「……そう言うわけだから……」ミュウミュウは言うと、オーランド・ゼムを見る。「あなた、あれを出して」
「ああ、これだね」オーランド・ゼムはズボンの右脇ポケットに手を入れて、半インチ四方の黒い立方体を取り出した。「ほら」
「ありがとう、あなた」ミュウミュウは笑顔で左手で受け取る。手の平で転がしてみせながら、ジェシルに言う。「さあ、ジェシル、後ろを向いて。そして、手を突き出して」
「何をするつもりよ!」ジェシルは従わず、口を尖らせる。「それって、何よ?」
「それは、わたしが説明しよう」オーランド・ゼムが笑む。「これはね、拘束具だよ。叩いたりして刺激を与えると長い紐状になるのだ。それで相手を縛って身動き出来なくしてから、もう一度叩くと、きつく締め上げるのさ」
「そんな馬鹿なもの、誰が作ったのよ!」
「ひどい事を言うねぇ……」オーランド・ゼムは笑む。「これはわたしの特注品だよ」
「やっぱり、下品なヤツは下品なものしか考えられないのね」ジェシルが小馬鹿にする。「でも、あなたじゃ作れないでしょ? 手伝ったお馬鹿さんは誰なのよ?」
「お馬鹿さんか…… 確かにそうかも知れないね」オーランド・ゼムは思い出し笑いをする。「だが、その人物は喜んで作ってくれたよ。君も知っている人物だ」
「まさか……」ジェシルはイヤな予感がして、眉間に皺を寄せた。「……ドクター・ジェレマイア……」
「ははは、大当たりだよ、ジェシル」
「どうせ、脅したんでしょ?」
「そうでは無い。話をしたら喜んで作ってくれた。ドクターは無茶な注文になればなるほど燃える性質だからね」オーランド・ゼムは愉快そうだ。「……それに、ドクターは、君専用の御用達ではない。確か、宇宙パトロールでも要注意人物の扱いとなっていたはずだ」
「……あの、くそじじい……」ジェシルは毒づく。「今度会ったら、ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるわ!」
「さあ、話が終わったのなら、さっさと向こうを向いて、手を後ろに回しな!」ミュウミュウが言う。「こんな遣り取りは、もう、うんざりよ!」
「乱暴な口のきき方ね。まあ、それが本当の姿らしいわね」ジェシルは言うと、ため息をついた。「……分かったわ。言う通りにするわ……」
ジェシルは背をミュウミュウに向けると、腕をミュウミュウの方へと伸ばし、腰辺りで両手を組んだ。ミュウミュウが近付く。
と、ジェシルは上半身を思い切り前へと曲げた。その勢いで右脚を振り上げた。ブーツの硬いヒールが近付いたミュウミュウの顎を捉えた。が、ミュウミュウはそれを察したのか、軽く一歩下がってジェシルの蹴りを躱した。ジェシルは素早く上半身を起こすと、振り上げた右脚を床に着け、それを軸にしてからだを回し、高く上げた左脚のヒールでミュウミュウの横面を狙った。だが、これもミュウミュウに躱された。ミュウミュウと向かい合ったジェシルは、残忍な笑みを浮かべているミュウミュウに只ならぬ殺気を感じ、後方へ飛び退いた。
「ふふふ……」ミュウミュウは笑う。「わたしの不意を突いたつもりだったようだけど、大した事ないわね。全部お見通しよ」
「ふん!」
ジェシルは鼻を鳴らすと、ミュウミュウに突進した。左右の拳を幾度も素早く繰り出す。しかし、ミュウミュウはからだを少し揺らすだけで、全ての拳を避けた。時折入れられた蹴りも軽く躱す。
「何よ、あなた…… ちょこまかちょこまかと……」ジェシルはミュウミュウから少し離れて立つと肩で息をする。「ふざけているの……?」
「わたしが生きてきた星では、逃げ回れないものは死ぬしかなかったわ。わたしはその中でも逃げ回るのは長けていたのよ」ミュウミュウは言うと、残忍な笑みを浮かべる。「でもね、逃げ回るのが長けたのは、生き抜くためだけじゃないわ」
「じゃあ、何よ?」
「相手がへとへとになって自滅する様を眺めるのが、大好きだったのよ。ぞくぞくするくらいにね…… そして、動けなくなったところで止めを刺すのよ。相手のあの絶望的な顔ったら、ぞくぞくを超えて、もううっとりよね……」
「どうかしているわね、あなた……」
ジェシルは言うと床に座り込んでしまった。ミュウミュウの小馬鹿にした表情や、軽く躱された事への憤りなどで、ついムキになって攻め続け、結果として、立っていられないほどに疲弊してしまったのだ。ジェシルは、自ら両手を背に回した。
