルはうんざりした顔をする。「資料室のオムルも何だか最近辛そうに見えちゃって……」
「じゃあ、君からビョンドル統括管理官に進言するのだな。数々の手続きがあるだろうがな」
「考えただけでイヤになっちゃいます」ジェシルはさらにうんざりした顔をする。「部長経由じゃダメなんですか?」
「わたしは今のその方法で不自由を感じてはいない」
トールメン部長はそう言うと椅子を回転させ、ジェシルに背中を向けた。話し合いは終わりと言う合図だ。ジェシルは昨日のニンジャ野郎の代わりにトールメン部長を「ギッタンギッタンにグッチャングッチャンに」してやった(見えない攻撃だったが)。
むっとした顔でトールメン部長のオフィスを出たジェシルだったが、背後で扉が開き、トールメン部長が出てきて、ジェシルを呼び止めた。
「どうしたんですか? わたしの代わりに進言してくれる気になったんですか?」
「そうではない」トールメン部長はむっとしたジェシルを平然と見返して言う。「ビョンドル統括管理官がお呼びだ。すぐにオフィスに向かうように」
用件を伝えるとトールメン部長はオフィスに戻った。
「ふん! 何よ! 偉そうに!」ジェシルは鼻を鳴らし、口を尖らせる。「これだから管理職って嫌いだわ! 用があるなら自分から来ればいいのよ!」
ブーツの靴音も高く、ジェシルは上層部専用のエレベーターホールへと向かう。
警備のジョグがジェシルを見ると思い切り嫌な顔をした。
「……またお前か……」ジョグは眉間に縦皺を寄せる。「今回は何だ?」
「あら、聞いてないのかしら?」ジェシルは嫌味っぽく言う。「ビョンドル統括管理官から直々に呼ばれたのよ! 直々にね!」
「待っていろ、確認する」
ジョグはジェシルを睨みつけながら携帯電話を取り出した。操作をし、低い声でやり取りをしている。やがて電話を切ると、忌々しそうに舌打ちをした。
「確認した。ビョンドル統括管理官がお待ちだ」
「だから、そう言ってるじゃないの」
「さっさとエレベーターに乗れ」
ジョグは言うとエレベーターの扉を開ける。ジェシルはわざとらしくゆっくりと乗り込んだ。ジョグがその後に素早く乗り込み、エレベーターの扉を閉めた。階を示すランプが黙々と上層階へと上がって行く。
つづく
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