「あっ!」
全員が同時に叫んだ。
全員できょろきょろしながら吉田部長を探した。
吉田部長はロビーの遥か彼方の隅に固まったように佇んでいた。何故かそのすぐ脇に岡島も同じように佇んでいた。二人の佇んでいる場所だけ、朝日も蛍光灯の灯りも届かず、妙にじめじめして薄暗かった。顔の表情も暗くて見えないな…… コーイチはどんよりとしたツーショットに背筋が寒くなった。
「いやいやいやいや、吉田部長! ついつい、うっかりしてしまいました! 反省してます! ……ま、それはそれとして、そんな所で薄暗くなってないで、こっちに来ませんか!」
林谷が言った。ちっとも反省をしてないような気がするんだけどなぁ、コーイチは明るい声を出している林谷を見ながら思った。
「そうですわ。確かについ忘れてしまってましたけど、これとて、いつも部長を避けていたために身についてしまった無意識のなせる業で、決して悪意があったわけではありませんの。うふふふふ」
清水が言った。充分に悪意満タンじゃないのかなぁ、コーイチは目だけ笑っていない清水の横顔を見ながら思った。
「そうですよ。私たちが忘れてしまっても部長に昇進した事には変わらないんですから、くよくよする事はないじゃないですか!」
印旛沼が言った。これは慰めになってないんじゃないかなぁ、コーイチは指先のハートのエースのカードを消したり出したりを繰り返している印旛沼を見ながら思った。
「部長、彼らには他意はないと思います。多分、めでたい事が重なってしまって少々舞い上がってしまったのではないでしょうか。私が代表して心から謝ります」
西川が一歩前に出て、頭を下げた。林谷があわてて、
「西川課長! そんな、僕たちのために、そんな……」
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
「まあまあ、吉田君、Youもご機嫌直して、今日のパーティに参加しちゃってよ。Youも主賓なんだよ」
社長も声をかけた。吉田部長はこちらを振り返り、力なく微笑んだ。
「それと、いっしょにいるYouも、今日は参加しちゃってね」
社長は岡島に声をかけた。岡島のヤツ、とうとう名前を覚えてもらえなかったなぁ、ますます黄昏て行く岡島を見てコーイチは思った。
「あ、そうだ!」
社長は手をぱんと鳴らした。それからコーイチの方を見た。
「Youも誰?」
「え、あ、はぁ……」
確かにボクは社長に会うのは初めてだものなぁ、でも、急に言われても、心の準備が出来ていないしなぁ。突然のことにコーイチは満足に返事もできなかった。
「社長、この子はコーイチ君。僕の有能な後輩ですよ!」
林谷がふざけた口調で言う。
「いいえ、社長、コーイチ君は私の忠実なる僕ですの、うふふふふ」
清水がコーイチの腕をつかんだ。
「それを言うなら、私の理想の観客だね」
印旛沼が十枚のハートのエースのカードをぱっと出して見せた。
「ほう、コーイチ君か…… ところで、コーイチ君、朝ごはんは食べたかな?」
「え?」唐突な話題の転換にコーイチは戸惑ったが、昨日から何も食べていない事を思い出した。「……いいえ、まだですけど、もう仕事の時間ですし……」
「何を言ってるの、『腹が減っては命が縮む』って昔から言うね。これから皆で食べに行こう!」
社長は言って、さっさと外へ向かって歩き出した。それから急にコーイチの方を向き、こう聞いた。
「You、カレーうどん食べる?」
つづく
全員が同時に叫んだ。
全員できょろきょろしながら吉田部長を探した。
吉田部長はロビーの遥か彼方の隅に固まったように佇んでいた。何故かそのすぐ脇に岡島も同じように佇んでいた。二人の佇んでいる場所だけ、朝日も蛍光灯の灯りも届かず、妙にじめじめして薄暗かった。顔の表情も暗くて見えないな…… コーイチはどんよりとしたツーショットに背筋が寒くなった。
「いやいやいやいや、吉田部長! ついつい、うっかりしてしまいました! 反省してます! ……ま、それはそれとして、そんな所で薄暗くなってないで、こっちに来ませんか!」
林谷が言った。ちっとも反省をしてないような気がするんだけどなぁ、コーイチは明るい声を出している林谷を見ながら思った。
「そうですわ。確かについ忘れてしまってましたけど、これとて、いつも部長を避けていたために身についてしまった無意識のなせる業で、決して悪意があったわけではありませんの。うふふふふ」
清水が言った。充分に悪意満タンじゃないのかなぁ、コーイチは目だけ笑っていない清水の横顔を見ながら思った。
「そうですよ。私たちが忘れてしまっても部長に昇進した事には変わらないんですから、くよくよする事はないじゃないですか!」
印旛沼が言った。これは慰めになってないんじゃないかなぁ、コーイチは指先のハートのエースのカードを消したり出したりを繰り返している印旛沼を見ながら思った。
「部長、彼らには他意はないと思います。多分、めでたい事が重なってしまって少々舞い上がってしまったのではないでしょうか。私が代表して心から謝ります」
西川が一歩前に出て、頭を下げた。林谷があわてて、
「西川課長! そんな、僕たちのために、そんな……」
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
「まあまあ、吉田君、Youもご機嫌直して、今日のパーティに参加しちゃってよ。Youも主賓なんだよ」
社長も声をかけた。吉田部長はこちらを振り返り、力なく微笑んだ。
「それと、いっしょにいるYouも、今日は参加しちゃってね」
社長は岡島に声をかけた。岡島のヤツ、とうとう名前を覚えてもらえなかったなぁ、ますます黄昏て行く岡島を見てコーイチは思った。
「あ、そうだ!」
社長は手をぱんと鳴らした。それからコーイチの方を見た。
「Youも誰?」
「え、あ、はぁ……」
確かにボクは社長に会うのは初めてだものなぁ、でも、急に言われても、心の準備が出来ていないしなぁ。突然のことにコーイチは満足に返事もできなかった。
「社長、この子はコーイチ君。僕の有能な後輩ですよ!」
林谷がふざけた口調で言う。
「いいえ、社長、コーイチ君は私の忠実なる僕ですの、うふふふふ」
清水がコーイチの腕をつかんだ。
「それを言うなら、私の理想の観客だね」
印旛沼が十枚のハートのエースのカードをぱっと出して見せた。
「ほう、コーイチ君か…… ところで、コーイチ君、朝ごはんは食べたかな?」
「え?」唐突な話題の転換にコーイチは戸惑ったが、昨日から何も食べていない事を思い出した。「……いいえ、まだですけど、もう仕事の時間ですし……」
「何を言ってるの、『腹が減っては命が縮む』って昔から言うね。これから皆で食べに行こう!」
社長は言って、さっさと外へ向かって歩き出した。それから急にコーイチの方を向き、こう聞いた。
「You、カレーうどん食べる?」
つづく
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