「抵抗はしないわ。もう、疲れちゃったし…… 拘束でも何でもするが良いわ」
「そう? じゃあ、撃ち殺してやろうかしら」
ミュウミュウは銃を構え直し、座っているジェシルの額に銃口を向ける。
「そんな事をしたら修理はしないぞ!」ムハンマイドがジェシルの前に立ってミュウミュウを睨む。「分かっているんだろうな?」
「ふん! ジェシルを助けたかったら実力で来れば?」ミュウミュウは小馬鹿資すると銃を下げた。「ボクちゃんが強がっても、怖くも何とも無いわ」
ミュウミュウは銃をオーランド・ゼムに預け、一歩前に出る。残忍な笑みに気圧され、ムハンマイドがジェシルの前から退いた。
「あらあら、やっぱり口だけのボクちゃんね」ミュウミュウはムハンマイドを見たが、直ぐにジェシルに目を移した。「……ジェシル、手は前に出して」
ジェシルはむっとした顔で、後ろ手を戻し、伸ばした両腿の上に置く。
ミュウミュウは左手の上の立方体を、右手の平で叩いた。すると、十フィートほどの長さの黒い紐状のものが、合わさった手の中から左右に伸び出した。ミュウミュウはそれでジェシルの両手首を縛り上げた。
「本当に抵抗しないのね、感心するわ」
「無駄な抵抗は無駄なのよ」
「ふふふ、それは真理ね」ミュウミュウは笑顔を浮かべる。「気が変わったわ。両脚も揚げてちょうだい」
「どうするつもり?」
「足も縛るわ。馬鹿な事をしたら、オーランド・ゼムが黙っていないわよ」ミュウミュウは言う。オーランド・ゼムの持つ二丁の銃の銃口がジェシルに向いている。「さあ、無駄な抵抗は無駄よ」
ジェシルは両足を揚げた。手首を縛った紐の残りを使って手慣れた感じで両足を縛り上げる。縛り終わると太腿の上の紐を思い切り強く叩いた。
「きゃっ!」ジェシルは小さく悲鳴を上げる。叩かれた紐はきつくなって、ジェシルの手首と脚に食い込んだ。「ちょっと、きついわよ!」
「あら、そう?」ミュウミュウは笑む。そう言うとミュウミュウはジェシルの肩を蹴った。ジェシルは横倒しになる。「これで良いわ。念には念を入れよって所ね」
ジェシルはむっとしたまま口を開かない。
つづく
「ああ、これだね」オーランド・ゼムはズボンの右脇ポケットに手を入れて、半インチ四方の黒い立方体を取り出した。「ほら」
「ありがとう、あなた」ミュウミュウは笑顔で左手で受け取る。手の平で転がしてみせながら、ジェシルに言う。「さあ、ジェシル、後ろを向いて。そして、手を突き出して」
「何をするつもりよ!」ジェシルは従わず、口を尖らせる。「それって、何よ?」
「それは、わたしが説明しよう」オーランド・ゼムが笑む。「これはね、拘束具だよ。叩いたりして刺激を与えると長い紐状になるのだ。それで相手を縛って身動き出来なくしてから、もう一度叩くと、きつく締め上げるのさ」
「そんな馬鹿なもの、誰が作ったのよ!」
「ひどい事を言うねぇ……」オーランド・ゼムは笑む。「これはわたしの特注品だよ」
「やっぱり、下品なヤツは下品なものしか考えられないのね」ジェシルが小馬鹿にする。「でも、あなたじゃ作れないでしょ? 手伝ったお馬鹿さんは誰なのよ?」
「お馬鹿さんか…… 確かにそうかも知れないね」オーランド・ゼムは思い出し笑いをする。「だが、その人物は喜んで作ってくれたよ。君も知っている人物だ」
「まさか……」ジェシルはイヤな予感がして、眉間に皺を寄せた。「……ドクター・ジェレマイア……」
「ははは、大当たりだよ、ジェシル」
「どうせ、脅したんでしょ?」
「そうでは無い。話をしたら喜んで作ってくれた。ドクターは無茶な注文になればなるほど燃える性質だからね」オーランド・ゼムは愉快そうだ。「……それに、ドクターは、君専用の御用達ではない。確か、宇宙パトロールでも要注意人物の扱いとなっていたはずだ」
「……あの、くそじじい……」ジェシルは毒づく。「今度会ったら、ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるわ!」
「さあ、話が終わったのなら、さっさと向こうを向いて、手を後ろに回しな!」ミュウミュウが言う。「こんな遣り取りは、もう、うんざりよ!」
「乱暴な口のきき方ね。まあ、それが本当の姿らしいわね」ジェシルは言うと、ため息をついた。「……分かったわ。言う通りにするわ……」
