「風潮……?」逸子が不思議そうに首をかしげる。「それはどんな?」
「タイムマシンを製作した曽祖父の一番の目的は、歴史の真実を探ることでした」ナナが言う。「ですから、タイムマシンが出来上がった頃には良く過去へ行ったそうです。歴史は本当なのかっていつも言っていたそうです」
「さっきも聞いたんだけどね」ケーイチが言う。「奈良時代とか平安時代とか戦国時代とか、後は名前が知られている人物にも会ったらしい。ただ、直接会ってしまうとことで歴史が変わってしまう可能性があるから、陰からこっそり見ていたようだ。例えば、織田信長に会って『本能寺に泊まると殺されますよ』なんて言って、信長が本能寺に泊まらないとすると歴史が変わってしまう。そうなると、今現在が存在しなくなる危険があるってわけだ」
「そうです」ナナがうなずく。「ですから、曽祖父は辛い気持ちを抑えつつ歴史の動向を見て回ったそうです…… そう言う調査を繰り返しているうちに資料が膨大なものとなり、それらを順次発表していきました」
「それはすごいわね」逸子が言う。「本物の歴史上の人物の資料でしょ?」
「ですが、人々の関心は発表した内容じゃなくて、タイムマシンに向いてしまったんです」
「ああ、分かるわ」逸子がイヤそうな顔で言う。「今のこの時代でも、内容よりも『かわいい!』とか『おしゃれ!』とか言って表面ばかり見ているわ」
「そうなんですか……」ナナはため息をつく。「昔からの傾向って、そう簡単に変わらないんですね……」
「それで、タイムマシンに注目が集まってね」ケーイチが言う。「某企業が、トキタニ氏をどう説得したのか分からないけど、タイムマシンの製造許可を得た、と言うか、買ったんだそうだ」
「それって不当な内容だったりしないわよね?」逸子が心配そうに言う。「トキタニさんって、いわゆる学者さんでしょ? 良い様に言いくるめられたりしてないわよね?」
「それに関しては資料が残っていません」ナナが言う。「他人には知られたくない内容が含まれていたんじゃないかと思います」
「そうなんだ……」
「まあ、なんだ」ケーイチが言う。「学究の徒は往々にして世間には疎いものさ。それに、得た資金でさらなる研究ができるのだから、決して悪い事じゃない。多分、おそらく、きっと……」
「とにかく、その企業はタイムマシンを販売しました」ナナが言ってポケットから十五センチほどの黄色い物差し状の物を取り出した。軽く振ると倍の長さになった。「これと形は同じです。携帯に便利なんです。ですから、あっという間に世界中に広まりました。でも、企業は売るのが目的です。倫理的な事は後回しになりました……」
「使われ方に問題があったの?」
「そうなんです。曽祖父は研究用に使用しましたが、一般では娯楽品として扱われました」
「そうなんだ…… まあ、この時代も同じようなものね。時代が変わっても本質って変わらないのね」
「そのようですね…… 情けない事です」ナナが言う。「そんな中、ある若者が過去へ行き、とんでもない事をしちゃったんです」
「とんでもない事?」
「信長で言うとさ」ケーイチが言う。「本能寺の出来事の前に、本人と入れ替わっちゃうのさ。そして自分が本能寺の出来事をスペクタクルとして味わう。そして危なくなったら本人と入れ替わって、本人はさっさと自分の時代に戻ってしまう」
「それって……」逸子が顔をこわばらせる。「とっても危険なんじゃないですか?」
「そう、危険だよ」ケーイチが言う。「でもね、誤差を修正しなかっただろ? だからなんとか保っていられたんだよ」
「そうなんです。その時はそんなことな曾祖父も気が付いていませんでした」ナナが申し訳なさそうな顔をする。「……それで、そういったスリル感が流行りだしたんです。そう言う無茶をやるのはごく一部の連中だったんですが、日常の一コマを入れ替わるっていうのがブームになりました。『わたしは聖徳太子となって一日暮らした』とか『女王卑弥呼の一日』とかの体験談が出版されたり、ブログになったりしました。ですが、海外で『私はキリスト』と言う本が出版され、体験した若者が熱心なキリスト教徒たちに批判され、ついには殺害されてしまいました。同様の事が宗教に限らず、その人物の信奉者たちによって引き起こされました」
「そうなったら取り締まるしかないわね」
「そうです。国際的に法が整備されました。製造に関しても規制が設けられました。それから数十年後にタイムマシンの不備が発見されて(「オレが言っていた誤差の事だよ。見つけるまでに時間がかかったねぇ。ま、タイムマシンが独り歩きしちまったからなあ」ケーイチは言うとやれやれとばかりに首を振った)、改善が施されました。それでも、法を犯す者が後を絶たないため、国際的な組織としてタイムパトロールが組織されました」
「じゃあ、昨日の連中は、コーイチさんと入れ替わりたかってってわけね」逸子が言う。「でも、あの連中、どの時代から来たのかしら? タイムマシン出来たての頃のブームに乗った連中かしら? それとも、違法だと分かっていてやってきた連中か……」
「その連中って、どんな服装をしていました?」
「青いつなぎみたいなのを着ていたわ」
逸子の言葉にナナの表情が険しくなった。
つづく
