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コーイチ物語 「秘密のノート」 129

2022年09月25日 | コーイチ物語 1 15) 二人の京子 
 白い京子…… いや、シャンは、やれやれと言った表情をして見せた。
「ま、分かっちゃったんだから、もう仕方ないわね。妹の『ブロウ』の言う通りよ」シャンは赤い京子を指差して言った。「……コーイチ君、ゴメンね。でも、楽しかったでしょ?」
「まだ、そんな事言ってるの!」赤い京子…… いや、ブロウが言った。「どうせ、私に化けて好き勝手な事して、何かあると責任を全部、私に被せて消えちゃうくせに!」
「失礼な娘ねぇ…… 妹でも言って良い事と悪い事とがあるわよ!」
 シャンが眉間にしわを寄せた。冷たい顔に厳しさが加わる。
「今までがそうじゃない!」ブロウがこわい顔をした。「あのお侍さんの時も、あの軍人さんの時も……」
 ……侍? 軍人? 
「可愛い妹に幸せになってもらいたいから、変な虫が付かない様に気を遣っている姉の心が分かんないの?」
「分かるわけないじゃない! 邪魔ばっかりしてるくせに!」
 この二人、一体幾つなんだろう? コーイチは指を折って数えたが、途中で聞いた方が早い事に気付き、止めてしまった。
「ところで……」コーイチが声をかけた。「君達って、幾つなんだい?」
「あら、レディに歳を聞くなんて……」
 シャンがおどけた声を発して笑った。冷たい表情が消え、優しい表情になった。……大人の雰囲気もいいなぁ。思わずにま~っとしてしまうコーイチだった。
「でも、コーイチ君になら教えてあげるわ……」シャンが恥ずかしそうに小声でささやいた。「私はブロウよりも三つ上よ」
 コーイチはブロウを見た。シャンが化けていて、ずっと「幼なじみの京子」として見慣れた顔だ。
「私?」ブロウは、これも見慣れた、思わず許してしまう可愛い笑顔を見せた。「私はシャンお姉様より、三つ年下よ」
「あ、そう……」
 ……これ以上は聞けないなぁ。コーイチはあきらめた。ま、いいか。見た目の年齢はボクと変わらないようだし、そのつもりでいた方が気分が良いし……
「ところで……」コーイチが再び声をかけた。「闘いは終わったのかなぁ?」
 シャンとブロウは顔を見合わせた。そして、同時に笑い出した。
「そうね」シャンが言った。「コーイチ君と居ると、闘う気力がなくなっちゃうわ」
「本当!」ブロウも言った。「何故かとっても癒されちゃうのよねぇ……」
 二人は揃って、ため息をついた。
「素敵よねぇ……」
 ブロウはうっとりとした視線をコーイチに向けた。
「いいわよねぇ……」
 シャンが頬を染めてコーイチを見つめる。
「えっ?」ブロウはシャンをきっとした目で見つめた。「お姉様……。コーイチ君は私のものよ!」
「いいじゃないの」シャンもにらみ返す。「あなたに化けていたら、私もコーイチ君が気に入ったの!」
「勝手な事言わないでよ!」
「じゃあ、ちょっとだけ分けてよ!」
「ダメよ! 全部、私のものよ!」
 空気が揺れ出した。……まずい、また険悪な感じになって来たぞ……
「ところで……」コーイチはわざとらしく大きな声を出した。「もうそろそろ、部屋に戻してくれないかなぁ……」
「あら、ゴメンなさい……」
 ブロウがぺろりと舌を出し、軽く右手を振った。途端に赤い空間はコーイチの部屋に戻った。
 シャンとブロウは並んで立ち、コーイチはスミ子を抱えて布団の上に座っていた。
「まあまあ、スミ子!」
 軽くじたばたしたスミ子に気が付いてブロウが言った。 
「放っておいてゴメンなさいねぇ」
 ブロウは子供をあやすような声を出して、スミ子に手を伸ばした。コーイチはブロウに手渡した。
「あら?」
 受け取ったブロウは急にこわい顔になった。シャンの方へ顔を向けた。
「……お姉様、スミ子に何かしたでしょう!」
「何もしていないわよ」
 シャンは否定する。……え? さっきスミ子に名前を書いたじゃないか。コーイチは平然とした顔のシャンを見て驚く。
「本当にぃ……?」ブロウはシャンに向ける疑いの眼差しをやめない。「絶対の絶対にぃ……?」
「まあ! 実の姉を疑うの?」
「実の姉だから疑うのよ!」
 二人は睨み合った。しばらくして、シャンが面倒くさそうに言った。
「ただ、スミ子にコーイチ君の名前を書いてもらっただけよ」

       つづく


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