お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 23

2020年02月20日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「え? 何?」逸子はナナの表情を見てあわてた。「ひょっとして、危険な団体なの?」
「そうですね……」ナナはため息をついた。「正しくは危険な団体『だった』でしょうか……」
「『だった』って事は、今はもう存在していないって事?」
「はい」ナナはそう答えてから、はっとなって付け加えた。「あ、今は今でも、わたしたちの時代での話です」
「そう、それは良かったわ」逸子はほっとした。「危険な団体が無くなっていて……」
 そこで逸子は気がついた。無くなったと言っても、それははるか未来の、それもナナの時代だ。ナナの時代でも危険だと知られているその団体が、昨日、逸子たちの前に現われたのだ。何だ、わたしたちにはちっとも良くないじゃない! 逸子は思った。しかもタイムマシンで縦横に行き来できるなんて! 
「そんな危険な団体が時間を超えてうろついているんでしょ? 未来のナナさんたちの所に現われたりはしなかったの?」
「はっはっは、逸子さん」ケーイチが得意気に割って入って来た。タイムマシンはね、基本、未来へは行かないんだよ」
「どうしてですか? 話では、過去にも未来にも行ったり来たりしてますけど?」
「さっき、過去へ行って何かしてしまうと今現在が変わってしまうかもって話をしただろう?」ケーイチの話に逸子はうなずく。「それと同じでね、未来を知ってしまうと、気に入ったならそうなるように努めるけど、気に入らなかったら違うものにしようとする。そうなると現在が変わってしまう。現在が変わると未来が変わる。そうなると今度は未来が崩壊する。未来が無くなれば現在も無くなる」
「でも、未来をより良いものに知るために、今を変えるって言う考えではダメなんですか?」
「未来を知らずに行うんなら構わないけど、未来を知った上で行なうと危険だね」
「逸子さんたちが未来を知り、それじゃいけないって思って変えてしまうと、未来に生きているわたしたちは存在しなくなるんです。今この時代の流れの延長にわたしたちが存在しているからです」ナナが言う。「時間って、一本の物差しみたいになっているんです。曲げたり折ったり繋ぎ変えたりしてしまうと、本来のものでは無くなるんです」
「その逆もある」ケーイチが言う。「ナナさんは我々からすると未来人だが、ナナさん自体は現代人だ。現代人のナナさんが過去の人であるオレたちに、良かれと思って手を出すと、その時点で未来が変わってしまい、下手したら存在すらしなくなる」
「わたしたちが信長にアドバイスするようなものですね」逸子は言う。「時間って繋がっていますものね……」
「うむ、逸子さんは理解が速いね」ケーイチはうなずく。「うちの学生連中とは雲泥の差だよ。うちの学生たちにこんな話をすると『センセー、そんな難しい話なんかやめて、一緒に飲みに行こうよぉ』だもんなあ」
「先生って言うのも大変なんですね……」
「まあね。まあ、今の若者はあまり未来に魅力を感じないのかもしれないな」ケーイチは言う。「オレが子どもの頃には、大人になったら、空飛ぶ自動車や天候がコントロールできるシステムや地球連邦政府の樹立や宇宙開拓時代なんてものが実現しているって話だったよ」
「そんな事を信じていたんですか?」逸子が驚く。「ある意味、平和な時代だったんですね……」
「そうかもしれないね。……さて、実際は何一つ変わっていない。今のこの現実を知って子どもの頃に戻って何とかしようとすると、今現在が変わってしまう。難しいものだよ。ただ、誤差のあったタイムマシンなら、子供の頃の理想が実現した世界がパラレルワールドで存在しているかもしれない。だけど、それは正しい事ではないから、存在していてはいけない」
「そうですね。幾つも世界が出来ちゃうと、どれが本物かわからなくなってしまいます」
「それを是正するのが、タイムパトロールの仕事なんです」ナナが言う。「それで、タイムマシンの真の製作者のケーイチさんに会いに来たんです」
「でも……」逸子はふと疑問に思った事があり、ケーイチに聞いた。「ナナさんがここに来てわたしたちと会っているのは、問題にはならないんですか?」
「ならないんだよ」ケーイチは即答した。「何故なら、オレたちはルールを知っているから、そこから外れることはないし、無理もしない」
「そうなんですか……」
 逸子は今一つ納得できなかったが、ケーイチが言うのならそうなのだろうと思うことにした。コーイチがよく口にする「分からない事は分からない事だけど、分かった事にしてしまえば分かった事になる」を思い出していた。
「そうだわ! コーイチさん!」逸子は叫んだ。「さっき、二人してコーイチさんが連れ去られたみたいに言ってましたけど、どう言う事ですか?」
「連れ去ったと思われるのは青いつなぎの団体……」ナナが言う。「連中は未来が知りたいと思って動き回っているんです。今まで話した通り、未来へは行けないんです。しかし、連中は納得しません。それで、タイムマシンに大きく関与したコーイチさん……本当はお兄さんのケーイチさんだったんですけど……を連れ去って、未来へ行けるタイムマシンを作らせようとしているんです」
「でも、コーイチさんは、何にも分からないわ!」
「そうですね。何もわからないって知れちゃうと危険です……」
「あああ。どうしよう! お兄様、何とかなりませんか!」
 逸子は泣き出した。ナナも懇願するような表情でケーイチを見ている。タイムパトロールのナナにも打つ手は見つからないようだ。
「……う~ん、打つ手がない事もないんだけど……」ケーイチは困った顔をする。「でも、これはこれで危ないかも知れないなあ……」 
 逸子とナナの瞳がきらっと光った。
 

つづく

 


コメントを投稿