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ジェシル、ボディガードになる 161

2021年07月09日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「ハービィ」オーランド・ゼムが言う。呼ばれたハービィはぎぎぎと音を立てて顔を向ける。「ジェシルを外へ連れて行ってくれたまえ」
「かしこまりましてございますです」ハービィは答えると、横倒しになっているジェシルへ、がちゃがちゃと足音高く近づく。「ハニー、立てるか?」
「この状況を見て、どう思うの?」ジェシルは口を尖らせる。両手と両脚をぐるぐる巻きにされて倒れているのだ。「立てると思うの?」
 ハービィはジェシルを見ながら動きを止めている。状況を計算しているようだ。
「ハニー」しばらくしてハービィが言う。「壁まで転がりながら進み、背中を壁に着けて、にじり上がるようにすれば、立てる」
「あのねぇ……」ジェシルは呆れたような顔をしてハービィを見る。「本気で言っているの? もし、それで立てたって、歩けると思う? 前へ進めると思う?」
 ハービィが再び動かなくなった。また計算している。
「ハニー」しばらくしてハービィが言うと、動き出そうとする。「飛び跳ねながら動けば、前進できる。さあ、外へ行こう」
「ちょっと! 何を言い出しているのよう!」
「ほほほ!」笑ったのはミュウミュウだった。口元に手の甲をかざし、品良く笑っている。「楽しい遣り取りね。二人でコメディアンでもやると良いわ。『ジェシルとハービィ』って名前でね!」
「ふざけないで!」ジェシルはミュウミュウを睨む。「それ以上何か言うと、許さないわよ!」
「わあ、怖ぁい……」ミュウミュウはわざとらしく言うと、オーランド・ゼムの背に隠れた。「……あなた、ジェシルが苛めるのよ……」
「それは困ったジェシルだねぇ」オーランド・ゼムが含み笑いをしながら言う。「ハービィ、ジェシルを外へ連れ出すのだ」
「かしこまりましてございますです」ハービィは言うと、ぎぎぎと音を立てながら、右手をジェシルに伸ばす。「ハニー、外へ連れ出すよ」
 ハービィは言うと、ジェシルの長い髪を掻き分けて制服の襟首をつかんだ。そして、軽く持ち上げる。ジェシルはヒールを床に着け、仰向けになったままでからだが斜めになった。そのまま引きずり始める。
「ほほほ、まるでキャリーバッグね!」ミュウミュウが笑う。「良い気味だわ!」
「ちょっと待ってよ! ハービィ!」ジェシルは叫ぶ。ハービィはジェシルをつかんだ状態で止まった。「こんな事されたら、苦しいわ! 息が出来ないわよう!」
「ハニー」ハービィは言うと、頭を百八十度回して仰向けのジェシルを見る。「それは無い。わがはいの計算では、苦しくない様につかんだはずだ。ハニー、嘘はいけないよ」
「ははは、ハービィはジェシルに優しいねぇ」オーランド・ゼムは笑う。「ジェシル、君もハービィの優しさに応えなければならないな。そのためにも、大人しく引きずられて行く事だ」
「ふん!」
 ジェシルは鼻を鳴らしながら、ハービィに引きずられて部屋を出て行った。
「……さて」オーランド・ゼムはムハンマイドに銃口を向ける。「おふざけは終わりだ。すぐに修理に掛かってもらおうか」
「ああ、分かったよ」ムハンマイドは答えると、ドアまで行き、そこで振り返った。「一つ、約束をしてくれ。そうでなければ修理はしない」
「何だね?」オーランド・ゼムが言う。「わたしは寛大だ。言ってみたまえ」
「さっきも言ったんだが、修理が終わったら、さっさとこの星から出て行ってくれ。そして、ボクたちには何もしない事を約束するんだ。さらに、これ以降は一切関わりを持たない事もだ」
「何よ、一つの約束って言ったのに、結局は三つもあるじゃない!」ミュウミュウが呆れたように言う。「欲張りなボクちゃんねぇ」
「どうなんだ?」ムハンマイドは、ミュウミュウを無視して、オーランド・ゼムに詰め寄る。「確約してくれなければ、ボクは何もしない!」
「分かったよ、当然の要求だ」オーランド・ゼムはうなずく。「わたしとしては、君の作ってくれた武器があれば充分だ。修理が終われば、すぐにこの星を離れよう。もちろん、ジェシルにもこれ以上は手を出さない」
「ミュウミュウはどうなんだ?」ムハンマイドはミュウミュウを睨む。しかし、浮ついた様子をミュウミュウに見抜かれ、くすくす笑われた。「おい! 笑っていないで答えろよ!」
「あら、ごめんなさいね、ボクちゃんが余りに必死なものだから……」ミュウミュウは言うと、軽く咳払いをして真顔になった。「もちろん、わたしもこれ以上の事はしないわ。もう充分に楽しんだし、ジェシルも馬鹿に出来たし。……何より、もう飽きちゃったわ」
「と言う訳だよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムは笑む。「信用してくれたまえ。アーセルやリタには、わたしやミュウミュウの個人的な思いがあったのだが、君に対しては、そう言うものは無い。しかも、君は優秀で、これからの宇宙のために必要な存在だ。ジェシルにしても、これからの宇宙パトロールを背負う立場になって行くだろう。まあ、ジェシルとは、良きライバルとして付き合って行きたいとは思っているのでね、ここで、どうこうするつもりは無いよ」
「……じゃあ、約束をしてくれるんだな?」
「もちろんだ。ついでに言わせてもらえば、わたしたちは、最初から、君の言う事をするつもりだったのだよ。ミュウミュウは口が先行してしまって、ついつい乱暴な事を言ってしまったがね」
「そうよ。わたしって、本当は殺しなんて嫌いなのよ」ミュウミュウは言うと、残忍な笑みを浮かべた。「死んじゃったら、何の反応も無くなっちゃうからね……」
「おいおい、ミュウミュウ、そう言う言い方が誤解を招くのだよ」
「あら、ごめんなさい…… 気を付けるわ」
「そう言う事だ、ムハンマイド君」
「……分かった」ムハンマイドは二人を交互に見てうなずく。「じゃあ、修理に掛かる。ハービィを借りるぞ」
 ムハンマイドはそう言うと、部屋を出て行った。
 オーランド・ゼムとミュウミュウは互いに見つめ合い、小さく笑った。 


つづく


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