ジェシルは背をミュウミュウに向けると、腕をミュウミュウの方へと伸ばし、腰辺りで両手を組んだ。ミュウミュウが近付く。
と、ジェシルは上半身を思い切り前へと曲げた。その勢いで右脚を振り上げた。ブーツの硬いヒールが近付いたミュウミュウの顎を捉えた。が、ミュウミュウはそれを察したのか、軽く一歩下がってジェシルの蹴りを躱した。ジェシルは素早く上半身を起こすと、振り上げた右脚を床に着け、それを軸にしてからだを回し、高く上げた左脚のヒールでミュウミュウの横面を狙った。だが、これもミュウミュウに躱された。ミュウミュウと向かい合ったジェシルは、残忍な笑みを浮かべているミュウミュウに只ならぬ殺気を感じ、後方へ飛び退いた。
「ふふふ……」ミュウミュウは笑う。「わたしの不意を突いたつもりだったようだけど、大した事ないわね。全部お見通しよ」
「ふん!」
ジェシルは鼻を鳴らすと、ミュウミュウに突進した。左右の拳を幾度も素早く繰り出す。しかし、ミュウミュウはからだを少し揺らすだけで、全ての拳を避けた。時折入れられた蹴りも軽く躱す。
「何よ、あなた…… ちょこまかちょこまかと……」ジェシルはミュウミュウから少し離れて立つと肩で息をする。「ふざけているの……?」
「わたしが生きてきた星では、逃げ回れないものは死ぬしかなかったわ。わたしはその中でも逃げ回るのは長けていたのよ」ミュウミュウは言うと、残忍な笑みを浮かべる。「でもね、逃げ回るのが長けたのは、生き抜くためだけじゃないわ」
「じゃあ、何よ?」
「相手がへとへとになって自滅する様を眺めるのが、大好きだったのよ。ぞくぞくするくらいにね…… そして、動けなくなったところで止めを刺すのよ。相手のあの絶望的な顔ったら、ぞくぞくを超えて、もううっとりよね……」
「どうかしているわね、あなた……」
ジェシルは言うと床に座り込んでしまった。ミュウミュウの小馬鹿にした表情や、軽く躱された事への憤りなどで、ついムキになって攻め続け、結果として、立っていられないほどに疲弊してしまったのだ。ジェシルは、自ら両手を背に回した。
「抵抗はしないわ。もう、疲れちゃったし…… 拘束でも何でもするが良いわ」
「そう? じゃあ、撃ち殺してやろうかしら」
ミュウミュウは銃を構え直し、座っているジェシルの額に銃口を向ける。
「そんな事をしたら修理はしないぞ!」ムハンマイドがジェシルの前に立ってミュウミュウを睨む。「分かっているんだろうな?」
「ふん! ジェシルを助けたかったら実力で来れば?」ミュウミュウは小馬鹿資すると銃を下げた。「ボクちゃんが強がっても、怖くも何とも無いわ」
ミュウミュウは銃をオーランド・ゼムに預け、一歩前に出る。残忍な笑みに気圧され、ムハンマイドがジェシルの前から退いた。
「あらあら、やっぱり口だけのボクちゃんね」ミュウミュウはムハンマイドを見たが、直ぐにジェシルに目を移した。「……ジェシル、手は前に出して」
ジェシルはむっとした顔で、後ろ手を戻し、伸ばした両腿の上に置く。
ミュウミュウは左手の上の立方体を、右手の平で叩いた。すると、十フィートほどの長さの黒い紐状のものが、合わさった手の中から左右に伸び出した。ミュウミュウはそれでジェシルの両手首を縛り上げた。
「本当に抵抗しないのね、感心するわ」
「無駄な抵抗は無駄なのよ」
「ふふふ、それは真理ね」ミュウミュウは笑顔を浮かべる。「気が変わったわ。両脚も揚げてちょうだい」
「どうするつもり?」
「足も縛るわ。馬鹿な事をしたら、オーランド・ゼムが黙っていないわよ」ミュウミュウは言う。オーランド・ゼムの持つ二丁の銃の銃口がジェシルに向いている。「さあ、無駄な抵抗は無駄よ」
ジェシルは両足を揚げた。手首を縛った紐の残りを使って手慣れた感じで両足を縛り上げる。縛り終わると太腿の上の紐を思い切り強く叩いた。
「きゃっ!」ジェシルは小さく悲鳴を上げる。叩かれた紐はきつくなって、ジェシルの手首と脚に食い込んだ。「ちょっと、きついわよ!」
「あら、そう?」ミュウミュウは笑む。そう言うとミュウミュウはジェシルの肩を蹴った。ジェシルは横倒しになる。「これで良いわ。念には念を入れよって所ね」
ジェシルはむっとしたまま口を開かない。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます