その日は女性陣は二階で、男性陣は一階で寝た。翌朝、ケーイチ以外がリビングに集まった。
「あれ? お兄様は?」逸子がコーイチに言う。「まだ寝てらっしゃる?」
「いや、夜中いきなり起き出して、気になる研究課題が出来たとか言って、研究室へ行ったきりだよ」
「何かしらね、その研究課題って?」
「なんだかの法則がかんだか効果の影響であんだか作用をするのだろうかって言ってた」
「さっぱり分かんないわねぇ……」
「多分、ちゃんと聞いても分からないと思う……」
「まあ、良いわ。何かを作っているんでしょ?」
「うん、そう思う」
ナナとアツコは朝食の準備をしている。隣のキッチンから、食器同士のぶつかる大きな音や言い合っている声が聞こえる。チトセはむっとした顔をしてキッチンへと向かった。
「おい! オバさんたち!」チトセの荒げた声が聞こえる。「何やってんだよ! そんなに火が強いと焦げちまうだろ!」
「だって、焼けってパッケージに書いてあるじゃない!」ナナが反論している。「火力の事なんて書いていないじゃない!」
「考えりゃ、分かるだろ! ……おい、そっちのオバさん! その皿じゃ乗っからねぇよ! そんなの見て分かんねぇのかよう!」
「出来上がりを二つに切って並べりゃ良いじゃない!」アツコが文句を言っている。「頭を使えば良いのよ!」
「そんなの美味そうに見えないし、切っちまったら中身が冷めちゃうだろ? 分かんねぇのかよ?」チトセも言い返す。「オバさんたち、本当にメシを作った事が無いんだな!」
「そんな事をしなくてもね、お湯かければ出来たり、電子レンジでチンしたり、外に食べに行けば良いのよ!」ナナが叫んでいる。「手作りなんて時代遅れよ!」
「そうよそうよ! 女性だって、作ってもらったのを食べるのよ!」アツコも叫ぶ。「タロウは料理が上手だから、それを食べれば良いのよ!」
「ははは、情け無いオバさんたちだな!」チトセが馬鹿にしたように笑う。「もう、ここから出てくれよ。はっきり言って、邪魔なんだよ」
しばらくすると、ぶんむくれた顔のナナとアツコがリビングに入って来た。リビングのコーイチたちは笑うに笑えなかった。
やがて、チトセが出来上がりを運んできた。甘やかで豊かな香りが皆の鼻腔をくすぐる。出来立ての湯気が食欲をそそる。相応しい皿に相応しいものが乗っていて目にも満足感を与える。
「これはオバさんたちの分だ」
チトセは言うと、真っ黒な料理をナナの前に、無残に真っ二つになって中身が出てしまった料理の乗った小皿をアツコの前に、それぞれ置いた。傍から見ても、とても食べたいと思わない。二人は不満気な顔をチトセに向ける。
「分かったろ? 料理って、ただ焼いたり煮たり、ただ並べたりすりゃ良いってもんじゃないんだ」
「は~い、すみませんしでしたぁ……」
二人そろってそう言うと、皆が爆笑した。
その後はチトセの作った料理を皆で美味しい美味しいと言いながら(特にナナとアツコは)食べた。
食事が終わり、皆がテーブルを改めて囲んだ。
「昨日考えた作戦なんだけど」タケルが言う。「ボクはまだ現役のタイムパトロールだから、内部の情報を色々と探って、その上で支持者の目星を付けるって事なんだけど……」
「タロウ……」アツコがタロウをにらむ。「これって、あなたが考えたの? 随分大雑把だけど?」
「いや、これはタケルさんが、半ば強引に主張しているんだ……」
「おいおい、ばらすなよ」タケルが困惑した表情になる。「でもさ、タイムパトロールに自由に出入りできるのはボクだけだからさ」
「でも、それだと時間がかかりすぎるんじゃない?」ナナが言う。「いつまでに目星を付けるつもりなの? そんな事していると、結局、一人一人に聞いて回るような事になるんじゃないの?」
「いや、そんなつもりは…… 無いけど…… そうなっちゃうかも……」
「全然ダメじゃない!」ナナは呆れ果てたような顔をする。「他には何か無いの?」
「……あの……」タロウがおずおずと手を上げた。「支持者を捜すんじゃなくて、支持者を呼び出そうと思うんだ」
「あら、面白そうね」ナナが言う。「タケルとは大違いね」
「さすがね!」アツコが笑顔になる。「タロウは頭が良いから、上手く行くわよ!」
「そうかなぁ……」タロウは照れくさそうだ。「でも、その作戦のためには、みんなの協力が必要なんだ」
「良いわよ! 出来る事なら何でも協力するわ!」ナナがうなずく。「タケルの考えよりははるかにマシだわ」
「何だよう」タケルは面白くない。「まだ話も聞いていないじゃないか」
「そんなの聞く前から分かるわよ」ナナがきっぱりと言う。「だから、あなたも協力するのよ」
「……はいはい……」
「それで?」アツコがタロウを促す。「どう言う作戦なの?」
「タイムパトロールは、支持者が違反集団を壊滅させるからって野放しにしているけど、支持者の目的はそうじゃない。ボクもアツコも経験したけど、支持者は、単に自分の思い通りにさせたいだけなんだ」
「確かにそうだったわ……」アツコは思い出しながらうなずく。「『この通り行えば間違いない』とか『従えば全て上手く行く』とか言われたわ。一緒に渡された計画表も見事なものだったから、ついつい従ってしまったわ……それなりの楽しさも味わえたし……」
「そうさ、そうやってボクたちを振り回して楽しんでいたんだよ」タロウは言う。「別の集団に対しても同じ事をしているはずだ」
「なぜそんな事をするんだろう?」タケルがいぶかしげに言う。「自分でもグループを作りゃあ良いじゃないか」
「他人を翻弄するのが好きなのよ!」ナナが吐き捨てるように言う。「イヤなヤツね!」
「それで、タロウ」アツコがタロウを見ながら言う。「どんな作戦なの?」
「うん……」タロウは一呼吸置く。「……『ブラックタイマー復活作戦』さ」
つづく
「あれ? お兄様は?」逸子がコーイチに言う。「まだ寝てらっしゃる?」
「いや、夜中いきなり起き出して、気になる研究課題が出来たとか言って、研究室へ行ったきりだよ」
「何かしらね、その研究課題って?」
「なんだかの法則がかんだか効果の影響であんだか作用をするのだろうかって言ってた」
「さっぱり分かんないわねぇ……」
「多分、ちゃんと聞いても分からないと思う……」
「まあ、良いわ。何かを作っているんでしょ?」
「うん、そう思う」
ナナとアツコは朝食の準備をしている。隣のキッチンから、食器同士のぶつかる大きな音や言い合っている声が聞こえる。チトセはむっとした顔をしてキッチンへと向かった。
「おい! オバさんたち!」チトセの荒げた声が聞こえる。「何やってんだよ! そんなに火が強いと焦げちまうだろ!」
「だって、焼けってパッケージに書いてあるじゃない!」ナナが反論している。「火力の事なんて書いていないじゃない!」
「考えりゃ、分かるだろ! ……おい、そっちのオバさん! その皿じゃ乗っからねぇよ! そんなの見て分かんねぇのかよう!」
「出来上がりを二つに切って並べりゃ良いじゃない!」アツコが文句を言っている。「頭を使えば良いのよ!」
「そんなの美味そうに見えないし、切っちまったら中身が冷めちゃうだろ? 分かんねぇのかよ?」チトセも言い返す。「オバさんたち、本当にメシを作った事が無いんだな!」
「そんな事をしなくてもね、お湯かければ出来たり、電子レンジでチンしたり、外に食べに行けば良いのよ!」ナナが叫んでいる。「手作りなんて時代遅れよ!」
「そうよそうよ! 女性だって、作ってもらったのを食べるのよ!」アツコも叫ぶ。「タロウは料理が上手だから、それを食べれば良いのよ!」
「ははは、情け無いオバさんたちだな!」チトセが馬鹿にしたように笑う。「もう、ここから出てくれよ。はっきり言って、邪魔なんだよ」
