「さとみ殿! お気を確かに!」
みつの声が聞こえたと同時に、骸骨は吹き飛んだ。みつが駈け寄って、骸骨に体当たりを食らわせたのだ。
「……みつさん……」ぽうっとしていたさとみが我に返った。「あっ、みつさん! 気を失っていたんじゃなかったの?」
「ははは」みつは笑う。「あれしきの事でどうにかなるような、ヤワな修行はしていませんよ。ただ、あれ以上首を絞められるとアイ殿のからだが危なかったのです」
「それで、やられた振りをしたのね」
「そう言う事です」みつは言うと、再び形を成して行く骸骨を見る。「この者の動きは見切っています。次は負けません。それよりも……」
みつは顔を上げ、漂う黒い影を見る。
「あれが親玉のようですね……」みつは憎々しげに言う。「この前の時は、わたしの刀を取られてしまいました……」
北階段でみつがこの影に斬りつけた時、刀を奪われ、危うく自分の刀に突き立てられそうになった。それをさとみが身を挺してかばってくれた。
「じゃあ、あの骸骨に憑いている霊もあの影が操っているかもって事かしら?」さとみはつぶやく。「そう言えば、改心しかけたと思ったら、あの影が現われてダメになったわね……」
「影と骸骨とを相手にしなければなりません……」みつは苦々しげな表情をする。「どちらか一方でも倒せれば良いのですが……」
「じゃあ、わたしがあの影の相手をするわ!」さとみが言う。「みつさんは骸骨をお願い!」
「さとみ殿! 短絡的に決めては……」
みつが警告を言い終わる前に、さとみは霊体を抜け出させていた。が、それと同時に黒い影は消えた。さとみは周囲を見回した。ところが、気配が全く感じられない。
「消えちゃった……」ふと気がつくと、骸骨はさとみの生身に向かっていた。「あっ!」
さとみがあわてて霊体を戻そうとした。が、それよりも先にみつはさとみの前に立った。
「邪魔をするなぁ!」
骸骨が叫びながら両腕を伸ばしてみつの首を絞めようとする。みつは伸ばされた両腕の手首を握り締めて力任せにひねった。骸骨の左腕が割れるような音と共に肩から外れた。肩の接続部分が割れたのだ。みつの右手に、だらりと下がった骸骨の左腕があった。
「さあ、この腕を取り返してみよ!」
みつは言うと、骸骨に向かって左腕を差し出す。しかし、骸骨は恨めしそうに睨み付けてくるだけだった。
「やはり、繋ぎ目が粉砕されては、元へは戻せないようだな」
みつは骸骨の手首を握り直し、刀のように上下に振るった。風を切る音が凄まじい。みつは腕を関節部分が伸び切った状態にして刀の様にして構えた。
「いざっ!」
みつは腕を上段に振り上げ、骸骨に突進し、跳躍した。みつのいきなりの猛攻に動揺した骸骨は下顎を鳴らす事しかできなかった。
「天誅!」
みつの振り下ろした腕が、しゃれこうべの頭頂部に討ちつけられた。凄まじい音がして、しゃれこうべが割れた。みつの振り下ろす腕は勢いのまま肋骨から骨盤に至るまでを割った。からだを真っ二つにされた骸骨は左右に倒れた。と、粉砕した骸骨の脇に、髭面の薄汚れた着物を着た男の霊が現われた。この者が骸骨を操っていたのだろう。
みつは素早くアイから自身を抜け出させた。抜け出た時には、すでに刀を抜いて構えていた、憑いていたアイはその場に倒れ込んだ。スカートがめくれ上がって、下着が丸見えになっている。
「待て!」現われた男の霊は斬りかかろうとするみつを制した。「オレはお前など知らん!」
「ふざけた事を言うな! お前はわたしを襲ったのだぞ!」みつは切っ先を男に向ける。「天誅を喰らってもらおうか!」
「だから、待ってくれ!」男は必死だ。「襲ったのはオレかも知れんが、襲わせたのはオレではない!」
「何を言っているのか分からんぞ!」みつは刀を振り上げた。「仮にお前が操られていたとしてもだ、皆を襲ったのは事実だ! それだけで万死に値する!」
「オレの話を聞け!」男は叫びながら、じりじりと迫るみつに合わせるようにじりじりと後退する。「オレが恨み呪ったのは、あの小娘の婆さんに当たる綾部冨だ。だが、もう死んでしまっているそうだ」
「それが?」みつの口調は冷たい。「だから、復讐をやめたとでも言うつもりか?」
「そうだ……」
男は言う。みつの足が止まる。
「偽りではないのか?」みつは切っ先を突き出す。男は動かなかった。「……どうやら、偽りではなさそうだな……」
みつは刀を鞘に納めた。ちんと涼やかな鍔の音が聞こえた。
「では、聞いてやろう」
みつは男の前で腕を組んだ。
つづく
