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霊感少女 さとみ 100

2013年08月04日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
 玄関を出ると、アイが門のところで待っていた。さとみを見ると大きく一礼した。
「姐さん、どこへ行きましょうか? わたしの知っている店でもいいですか?」
「う~ん……」
 さとみは目を閉じておでこをぴしゃぴしゃし始めた。どこへって言われても、ももちゃんの敵の居場所をまだ知らないから、行きようがない。
「姐さん……」アイの心配そうな声にさとみは目を開ける。アイは悲しそうな顔をしていた。「本当は、麗子がいないとダメだったんじゃないですか? わたしと二人っきりじゃ、イヤなんじゃないですか?」
「え?」全くの誤解だ。さとみは大慌てで両手を振って否定する。「そんな事ないで……ないわ(やっぱりまだ姐さん喋りは抵抗があるわ、さとみは思った)。ちょっと考え事してるだけ」
「本当ですか? ……」疑いの眼差しだ。「無理しないでください。イヤならイヤと言ってください!」
「アイ……」疑われてちょっぴり腹の立ったさとみは、ぷっと頬を膨らませた。「あなた、姐さんを疑う気なの?」
「えっ! いいえ、とんでもありません!」アイは深く一礼し、そのままの姿勢で続けた。「すいませんでしたあ! それと、ありがとうござますう!」
「ありがとう……って?」膨れた頬を元に戻し、呆れ顔でさとみは言う。「どう言う事?」
「姐さんが本気で叱ってくれたのが、嬉しくって……」顔を上げたアイの頬に涙が伝っていた。「やっと本物の舎弟になれた気がします!」
「あ、そう……」
 さとみにはよく分からなかったが、アイがそれで満足ならいいのだろう。
 ふと気が付くと、豆蔵がにやにやしながら立っていた。
「豆蔵、いつからそこにいたのよう! にやにやしちゃって!」霊体を抜け出させたさとみが文句を言う。「なんだか恥ずかしいじゃないのよう!」
「これはすみません」豆蔵は軽く頭を下げた。「ところで、麗子さんが来られなくなったようですが、大丈夫ですか?」
「仕方ないわ。豆蔵が言ってたように、わたしがももちゃんを何とか助けることにするわ」「左様ですか。ま、嬢様ならちゃんと出来ますぜ」豆蔵は大きく頷いて見せた。「それにしても嬢様、姐さんの貫録が少し出てきたようで……」
「そんな事ないわよう! アイがわたしを姐さん扱いするからよう!」
「おやおや、すっかり『アイ』呼びに、お慣れになったようで……」
「だって……」
「まあ、冗談はさて置きまして……」豆蔵は真顔になった。「これから、ももさんの敵のところへご案内いたします」
「……」さとみも真顔になる。「で、ももちゃんとみつさんは?」
「ご案内する場所で待っております。……竜二さんも一緒です」
「そこって、ここから遠いの(さとみはすっかり竜二を無視している)?」
「それほどでもありませんが……」豆蔵は眉をひそめた。「少々、危ない場所でして……」
「それなら大丈夫!」さとみはアイを見て言った。「アイはその辺の事情に詳しいみたいだから!」
「事情に詳しいって言うのでしたら、アイさん、怖がって、行かないって言い出すかもしれませんぜ」
「……」さとみの表情がさっと曇った。「そんなに危ない所なの?」
「へい」
 さとみはおでこぴしゃぴしゃを始めた。豆蔵はじっと待っている。嬢様の事だ、答えは聞かずとも分かっている、豆蔵は不敵の笑みを浮かべた。
「いいわ!」さとみはおでこの手を下すと、豆蔵にきっぱりと言った。「案内してちょうだい!」
「それでこそ、嬢様だ!」豆蔵は手を打って喜んだ。「では、先導いたします」
 さとみは霊体を戻した。大きく深呼吸する。
「アイ!」
「はい、姐さん!」
「わたしについて来て」さとみの表情は硬い。「危ない所になるんだけど」
「危ない所……」アイの表情が引き締まる。「姐さんが行くところなら、どこへだってお供します!」
 さとみはすたすたと歩き出した。その後をアイが従う。
 ……さすが、姐さんだ、まったくぶれることなく、まっすぐ前を見つめて歩いている。姐さんは、わたしが考えている以上に大物なのかもしれない、アイは思い、心の底から感心していた。
 しかし実際は、さとみは豆蔵を見失なわないように、必死で後を追っていただけだった。

 
つづく




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