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「空白」感想。父が悪人過ぎて

【ネタバレ】

◎「空白」

 「空っぽの世界に、光はあるか。」

 2021年9月23日(木・祝)公開、監督・脚本は𠮷田恵輔、107分、PG12。

 古田新太(漁師の添田充の役)、松坂桃李(スーパーの店長の青柳直人)、田畑智子(充の元妻の松本翔子。再婚して妊娠中)、藤原季節(充の弟子の野木龍馬)、趣里(花音の担任の今井若菜)、伊東蒼(充と翔子の娘の添田花音)、片岡礼子(最初に乗用車で花音をはねた女性の母の中山緑)、寺島しのぶ(スーパーの店員の草加部麻子)など。

 総合評価は、上中下で上くらい。
 中でも、それぞれの演技は見ものです。





誰が悪いのか、というのは本作の主題ではないと思うのですが、あまりにも父の充が悪人なので、充が一番悪い、2番目に花音が悪い、他の人は何も悪くない、という感想が一番強くなってしまいます

 花音は青柳のスーパーの化粧品を泥棒(万引き。未遂ではなく既遂でした。)して、青柳に事務所に連れて行かれ、花音は逃げ、青柳がそれなりの距離を追いかけ、花音は逃げ続けて道路に飛び出して(車も人通りも少ない。)、女性の乗用車にはねられて対向車線に飛ばされ、頭から血を流しながらも起き上がろうとしたら大型車に轢かれて死亡。
 死後、自室に化粧品がいくつか隠してあったのを充が見つけたので(充はそれを隠すために公園かどこかのゴミ箱に捨てた。)、泥棒の常習犯と考えるのが妥当でしょう。
 フィクションですから、花音が冒頭に記載の泥棒をしたことは確定です(これが現実だと、警察発表を信じるしかないという状況になります。警察による証拠の捏造や証拠隠滅の可能性も考慮しないといけませんが、警察発表が妥当なものだと推定しておくしかありません。)。

 よって、逃げる場所を間違えたことも含めて事故死は花音の自業自得です。
 泥棒を捕まえて、逃げられたので追いかけただけの青柳は何も悪くはありません。
 最初に花音をはねた乗用車の女性は、法定速度を守っていたかは曖昧な描き方でしたが、トラック(駐停車していた。)の影から走って飛び出してきた花音をよけるというのは、どの運転手であっても難しいでしょう。なお、駐停車禁止の場所ではなさそうなので、トラックの運転手に責任はありません。
 大型車については、もしかしたらよそ見をしていたのでブレーキが遅れたのかもしれないという描き方でしたが、運転手はよそ見を否定し、それへの警察の反証は何もないので、ブレーキが遅れたということはないのでしょう。

なぜ花音が泥棒をしたかというと、充に大きな原因があるという描き方です
 怒鳴るし話を聞かないし考えを押しつける等々で、弟子の野木からも疎まれ、花音からも相談すら出来ないし相談を聞く態度がない充というのは、充の良いところが何もないという描き方です(花音は、母の翔子には時々会っていろいろと話している。)。

○花音が死んでから、花音が必要だったと充は気づきます。
 しかし、充にとって必要なだけで、大事にするわけでも愛しているわけでもありません。また、父親の体面は保ちたいのでしょうけれど、父親であろうというよりは花音を支配したいといった方が妥当です

 失意の充は花音が絵を描いていたので描いてみることにしましたが、才能がないなと考えて数枚描いてやめました(その中に、昔の思い出として、雲がイルカに見えたという絵を描きました。ただし、下手なのでイルカには見えない絵でした。)。
 最後で、花音が描いた絵を担任教師が持ってきて、雲をイルカの形に描いたもので、花音も充のことを思ってくれていたと感じたのでしょう、涙ぐむ充。

 その直前には、主に充のせいでスーパーが閉店に追い込まれて交通整理の仕事をしている青柳、スーパーの弁当が美味しかった、また食べたい、という趣旨のことを言われて青柳が涙ぐむというシーン。

 2人ともいくらかは救われたわけです。
 この2連続で私も涙するわけですが、一方、充については充は悪人ではないよ、良いところもあるんだよと言いたいのだとしたら、花音の死後に青柳と女性の2人(とその家族や関係者)の人生をダメにした充のここまでの描き方からして良いところはないので悪人でしかないです。少し善人な部分があっても全体としては悪人なので悪人でしかないです(ヤクザでも家族は大事にするものの、敵対勢力は遠慮なく殺すので悪人であるというのと同じです。)。花音の絵を見て少しは改心したことは伝わりますが、改心したかは今後次第です。

 青柳は被害者でかわいそうだ、充が謝罪を受け入れられないにせよ話すら聞かなかったから思い詰めて自殺した女性はかわいそうだ、とも思います。

父である充と娘である花音の家族愛を描こうとしたと言うのでしたら、充に花音への利己的な愛はあっても利他的な愛はありませんし、花音としては、血は水より濃いことや充以外にあまり頼れる人はいないので、良いところは少しはあった充への思いはありますが全体として嫌っていますから、家族の形ではあっても家族愛はありません

 パンフレットに「人と人のつながりや家族の絆、何が本当なのか?何が正義なのか?など思わぬ方向に感情が増幅してしまう現代社会の危険性を浮き彫りにし、「罪」と「偽り」、そして「赦し」を映し出すヒューマンサスペンスを、今、この時代に問う。」とあります。
 感情が暴走するのは充のみと言っていいでしょうけれど、「感情が増幅」するものにはマスコミや断片的な情報で無責任な言動をする一般国民も含めているのでしょう。いずれにせよ、充の異常性が主因であり、引用部分の描き方は弱いです

○公式HPから。
 「父、狂気の先へーー。
 はじまりは、娘の万引き未遂だったーー。
ある日突然、まだ中学生の少女が死んでしまった。スーパーで万引きしようとしたところを店長に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれたというのだ。娘のことなど無関心だった少女の父親は、せめて彼女の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化し、関係する人々全員を追い詰めていく。
(中略)
 観る者の心臓をあわだてる悪夢のような父親・添田充を、7年ぶりの主演映画となる古田新太が演じる。土下座しても泣いても決して許されず、人生を握りつぶされていくスーパーの店長・青柳に、古田新太と実写映画初共演となる松坂桃李。その他 出演者には、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、 片岡礼子、そして寺島しのぶなど実力派俳優から、眩しいまでの才能を放つ若手までが揃った。この現代に生きるすべての人々の、誰の身にも起こりえる出来事に鋭く視線を向けた監督・𠮷田恵輔の「脚本」に俳優陣がケレン味なく体当たりした。
 日本映画史に残る息の止まる感動のラストシーンに、𠮷田監督最高傑作との呼び声も高い渾身の一作が誕生した。
 いちばん近くにいるのに、一番分からない。それでも、父親でありたかったーー。」


【shin】


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