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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 48

2022年08月31日 | コーイチ物語 1 5) 部長・吉田吉吉  
 一種異様な団体だった。通りを行き交う人々は関わりを避けるように脇へ避けた。
 先頭をボーイスカウト姿の老人がすたすたと歩き、横断歩道の歩けますマーク並みのカキカキした歩みが、なぜ私もと言いながらしきりとひねっている首が、キラキラした青いスーツが、不気味な黒っぽい衣装が、カードを出したり消したりの繰り返しが、力ない笑みを浮かべたよろよろ歩きが、陽の下にもかかわらず思いっ切りの黄昏が、そしてあれこれ考え込んでいるコーイチが続いた。
 社長の行きつけのうどん屋に皆でぞろぞろと行ったが、まだ開店時間ではないと断られ、仕方なしに近所のコンビニエンス・ストアでカップのカレーうどんを買い、お湯を入れてもらい、軒下にずらりと並んで食べ始めると、店員に「こんな所でカレーうどんは困ります」と追い立てられ、結局歩き食べをしながら、会社の入っているビルへと戻って来た。
 守衛が一瞬じろりとこちらを睨んだが、すぐに向こうを向いてしまった。
「それじゃあ、ボクはボーイスカウト協会の会議に行っちゃうから、後は頼むね。じゃ、今夜また会おう! See You!」
 社長はまたすたすたと歩き出した。
「社長!」
 吉田部長が社長のそばへ駆け寄った。
「あの、私はどこへ行けばよろしいんで? 営業四課は西川君が新課長として課長席に納まるでしょうし(「仮課長だ!」すかさず西川が言う)、遠藤部長のいる部屋はもう余裕がありませんし……」
「あーそう。それじゃぁ、どこか適当な部屋はないかな、北口君」
「え、はぁ、そうですねぇ…… げほがほごほぐほっ!」
 北口はカレーうどんのスープをあわてて飲み込んで答えたせいでむせてしまった。
「空いてる部屋は ……げほがほ、ありませんが ・・・ごほぐほ、使っていない部屋はあります・・・げほっ」
「どこ?」
「資料保管室で・・・げほがほごほぐほげほがほごほぐほっ、す」
 あそこは保管室と言う名の人外魔境だ、コーイチは一度その部屋のドアを開けた時の事を思い出した。開けたとたんに、もの凄い量の書類の洪水が起こり、それに巻き込まれ、救助されるまでに四時間もかかってしまったのだ。・・・あの時はもうダメかと思った、コーイチは知らずに身震いをしていた。
「それじゃ、そこをちょこっと片付けて、とりあえずその部屋を使っちゃって」
 吉田部長、とことん気の毒だなぁ、これもすべて僕が薄~く書いたせいなんだろうなぁ、コーイチは「分かりました」と元気なく答える吉田部長を見ながら思った。
「それじゃ、You! 名前何て言ったっけ」
 社長は岡島を指差した。岡島は急に勢い良く社長のそばまで走り寄った。
「岡島です! 綿垣社長!」
 岡島は今がチャンスとばかりに、はきはきとした声で返事をした。
「岡島君ね。悪いんだけど、You、吉田君を手伝って、資料保管室の片付けをしちゃって頂戴」
「・・・分かりました・・・」
 岡島は元気なく答えた。

       つづく


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