◎「とある飛空士への恋歌」(全13話)
◎ 最初に余談ですが、クレア役の悠木碧さんの震え声や逡巡の声やか細い声が堪能できたので、1ランクくらい良いアニメに思えたのかも、という自覚はあります(笑)。
悠木さんのそんな声は特に大好きです。
物語にはツッコミたいところが多いですが、全体の雰囲気や悠木さんのクレアの声は気に入りました。魅力のある物語の雰囲気と流れでした。
なお、全体として高音の声のキャラや騒々しいキャラが少ないせいか、にぎやかなアリエル・アルバス役の竹達彩奈さんの声が、最初は少しばかり耳当たりが悪かったです。慣れと、徐々に普通になっていったので最初だけですが。
◎ 地球の果てと思われている海の先というか空の果てを確認するための巨大な空飛ぶ島「イスラ」による探検でもあり(聖アルディスタ創世神話の謎を解くための探検が必要とされている世界。)、そこに近づくと「空の一族」が襲ってくると予想されるのでそのための飛空士訓練学校だとか、恋物語だとか、国を追われた元皇子のカルエル・アルバス(cv花江夏樹)(アリエルの血のつながらない同学年のキョウダイ。)によるニナ・ヴィエント(cv悠木碧)への復讐とゆるしだとか。
ただ、貴族と平民は住居も待遇も区別されているなど差別がありますが、帰ってこられないかも知れない危険な探検なわけで、貴族のみならず「風の革命」の立役者でもあるニナがそんな危険な旅に出るというのは少し解せない感じ。カルエルは「ただの厄介払いだろ」と言っていること(1話)、レオポルド・メルセ(cv屋良有作)イスラ空挺騎士団長が「片道切符の旅だ」と言っていることからも(2話)、少し解せない感じ。
また、カルエルが実は旧バレステロス皇国の第一皇子カール・ラ・イールだとツンデレのイグナシオ・アクシス(cv石川界人)は知っていたりして(2話)。
○ 3話で海上に不時着して、4話、2人の距離も縮まったようで。しかし、ニナは両親(皇王と皇妃)のカタキであり、父である王のもとで国民が苦しんでいるのを見かねて共和制に導くために風を操る力を使ったニナを殺すことを企んでいて、2人の雑談の中でカルエルが元皇子でニナの殺害を企んでいるかもと思うようになったクレア。
実はクレアがニナだったというラストは、やっぱりそういう話なのか、と少し苦笑でしたけれど。
ただ、クレアが弱々しい外見と口調の割には、飛空機に乗っているときにカルエルにテキパキと指示を出せていた理由は分かりました。クレアとカルエルの、経験と覚悟の差ですね。
◎ 9話、空の一族との戦いで多くの飛空士仲間が死んだショックから立ち直れないカルエルが仲間の墓に逃げるように行くとクレアがお参りをしていて。カルエルがクレアを抱きしめて口づけをして(弱っているときは(特に双方が。)、こんなことになりがちですよね。)、クレアはカルエルに元皇子なのかと聞き、カルエルは肯定。カルエルもクレアがニナだと気づき怒り心頭。
認めるクレア、「さよなら」と言ってクレアは悲しみながら走り去っていきますが、口づけ前ならそれでも良いですが、口づけ後なのでクレアはもう少し逡巡してからでも良かったのでは(それ以前にそうに違いない思っていて、クレアは気持ちの整理はついていたのかも知れませんし、5話前半の水着回でも口づけ直前まで行きましたけれど。逡巡する悠木さんの演技をもっともっと聞きたかっただけではないか、、、という指摘を否定できませんが。)。
口づけを少しの逡巡を経て受け入れたクレア自身もカルエルを好きであることは自覚していたのでしょうけれど、駄目だと思っていても口づけをしたかったのでしょうけれど、口づけを受け入れたことによりカルエルを好きであることがより明白かつより意識化されたはずで、元皇子か確認すること=ニナとバレること=カルエルとの別れであるわけで、それなのに別れを切り出すまでの描写があっさりとしていたので、少しだけ違和感が。
クレアはそれだけの覚悟が出来る大人だということで納得出来はするのですが、、、、、逡巡する悠木さんの演技をもっともっと聞きたかっただけではないか、という指摘を否定できませんけれど。
○ それで悩みが深まるカルエルでありクレア/ニナですが、絶体絶命の戦いの中で互いが必要なことに気付き(11話)。
ニナであることがカルエルに知られて別れを切り出し、絶望的な気持ちになっていたクレアでしたから、クレアは死ぬ覚悟を決めたというよりは、既に死ぬ覚悟は出来ていて死に場所を見つけたといった方が正確ですが、
「ごめんね、カルエルくん。私を許さなくていいよ。私の力のせいで、あなたをひどい目に合わせてしまった。お母さんのこと、ごめんなさい。あたし、凄くひどい人なの。あなたをそんな目に合わせたのに、、、あなたのことが大好きなの。(ここでニナのカツラを取ってクレアになり)最後だから、あたし、ここで死ぬから、だから、ごめん、最後だけ自分の思い通りに行動させて。カル、あなたが私を変えてくれたの。あなたと出会って、いろいろなことをして、全部、全部、私のかけがえのない素敵な思い出。私の宝物。私、あなたに恋してる!」
とカルエルに叫ぶクレアの複雑な気持ちは良かったです(カルエルは飛空機に乗ってそこそこ離れていたので聞こえるはずはないのですが、聞こえたという設定かも知れませんし、少なくとも気持ちは伝わった。)。
そんなクレアにカルエルが「クレアー、生きろ!」と叫び、聞こえたクレアの涙と風を起こそうと決意した表情はちょっと感動ものでした。
それでカルエルを守りたいと強く思ったせいなのか、最後に「恋の歌を。カル!」と叫んで風の力を取り戻して敵を撃退したクレア/ニナ。ここは、初見時は少し安直に思いましたが、結論を知ってから一気見すると、力を取り戻すにはここしかないですし、クレアの気持ちの流れからしても過不足無く上手く描かれていました(11話)。
再見時はちょっと感動してしまった、、、
○ でも、それ以上は戦えず、空の一族が救世主として信奉する「風呼びの少女」だとして、敵の要求に応じてクレア/ニナを人質として差し出すことに(12話)。
そうまでしなければならない状況に追い詰められているのに、一度本国に戻ったとはいえ、最終13話で空の一族に勝てそうな雰囲気なのは、少し違和感。
○ 結局は、簡単に言えばカルエルとクレアの恋物語であり、アリエルがカルエルを諦める物語であり(13話後半、クレアを取り戻しに飛び立つカルエルに聞こえない声で「さよなら、私の皇子様。歌えない恋の歌もある。これでいいんだよね、これで。」と涙したアリエルでした。)、親を実質的に殺したクレアをカルエルがゆるすという和解と昇華の物語であり。
ただ、互いの正体を知る前に互いを愛するようになった2人なので、だからこそゆるせたのでしょう。先に正体を知っていたら愛するようになったのかは分かりませんし、愛するようになるとしてももっと時間がかかりますし(2人はほぼ一目惚れ。)、愛するようにならなければゆるすことにもなり難いですし。
現実世界では、憎しみといった強い感情の対象の相手であれば、相手の正体を知ってから付き合いが始まるか始まらないかということになるので、ゆるしについては一般化して適用できるアニメではないわけです。そこは引っかかりました。
◎ 以下、その他の引っかかったところをツラツラと。
○ 2人はほぼ一目惚れだったのですが(1話で、弾みで抱きしめたカルエル、静かに目をつぶって身を任せたクレア。)、風の力を失ってもニナとしての役目を努めなければならず、自分の存在意義に疑問を持っているクレアが心の空洞を埋めるためにそうなるというのは、比較的分りやすいです。
しかし、カルエルは復讐に燃えているはずなので、心の空洞がどの程度あったのか?。処刑の直前に母から、誰も憎んではいけないと言われたこと、ゆるすように言われたこと(1話冒頭や3話後半。)をカールは覚えていて時々反芻していることから、復讐に燃えつつも無意識では復讐に疑問を持っていたのかも知れませんし、復讐しか生きる糧のない自分自身の虚しさに、(楽ではなくても日々を明るく生きる庶民であるアリエル一家で家族として暮らすうちに、)無意識では気付いていたのかも知れません。
無意識では気付いていたことと、クレアの美しさ、といったところでしょうか。
○ 最終13話、カルエルが民衆の前で身分を明かして、愛するクレアを救うために再度旅立ちたいと訴えたとき、カルエルは親らの統治が悪くて革命を起こされて失脚したのに、民衆は大歓声というのは、違和感。
王制は革命で倒されたのですから、王族に反感を持つ者の方が多いのではと思いますが、王族に親近感を持つ者ばかりが集まっていたのでしょうかね?。
○ 敵は零戦のような単発エンジンの飛空機(多分、単座。通常、運動性能に優れる。)で機関銃なのに、カルエルらは両翼に重たいエンジンが付き、銃も単発で人が撃つという旧式の複座。運動性能も銃の性能も明らかに敵の方が上と思われるのに、かなり善戦できているのは、、、、、オスプレイのように双発エンジンを動かせるから操縦技術によってはトリッキーな動きで勝負できるし、、、、、(トリッキーな動きをしているところもあればしていないところもありますが、でもその動きって凄いGがかかるので、飛空士の体と機体にはきついはずなのですけれど。)、、、、、ということにしておきましょう。
○ 13話でクレアが風を起こせたときに驚いた表情をしたということは、風が起こせると信じたから風が起きたのではないわけで。
風を起こしたいと心の底から思ったから風が起きたということか、あるいは、ニナが風を起こして風の革命を成功させたものの、後悔もあったから(5話後半でクレアは、風の革命でカール・ラ・イールと対峙したときに「私は思い知った。自分の罪深さを。」と回想している。)風が起こせなくなっていたということであれば、カールの言葉でその迷いが消えたからということか。
前者であれば、少し前に仲間が死んでいったときに風が起こせていても良い気はしますけれど、そのときは起こせませんでしたけれど、どちらかと言うと後者と思いますが、前者でも、後者でも、両方でも、不思議ではありません。
○ オープニング曲は竹達彩奈さんと悠木碧さんによるpetit miladyの「azurite」で明るく元気よく、アリエルの性格のような曲、エンディングは 赤い公園 の「風が知ってる」でしっとり・せつなげだけど意思が強く、クレアの性格のような曲。ただ、いずれもカルエルのクレアへの思いを歌ったラブソングですが。。。
ED曲がアニメの雰囲気を良いものにしていた、というか私の好みのものにしていました。
最終13話のエンディングは「azurite」。クレア奪還のために戦うカルエル達であり、結果は示されませんでしたが、奪還に成功しそうな戦いぶりであり、そのための明るいこの曲なのでしょう。
それはそれでめでたくて良いですし、そういう結論であってほしいのですが、どれだけの犠牲により勝つのかにも依りますが、ここで勝つのは少し出来過ぎで御都合主義な感じはぬぐえず。
ニナを引き渡すほどに追い詰められた状況だったのに、その後に本国に戻って態勢を立て直したとはいえ、敵も軍事力を強化しているはずですし、そこは引っかかりました。
実は奪還に失敗するというのであれば、曲やカルエルの表情や雰囲気がミスリードであり、それはそれで不自然です。
○ 敵である空の一族の顔が見えないというのは何故なのだろう?。
戦うときもどんなときも、顔どころか姿も声もなし。敵のカオが見えないと敵が戦う事情も何も分からず、視聴者としても、ただの敵としてしか認識できず、同情も出来ず、敵対心が増すことはあっても減ることはありません。しかし、このアニメでは敵への憎しみをあおるようなところはあまり無かったので、意図があってそうしたのか、単に手間だし本題ではないから書かなかっただけなのか、迷うところ。
前者を少し詳しく書くと、敵の不気味さを増すためとも考えられます。一方で、近親憎悪という言葉もあるようにカオが見えすぎるからこそ憎み合うということもあるわけで、カオが見えるニナに対してカルエルの憎しみが増すこととの対比、カオが良く見えるクレアとカルエルの間での禁断の恋の悩みが増幅することとの対比とも考えられます。
結局、制作者の本当の意図は私には良く分かりませんが、前者だと主張できる根拠が今一つ不足しているので、そんなときは、単に手間だし本題ではないから書かなかっただけだと、取り敢えず思うことにしておきます。
◎ イロイロと書きましたが、魅力ある物語の雰囲気と流れでした。
【shin】
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