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コーイチ物語 「秘密のノート」 128

2022年09月25日 | コーイチ物語 1 15) 二人の京子 
 スミ子を抱えたコーイチのおどおどした姿が面白かったのか、赤い京子がぷっと吹き出した。白い京子も同様に吹き出す。闘いの緊張感が一気に退いた。
「あのね……」赤い京子が優しく言った。「覚えている? 携帯電話の事……」
 言われたコーイチはスミ子の表紙を無意識に撫でながら考え込んでいた。……確か、パーティ会場に入る前に、どこからか湧いて出て来た岡島を完膚無きまでに言い負かした後だ。魔女だって言われて驚いて、現われた理由が落としたスミ子を返して欲しいって事で、そして、不気味な教会の鐘のような音がして……
「思い出した! ボクの命を魔女の世界へ導く音だなんて言って、からかったんだ!」
「まあ。ひどい事をしたのねぇ」白い京子が呆れたように言った。「人の事を散々に言っておきながら・・・」
「うるさいわね! 程度が違うわよ!」
 赤い京子はじろりと白い京子をにらみつけた。白い京子は背中を向けて、知らん顔を決め込んだ。
「で、その先の事は、どう?」
 赤い京子はコーイチに笑顔を向け、優しい口調で言った。
「そうだなぁ……」笑顔に見惚れながらコーイチは答えた。「鐘の音は実は携帯電話の着信音で、電話に出た君(コーイチは二人の京子を交互に見ていた。すると、赤い京子が自らを指差した)が、『本当にいやなヤツ!(赤い京子は白い京子の背中を指差した)』なんて言って、ものすごく不機嫌になって、ボッと消えた……」
「そうよ、この人に呼び出されて……」
 赤い京子が「この人」と言った時、白い京子は振り返って赤い京子をにらんだ。
「この人だなんて、水くさい言い方ね!」
「『この人』が気に入らないんなら、なんて呼んでやろうかしらね」
 赤い京子もにらみ返す。周りの空気が揺れ始めた。
「あのう……」高まり始めた緊張感を察したコーイチが声をかけた。「そもそもの二人の関係は何なんだい?」
 赤い京子が白い京子を指差した。
「私の実の姉よ!」
「えええええっ!」
 コーイチは驚いて白い京子を見た。
 白い京子は「えへへへ」と笑いながらコーイチに手を振って見せた。
 ……どう言う事だ? ずっと居たこの娘は、偽物だったのか? でも本物も良くは知らないんだけど……
「私を呼び出して隙を見て魔力で封じ込め、私に成りすましてコーイチ君に近付いていたのよ!」
「そうなんだ…… でも、どうして、そんな事を?」
「だって……」白い京子はとびきり可愛い笑顔をコーイチに向けた。「からかって遊ぶのは魔女の楽しみなんだもん!」
「なんだもん……って、そうなんだ」
 コーイチは呆れたように答えた。他に答えようがない。
「でも、それだけじゃないわ」白い京子がからかうような視線を赤い京子に向けた。「妹が好きになった人がどんな人かなって思って……」
「だからって、私を瓶の中に閉じ込める事ないじゃない!」顔を真っ赤にして赤い京子が白い京子に食って掛かった。「出るのに苦労したんだから!」
「でも、脱け出せたんだからいいじゃないの」白い京子は口元に意地悪そうな笑みを浮かべた。「私が魔力を軽くしたからよ……」
 突然、赤い京子は右手の平を白い京子の顔にぴたっと当てた。
 白い京子は「きゃっ!」と短く叫んで赤い京子から離れ、両手で顔を覆って立ち尽くした。
 コーイチは心配そうな顔で白い京子を見た。
「コーイチ君。心配なんかしてやる事はないわ」赤い京子は厳しい声で言った。それから少し頬を赤らめて優しい声で続けた。「でも、そんな優しいところが好きなんだけど……」
「いや、あのその、それは、うれしいことで……」
 しどろもどろでコーイチは答えた。
「な~にをのろけてんのよ!」
 白い京子が言った。声が少し違って聞こえた。覆っていた両手を下げた。
 そこには、京子に似て整った顔立ちではあるが、京子よりも少し年上で、可愛いと言うよりも大人びたやや冷たい感じの美女が立っていた。
「そっちの顔のほうがピッタリよ。『シャンお姉様』!」

       つづく


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