「タイムマシンを製作した曽祖父の一番の目的は、歴史の真実を探ることでした」ナナが言う。「ですから、タイムマシンが出来上がった頃には良く過去へ行ったそうです。歴史は本当なのかっていつも言っていたそうです」
「さっきも聞いたんだけどね」ケーイチが言う。「奈良時代とか平安時代とか戦国時代とか、後は名前が知られている人物にも会ったらしい。ただ、直接会ってしまうとことで歴史が変わってしまう可能性があるから、陰からこっそり見ていたようだ。例えば、織田信長に会って『本能寺に泊まると殺されますよ』なんて言って、信長が本能寺に泊まらないとすると歴史が変わってしまう。そうなると、今現在が存在しなくなる危険があるってわけだ」
「そうです」ナナがうなずく。「ですから、曽祖父は辛い気持ちを抑えつつ歴史の動向を見て回ったそうです…… そう言う調査を繰り返しているうちに資料が膨大なものとなり、それらを順次発表していきました」
「それはすごいわね」逸子が言う。「本物の歴史上の人物の資料でしょ?」
「ですが、人々の関心は発表した内容じゃなくて、タイムマシンに向いてしまったんです」
「ああ、分かるわ」逸子がイヤそうな顔で言う。「今のこの時代でも、内容よりも『かわいい!』とか『おしゃれ!』とか言って表面ばかり見ているわ」
「そうなんですか……」ナナはため息をつく。「昔からの傾向って、そう簡単に変わらないんですね……」
「それで、タイムマシンに注目が集まってね」ケーイチが言う。「某企業が、トキタニ氏をどう説得したのか分からないけど、タイムマシンの製造許可を得た、と言うか、買ったんだそうだ」
「それって不当な内容だったりしないわよね?」逸子が心配そうに言う。「トキタニさんって、いわゆる学者さんでしょ? 良い様に言いくるめられたりしてないわよね?」
「それに関しては資料が残っていません」ナナが言う。「他人には知られたくない内容が含まれていたんじゃないかと思います」
「そうなんだ……」
「まあ、なんだ」ケーイチが言う。「学究の徒は往々にして世間には疎いものさ。それに、得た資金でさらなる研究ができるのだから、決して悪い事じゃない。多分、おそらく、きっと……」
「とにかく、その企業はタイムマシンを販売しました」ナナが言ってポケットから十五センチほどの黄色い物差し状の物を取り出した。軽く振ると倍の長さになった。「これと形は同じです。携帯に便利なんです。ですから、あっという間に世界中に広まりました。でも、企業は売るのが目的です。倫理的な事は後回しになりました……」
「使われ方に問題があったの?」
「そうなんです。曽祖父は研究用に使用しましたが、一般では娯楽品として扱われました」
「そうなんだ…… まあ、この時代も同じようなものね。時代が変わっても本質って変わらないのね」
「そのようですね…… 情けない事です」ナナが言う。「そんな中、ある若者が過去へ行き、とんでもない事をしちゃったんです」
「とんでもない事?」
「信長で言うとさ」ケーイチが言う。「本能寺の出来事の前に、本人と入れ替わっちゃうのさ。そして自分が本能寺の出来事をスペクタクルとして味わう。そして危なくなったら本人と入れ替わって、本人はさっさと自分の時代に戻ってしまう」
「それって……」逸子が顔をこわばらせる。「とっても危険なんじゃないですか?」
「そう、危険だよ」ケーイチが言う。「でもね、誤差を修正しなかっただろ? だからなんとか保っていられたんだよ」
「そうなんです。その時はそんなことな曾祖父も気が付いていませんでした」ナナが申し訳なさそうな顔をする。「……それで、そういったスリル感が流行りだしたんです。そう言う無茶をやるのはごく一部の連中だったんですが、日常の一コマを入れ替わるっていうのがブームになりました。『わたしは聖徳太子となって一日暮らした』とか『女王卑弥呼の一日』とかの体験談が出版されたり、ブログになったりしました。ですが、海外で『私はキリスト』と言う本が出版され、体験した若者が熱心なキリスト教徒たちに批判され、ついには殺害されてしまいました。同様の事が宗教に限らず、その人物の信奉者たちによって引き起こされました」
「そうなったら取り締まるしかないわね」
「そうです。国際的に法が整備されました。製造に関しても規制が設けられました。それから数十年後にタイムマシンの不備が発見されて(「オレが言っていた誤差の事だよ。見つけるまでに時間がかかったねぇ。ま、タイムマシンが独り歩きしちまったからなあ」ケーイチは言うとやれやれとばかりに首を振った)、改善が施されました。それでも、法を犯す者が後を絶たないため、国際的な組織としてタイムパトロールが組織されました」
「じゃあ、昨日の連中は、コーイチさんと入れ替わりたかってってわけね」逸子が言う。「でも、あの連中、どの時代から来たのかしら? タイムマシン出来たての頃のブームに乗った連中かしら? それとも、違法だと分かっていてやってきた連中か……」
「その連中って、どんな服装をしていました?」
「青いつなぎみたいなのを着ていたわ」
逸子の言葉にナナの表情が険しくなった。
つづく
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