お話

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聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 28

2021年08月22日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
「……はい、もしもし、岡園です……」
 恵一郎がぼそっとした声で言う。
「おっ、その声は恵一郎か?」電話の相手は妙にテンションが高い。恵一郎にはこんな知り合いはいない。「オレだ、オレ!」
「オレって……」最近じゃ、若者を狙うオレオレ詐欺でもあるんだろうか…… 恵一郎は警戒すると同時に弱気を見せられないと思った。「どこの誰だよ! 勝手に名前を呼ぶんじゃないぞ!」
「な~に言ってんだ。オレだよ、担任の黒田だよ!」
「え? 黒田先生……?」言われてみれば聞いた事のある声だ。「そうか、休みの連絡をしてませんでした。すみません。今から行きます」
「そんな事はどうでも良いんだよ!」黒田のテンションは相変わらず高い。「今な、学校中大騒ぎだぞ!」
「何の話ですか?」
「ま~たまたまたまた!」黒田はそう言うと、がははははと笑う。その声の大きさに恵一郎は耳の奥がきんと鳴り、思わず受話器を耳から離した。「白々しいヤツだなあ!」
「……だから、何なんです?」
「お前、『聖ジョルジュアンナ高等学園』の特待生で入学だってなあ!」
「え……」恵一郎は言葉に詰まる。「……どうして、それを……」
「たった今、聖ジョルジュアンナの理事長の篠目川清子って人が学校に見えてな、……いやあ、凄い貫禄と言うか、凄い美熟女と言うか…… まあ、それはどうでも良いんだが、入学手続きの記入済みの書類を見せてくれてな、何とも穏やかな微笑みと共にな、こう言ったんだ(黒田はここでこほんと軽く咳をして声の調子を変えた)。『お宅の生徒さんの岡園恵一郎君を、わたくしどもの学校へ特待生として受け入れさせて頂きますわ』ってなあ! いやあ、驚いたぜぇ!」
「……はは……」恵一郎は笑うしかない。「ははは……」
「あ、ちょっと待て! 今、校長先生と代わるからな!」
 担任は何かごにょごにょと話をしている。しばらくすると、朝礼で耳馴染んだ、やや甲高い校長の声が、受話器から流れてきた。
「いや~、岡園恵一郎君! 快挙だよ、快挙!」校長は黒田以上に舞い上がっているようだ。「たった今、ジョルジュアンナの理事長さんをお見送りしたばかりなんだがね、理事長さんは、君には才能があるので特待生にしたとおっしゃっていらしたよ。とにかくだ、君は我が校の誇りだ! よくやってくれた!」
「はあ…… ありがとうございます……」
 まだ何か言い続けていた校長だったが、恵一郎は受話器を戻した。両親の方へ振り返ったが、相変わらず呆けたままだった。
 ……やられた! あの理事長、なんて素早い行動力なんだ! これで僕は特待生として入学しなければならなくなったじゃないか! それにしても今の電話の応対は何だ? 『ありがとうございます』なんて答えてしまったぞ…… ついさっきまでは断ろうと思っていたのに、もう出来なくなってしまった…… どうして、いつもいつも、僕の思うのとは逆の方へと物事が動いて行くんだろう!
「あのさ、父さん…… 母さん……」恵一郎は両親に呼びかける。両親は顔を上げて恵一郎を見るが、虚ろな眼差しのままだった。反応が無い。「……もう良いや! 勝手にやらせてもらうよ!」


つづく


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