しばらくすると、ぶんむくれた顔のナナとアツコがリビングに入って来た。リビングのコーイチたちは笑うに笑えなかった。
やがて、チトセが出来上がりを運んできた。甘やかで豊かな香りが皆の鼻腔をくすぐる。出来立ての湯気が食欲をそそる。相応しい皿に相応しいものが乗っていて目にも満足感を与える。
「これはオバさんたちの分だ」
チトセは言うと、真っ黒な料理をナナの前に、無残に真っ二つになって中身が出てしまった料理の乗った小皿をアツコの前に、それぞれ置いた。傍から見ても、とても食べたいと思わない。二人は不満気な顔をチトセに向ける。
「分かったろ? 料理って、ただ焼いたり煮たり、ただ並べたりすりゃ良いってもんじゃないんだ」
「は~い、すみませんしでしたぁ……」
二人そろってそう言うと、皆が爆笑した。
その後はチトセの作った料理を皆で美味しい美味しいと言いながら(特にナナとアツコは)食べた。
食事が終わり、皆がテーブルを改めて囲んだ。
「昨日考えた作戦なんだけど」タケルが言う。「ボクはまだ現役のタイムパトロールだから、内部の情報を色々と探って、その上で支持者の目星を付けるって事なんだけど……」
「タロウ……」アツコがタロウをにらむ。「これって、あなたが考えたの? 随分大雑把だけど?」
「いや、これはタケルさんが、半ば強引に主張しているんだ……」
「おいおい、ばらすなよ」タケルが困惑した表情になる。「でもさ、タイムパトロールに自由に出入りできるのはボクだけだからさ」
「でも、それだと時間がかかりすぎるんじゃない?」ナナが言う。「いつまでに目星を付けるつもりなの? そんな事していると、結局、一人一人に聞いて回るような事になるんじゃないの?」
「いや、そんなつもりは…… 無いけど…… そうなっちゃうかも……」
「全然ダメじゃない!」ナナは呆れ果てたような顔をする。「他には何か無いの?」
「……あの……」タロウがおずおずと手を上げた。「支持者を捜すんじゃなくて、支持者を呼び出そうと思うんだ」
「あら、面白そうね」ナナが言う。「タケルとは大違いね」
「さすがね!」アツコが笑顔になる。「タロウは頭が良いから、上手く行くわよ!」
「そうかなぁ……」タロウは照れくさそうだ。「でも、その作戦のためには、みんなの協力が必要なんだ」
「良いわよ! 出来る事なら何でも協力するわ!」ナナがうなずく。「タケルの考えよりははるかにマシだわ」
「何だよう」タケルは面白くない。「まだ話も聞いていないじゃないか」
「そんなの聞く前から分かるわよ」ナナがきっぱりと言う。「だから、あなたも協力するのよ」
「……はいはい……」
「それで?」アツコがタロウを促す。「どう言う作戦なの?」
「タイムパトロールは、支持者が違反集団を壊滅させるからって野放しにしているけど、支持者の目的はそうじゃない。ボクもアツコも経験したけど、支持者は、単に自分の思い通りにさせたいだけなんだ」
「確かにそうだったわ……」アツコは思い出しながらうなずく。「『この通り行えば間違いない』とか『従えば全て上手く行く』とか言われたわ。一緒に渡された計画表も見事なものだったから、ついつい従ってしまったわ……それなりの楽しさも味わえたし……」
「そうさ、そうやってボクたちを振り回して楽しんでいたんだよ」タロウは言う。「別の集団に対しても同じ事をしているはずだ」
「なぜそんな事をするんだろう?」タケルがいぶかしげに言う。「自分でもグループを作りゃあ良いじゃないか」
「他人を翻弄するのが好きなのよ!」ナナが吐き捨てるように言う。「イヤなヤツね!」
「それで、タロウ」アツコがタロウを見ながら言う。「どんな作戦なの?」
「うん……」タロウは一呼吸置く。「……『ブラックタイマー復活作戦』さ」
つづく
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