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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 31

2022年05月15日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
「来やすぜ……」
 闇の中で豆蔵の声がする。邪悪な気が部屋の中央に集まっている気配がする。さとみはそこをじっと見つめる。
 しばらくすると赤くて細い炎のような縁取りが宙に現われた。それは絶えずゆらゆらと揺れて、一つの形として定まらない。
「影……」さとみはつぶやく。「ようやく姿を現わしたわね」
「……綾部、……さとみ」
 影から低い押し殺した声が聞こえる。
「邪魔を…… 邪魔をするな……」影が憎しみと呪詛に満ちた声で言う。「邪魔をするな……」
「邪魔?」さとみが小馬鹿にしたように言う。「ふざけた事言わないで! あなたの方こそ、わたしたちの日常を邪魔しているのよ!」
 強い口調で言うさとみだったが、膝ががくがくと震え、鼓動が早い。影から発散する邪気はとにかく凄まじい。さとみは自分を奮い立たせるためにも、敢えて強い口調になっていた。
「姿を現わしたって事は、降参するつもりなんでしょ? そうよ、それが正しいわ。さあ、とっとと、あの世に逝って!」
 言いながらも、さとみの背には冷たい汗が伝っている。さとみを囲む豆蔵たちも影の邪気の強さを感じていて、身動きが取れないでいる。
 揺れていた影の動きが止まった。影から雷のような鋭い青白い光がさとみに向かって放たれた。
「危ない!」 
 そう叫んで、咄嗟に前に出たのはみつだった。抜刀した刀身で放たれた光を受けた。光は跳ね返ったが、みつも弾き飛ばされ、床に転がった。
「みつ様!」
 冨美代がみつに駈け寄ろうとする。
「冨美代殿! 陣形を崩してはいけない!」倒れたままでみつが言う。「影の力は強力です。わたしは大丈夫。さとみ殿をお守り続けてください!」
「……承知致しました」
 冨美代は言うと、唇を強く噛んで薙刀の切っ先を影に向けた。みつは苦痛に顔をしかめながら、よろよろと立ち上がる。さとみは心配そうな顔でみつに振り返る。みつは右手の人差し指と中指を立て開き「Vサイン」を作り、笑みを浮かべる。それから刀を構え直し、影を睨み据える。
 と、部屋が大きく揺れた。影の仕業だった。突然の揺れに皆は散らばる。守り手の居なくなったさとみに向かって、再び影は光を放って来た。
「嬢様!」
 豆蔵は叫ぶと、さとみの前に飛び出した。光がまともに豆蔵に当たった。豆蔵の全身が青白く光り、それが次第に小さくなって行き、消えた。
「うわああああっ! 豆蔵ぅぅぅ!」さとみが叫ぶ。そして、影を睨みつけた。「こいつぅぅぅ……」
「さとみちゃん、ダメ!」虎之助が、影に飛び掛からんばかりのさとみを、後ろから抱き押さえた。「無謀な事をしたら、豆ちゃんの行いが無駄になっちゃうわよ!」
「虎之助さん、放してよう!」さとみは歯を食いしばって前に出ようとする。虎之助はさらに力を入れてさとみを押さえる。「あいつ、豆蔵を、豆蔵を!」
「分かるけど、ダメ!」
 影はさとみに目がけて光を放った。
 虎之助はさとみを突き飛ばし、床に倒した。放たれた光は虎之助を包んだ。
「虎之助さん!」
 倒れたさとみは顔を上げた。虎之助は笑みをさとみに向けた。そして次第に小さくなって消えてしまった。
「虎之助よう!」竜二は、姿の消えた虎之助の立っていた場所まで駈けた。周囲を見回す。虎之助はいない。「虎之助ぇぇ!」
 竜二は影を睨む。全身を怒りで震わせている。
「この野郎!」
 竜二は叫ぶと、影に突進した。しかし、竜二は影を通り抜けてしまい、勢い余って壁に激突した。竜二は向き直ると、再び影に突進した。が、やはり通り抜けてしまい、倒れそうになったのをを何とか堪えた。
「……畜生……」竜二は影に振り返る。「この影野郎! 虎之助を返せよう! それができなんだっら、オレもその光で撃てよう!」
「竜二さん! 気をしっかりとお持ちなさい!」みつが言う。「皆でさとみ殿を守るのです!」
「左様ですわ、竜二さん!」冨美代も言う。「皆様の犠牲、無駄にしてはなりませんわ!」
「あああああっっ……」竜二は座り込んで泣き出した。「犠牲だなんてよう…… もう、居なくなっちまったみたいに言うなよう……」
 みつと冨美代は顔を見合わせる。竜二は使い物にならない。口には出さないが、二人はそう思っていた。二人はうなずき合うと、さとみの前に立った。
「ダメよ! 二人とも!」
 さとみはみつと冨美代を押し退けて前に出ようとする。しかし、二人とも動かない。さとみは冨美代の横をすり抜けて前へ出ようとしたが、薙刀の柄に押さえられてしまった。みつの横を回ろうとすると、みつはさとみの正面にずれた。……みつさん、背中に目があるのかしら。さとみは思った。
「ダメと言うのなら、さとみ殿の方ですぞ!」みつが背中越しに言う。「あの影とやり合えるのはさとみ殿だけですぞ!」
「左様です!」冨美代も言う。「おめおめと影に討たせるわけには参りませんわ!」
 みつと冨美代は、それぞれの得物の切っ先を影に向けた。 


つづく


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