お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 24

2022年05月08日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
 谷山先生は、生徒たちと松原先生を無視して、坂本教頭の前に立つ。
「教頭先生ぃ!」きんきん声がさらに高くなる。「校長先生のお部屋の件は、もう解決したも同然ですわぁ!」
「おお!」坂本教頭は満面に笑みを浮かべ、流れ落ちる額の汗を拭う。「で、どうやるのかね?」
「実はぁ……」谷山先生は、薄い胸を張る。「わたくしの知り合いに霊媒師が居りますのぉ。先程、準備室へ戻る途中で思いついて電話してみましたのぉ……」
「ほう、それで?」
 坂本教頭は関心を示す。松原先生はため息をつく。アイは「勿体つけてんじゃねぇや!」と毒づいている。しのぶと朱音は「心霊モード」の眼差しで谷山先生を見ている。特にしのぶは「霊媒師」の言葉に瞳をきらきらさせている。
 さとみは皆とは反対方向に顔を向けている。豆蔵と竜二が立っていたからだ。さとみは霊体を抜け出せる。
「あら、豆蔵、こんな時間からどうしたの?」
 さとみは豆蔵に言う。豆蔵の隣に立つ竜二を完全に無視している。
「へい……」豆蔵は苦笑しながら頭を掻く。「竜二さんが嬢様に話してぇ事があるそうで……」
「ふ~ん……」さとみは答えるが、竜二を見ようともしない。「何? 簡潔に三十字以内で言って!」
「おい、さとみちゃん、そんな冷たい事、言うなよぉ」竜二は言う。「オレとさとみちゃんの仲じゃないかよう」
「はあ?」さとみは呆れた顔で竜二を見る。「いっつも言っているけどさ、あなた、馬鹿なんでしょ? わたしとの仲って何よ? それにさ、結局は、こんな大騒ぎにさせただけじゃない!」
「そうぽんぽん言うなよ……」竜二は困った顔になって、豆蔵に助け舟を求める。「なあ、豆蔵さん、言ってやってくれよう」
「まあまあ、嬢様……」豆蔵は苦笑したままだ。「とにかく、耳だけでも貸してやって下せぇ」
「ふん!」さとみは鼻を鳴らし、右耳を竜二に向ける。「聞いてあげるわ。豆蔵が言っているからね」
「ああ……」竜二は泣きそうな顔を豆蔵に向ける。豆蔵はうなずいて竜二を励ました。「じゃあ……」
「終わった?」さとみがわざとらしく言う。「じゃあ、そう言う事で」
「まだ話してないじゃないかよう!」竜二が半泣きな声を上げる。「勘弁してくれよ、さとみちゃん……」
「嬢様、ちょいといたずらが過ぎやすぜ……」
 さすがの豆蔵も苦言を呈する。
「ごめんなさい……」さとみは竜二に顔を向けて、ぺろりと舌を出して言う。「でもさ、竜二を見ると、どうしてもこんな風にしたくなっちゃうのよねぇ……」
「……さ、竜二さん、話しなせぇ」豆蔵は雰囲気を変えるように言う。「昨日の校長室での事でやしたね?」
「ああ……」竜二は咳払いをする。な~に、偉そうにして、竜二のくせに。さとみは思う。「部屋ん中を飛び交っていた楯だの何だのはさ、オレを狙って飛んで来たんだ」
「それは知っているわ」さとみは呆れる。「さっきだって、しのぶちゃんを狙って飛んで来たんだし」
「でもさ、部屋から出たらもう何にもしてこなかっただろ?」
「……そう言えばそうねぇ」さとみは校長室のドアを見る。「みんなで部屋を出たら、ぴたっと治まった……」
「昨日もさ、あんなにオレに向かって飛んできてたのに、窓から抜け出したら、それっきりだったんだ。追いかけて何か飛んでくるのかと思ったけど、それは無かった」
「う~ん……」さとみは腕組みをして考え込む。竜二はじっとさとみを見ている。しばらくして顔を上げる。「……で、何が言いたの?」
「え?」竜二はこけそうになる。「何だよう、何か考えていたんじゃないのかよう!」
「何よ? 逆切れ?」さとみはむっとする。「大体さ、それだけの話で、わたしに何を分かれって言うのよ?」
「だからさ、出来事はさ、部屋の中だけなんだ。普通に考えれば、部屋に人を入れたくないんじゃないかって思はないか? まあ、霊体も含めてだけどさ」
「それは、わたしを挑発するためだって、豆蔵が……」さとみは言って、はっと気がついた顔をする。「ちょっと待って! もし、わたしを挑発するのが目的だったら、さっき、しのぶちゃんじゃなくって、わたし目がけて色々と飛んでくるはずよね? でも狙われたのは、しのぶちゃん……」
「だろう? だからさ、誰かを狙ってと言うよりも、あの部屋に誰も入れたくないんじゃないかって思うんだ」
「そう…… かもね……」
 さとみはつぶやく。竜二にこんな事を言われた腹立たしい面はあるが、確かに、考えられる事だ。
「豆蔵はどう思う?」
「へい……」豆蔵は校長室のドアを見る。「あっしは、あの影野郎が嬢様を挑発するためと思っていやしたが、別の何かが起こりかけているんじゃねぇでしょうかね……」
「別の何かって?」
「あの影野郎の力が強くなっているのは確かな事でやす。さらに、碌でなし野郎どもも大勢集まって来ておりやす。それで、それらの力を集めているんじゃねぇかと……」
「悪い力を集めているって事?」
「へい。それらがあの部屋に集まって来ていやがるんじゃねぇかと……」
「悪い力を集めて、何をするのかしら?」
「考えられるのは二つです」豆蔵が右手の人差し指と中指を立てる。「まずはその力で、あの影野郎が悪の力と気を吸い込んで、さらに強力になるって事です」
「うえぇぇ~っ……」さとみは思い切りイヤな顔をする。「そんなのが出来たら、もう勝ち目なんかないわ……」
「それと今一つ」豆蔵は言って、中指を折り曲げ、人差し指だけを立てる。「こっちの方が厄介ですが……」
「何よ?」
「強力な怨霊を呼び覚ますって事です……」


つづく


コメントを投稿