みつの声が聞こえたと同時に、骸骨は吹き飛んだ。みつが駈け寄って、骸骨に体当たりを食らわせたのだ。
「……みつさん……」ぽうっとしていたさとみが我に返った。「あっ、みつさん! 気を失っていたんじゃなかったの?」
「ははは」みつは笑う。「あれしきの事でどうにかなるような、ヤワな修行はしていませんよ。ただ、あれ以上首を絞められるとアイ殿のからだが危なかったのです」
「それで、やられた振りをしたのね」
「そう言う事です」みつは言うと、再び形を成して行く骸骨を見る。「この者の動きは見切っています。次は負けません。それよりも……」
みつは顔を上げ、漂う黒い影を見る。
「あれが親玉のようですね……」みつは憎々しげに言う。「この前の時は、わたしの刀を取られてしまいました……」
北階段でみつがこの影に斬りつけた時、刀を奪われ、危うく自分の刀に突き立てられそうになった。それをさとみが身を挺してかばってくれた。
「じゃあ、あの骸骨に憑いている霊もあの影が操っているかもって事かしら?」さとみはつぶやく。「そう言えば、改心しかけたと思ったら、あの影が現われてダメになったわね……」
「影と骸骨とを相手にしなければなりません……」みつは苦々しげな表情をする。「どちらか一方でも倒せれば良いのですが……」
「じゃあ、わたしがあの影の相手をするわ!」さとみが言う。「みつさんは骸骨をお願い!」
「さとみ殿! 短絡的に決めては……」
みつが警告を言い終わる前に、さとみは霊体を抜け出させていた。が、それと同時に黒い影は消えた。さとみは周囲を見回した。ところが、気配が全く感じられない。
「消えちゃった……」ふと気がつくと、骸骨はさとみの生身に向かっていた。「あっ!」
さとみがあわてて霊体を戻そうとした。が、それよりも先にみつはさとみの前に立った。
「邪魔をするなぁ!」
骸骨が叫びながら両腕を伸ばしてみつの首を絞めようとする。みつは伸ばされた両腕の手首を握り締めて力任せにひねった。骸骨の左腕が割れるような音と共に肩から外れた。肩の接続部分が割れたのだ。みつの右手に、だらりと下がった骸骨の左腕があった。
「さあ、この腕を取り返してみよ!」
みつは言うと、骸骨に向かって左腕を差し出す。しかし、骸骨は恨めしそうに睨み付けてくるだけだった。
「やはり、繋ぎ目が粉砕されては、元へは戻せないようだな」
みつは骸骨の手首を握り直し、刀のように上下に振るった。風を切る音が凄まじい。みつは腕を関節部分が伸び切った状態にして刀の様にして構えた。
「いざっ!」
みつは腕を上段に振り上げ、骸骨に突進し、跳躍した。みつのいきなりの猛攻に動揺した骸骨は下顎を鳴らす事しかできなかった。
「天誅!」
みつの振り下ろした腕が、しゃれこうべの頭頂部に討ちつけられた。凄まじい音がして、しゃれこうべが割れた。みつの振り下ろす腕は勢いのまま肋骨から骨盤に至るまでを割った。からだを真っ二つにされた骸骨は左右に倒れた。と、粉砕した骸骨の脇に、髭面の薄汚れた着物を着た男の霊が現われた。この者が骸骨を操っていたのだろう。
みつは素早くアイから自身を抜け出させた。抜け出た時には、すでに刀を抜いて構えていた、憑いていたアイはその場に倒れ込んだ。スカートがめくれ上がって、下着が丸見えになっている。
「待て!」現われた男の霊は斬りかかろうとするみつを制した。「オレはお前など知らん!」
「ふざけた事を言うな! お前はわたしを襲ったのだぞ!」みつは切っ先を男に向ける。「天誅を喰らってもらおうか!」
「だから、待ってくれ!」男は必死だ。「襲ったのはオレかも知れんが、襲わせたのはオレではない!」
「何を言っているのか分からんぞ!」みつは刀を振り上げた。「仮にお前が操られていたとしてもだ、皆を襲ったのは事実だ! それだけで万死に値する!」
「オレの話を聞け!」男は叫びながら、じりじりと迫るみつに合わせるようにじりじりと後退する。「オレが恨み呪ったのは、あの小娘の婆さんに当たる綾部冨だ。だが、もう死んでしまっているそうだ」
「それが?」みつの口調は冷たい。「だから、復讐をやめたとでも言うつもりか?」
「そうだ……」
男は言う。みつの足が止まる。
「偽りではないのか?」みつは切っ先を突き出す。男は動かなかった。「……どうやら、偽りではなさそうだな……」
みつは刀を鞘に納めた。ちんと涼やかな鍔の音が聞こえた。
「では、聞いてやろう」
みつは男の前で腕を組んだ。
つづく
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