全話を通じても、ミステリー的にも気持ちの変化的にもいくつか引っかかるところはありますが、大したものではありません。
やはり、名作です。
(原作小説は読んでいませんが、何か、読みたくなってきました。でも、読む時間がなあ。)
高1の4月から高2の4月の始業式前までの1年間の4人の成長が、日常のミステリーの解決とともに上手く描かれ、ミステリーとしても、青春の悩みとしても、恋愛ものとしても、少しだけ萌えとしても、楽しめました。
でも、人間とは強欲なもので、欲を言えば2~3話続く話でじっくりと描いて最終話にしてほしかったですが、1話完結でも十分に良い話でした。
奉太郎の姉の役割は、謎のまま残ってしまいましたが。
もう一度、このアニメの宣伝文句です。
「青春は、やさしいだけじゃない。痛い、だけでもない。ほろ苦い青春群像劇。」
最終話は優しい話でした。里志と摩耶花は、そうでもない感じがしますが。
(千反田を褒めすぎた気もしますが、まあ、気にしないで下さい。)
●22話(最終話) 「遠まわりする雛」
【お誘い】
生きびな祭の女雛をする千反田から、急遽(予定の人が怪我をした)、衣装のサイズが合いそうということで4月3日に傘持ちの代わりを頼まれる奉太郎。
4月1日の電話だったので、嘘かと思いました。奉太郎を誘った本当の理由は別にあったという意味では、確かに嘘でしたが。
(因みに、女雛と男雛のセットで「内裏(だいり)」と言いますが、もしかしたら、それと奉太郎が傘持ちの「代わり」、つまり「代理」をすることを、ラストで互いの気持ちがかなり明確になって2人が「内裏」になりそうなこととかけたのか?)
傘を持って立っているだけと誤解し、少し考えながらも、あっさりとOKした奉太郎ですが、もう少し確認してからにしないものなのでしょうか。実際、傘を持って「歩く」と知って驚いていますし、当日は、自らの省エネ主義に反すると後悔していますし。
千反田からの頼みだからなのでしょうが、相変わらず最初は淡々と電話で話していて、千反田を特別視している様子は見受けられない電話の応対ですし。千反田が女雛をすると聞いてからは照れていますけれど。
ここは、画面に見えない同じ部屋(リビング)か隣の部屋(台所?)に家族がいるのでもない限り、最初の方で奉太郎が淡々としている理由が良く分かりません。千反田に惚れていることは自覚しているはずなので、もう少しばかり、浮かれた声か表情になっても良さそうなものです。
【生きびな祭】
祭の日、仕切っているお爺さんに、しっかりしていると褒められ、初めて言われたと奉太郎。
いくらかお世辞もあるのかも知れませんが、この1年で奉太郎も成長したことは確かです。
着付け中の千反田に呼ばれて、橋が工事中で渡れなくなり、遠回りをするかどうかを検討していると奉太郎が説明するとき、目隠しの布越しの千反田は、お姫様と言うか女王様と言うか、少しだけ高飛車な感じの口調だったのは何故でしょうか。
後半で別件で千反田が言っていたように、女雛の役目になりきっていたことの表れの一つなのでしょうが、だとしても、ちょっと素っ気無い口調です。
(祭が一通り済んで、奉太郎に駆け寄る千反田の、いつもの、わたし気になります!攻撃と比べると面白いです。)
(これが気品のある口調だと聞こえれば、女雛に相応しい口調ということになりますが。)
厚化粧で髪型も変えて見慣れない衣装なのに、男雛を見て、入須先輩(cvゆかな)だと一目で分かるとは、奉太郎は良く判別できたものです。
余程、11話での入須の仕打ちが脳裏に焼きついているのでしょうか。
祭の行列が狂い咲きの大きな桜のところに来て、千反田を正面から見たいという強い欲求を感じる奉太郎。
桜の妖しい美しさを表すものとして、桜の樹の下には死体が埋まっている、とはよく言われる(はずの)例えですが(※注)、そんな雰囲気にやられたのでしょう。勿論、何よりも、美しい千反田にも。(更に言えば、疲れて少しもうろうとしかけている奉太郎自身も一因ですが。)
気持ちは分かるよ、奉太郎。
(※注:梶井基次郎の詩のような短編小説、「櫻の樹の下には」(1928年)。狂気を感じる小説ですが、ここでは、そこは無視してください。桜の魅力を表現したいから私が引っ張ってきた言葉だと受け取ってください。)
【祭のあと】
祭が一通り済んで、見に来ていた里志と摩耶花と石段で並ぶ3人ですが、自分の焼き鳥だかお団子だかが一口残っているのにもう1本買ってくると言って外す里志。
21話のバレンタインチョコの件から、摩耶花といるところを見られるのが気恥ずかしいとか、3人で何を話してよいのかまだ分からないとか、そんなところでしょう。
言う機会がなかったからと、バレンタインの件の礼を奉太郎に言う摩耶花(もう1ヶ月半経っているのですが)。
奉太郎に2人の付き合いの状況を聞かれ、「まあ、それなりに。」と力なく答える摩耶花。背中越しに描かれた奉太郎と摩耶花の会話が、摩耶花と里志の関係がまだ一波乱ありそうな、あるいは、上手くいかない結末を暗示しているような。少なくとも、摩耶花の口調と、直後に奉太郎に見せた力のない複雑な笑顔からは、それが伺えます。
場面が変わって、帰り際の入須に出会い、ルート変更の理由をどう思うか聞かれた奉太郎は、ちょっとためらってから分からない旨を答えます。
入須は、奉太郎なら謎を解いてくれると思った、あのとき(11話)は役目があったが今日はただの男雛だから、こんな気楽な身からは虚言は出ないと穏やかに言います。
きょとんとして「はあ」とだけ答える奉太郎。
この2人は、概ね和解ですね。
【謎解き】
役目を終えて、千反田と奉太郎で謎解きです。
行列が大きな桜の下を通るようにするために、茶髪が遠回りを仕組んだと。
千反田はそんなことのためにと言いますが、奉太郎は、桜と千反田のセットが見られたから、「そうでもないぞ。」と心の中で思うと。
余程、千反田を美しく思ったのでしょう。
【帰り道】
自転車の奉太郎と徒歩の千反田の帰り道。
千反田は、経営的戦略眼(経営者)には向かないから、商品価値の高い作物を作るために高2から理系を選択すると。奉太郎は文系だと。
奉太郎を傘持ちの代理に誘った本当の理由を、淡々と、しかし、地に足の付いた確かな自分の言葉で語る千反田がいいです。
豪農の千反田家の一人娘として結局はこの地(アニメの舞台は岐阜県らしく、市街地も農地もある地方都市)に帰るという決意を語った後の言葉として、
「見てください、折木さん。ここが私の場所です。水と土しかありません。人も段々、老い、疲れてきています。私はここを最高に美しいとは思いません。可能性に満ちているとも思っていません。でも、、、、、折木さんに紹介したかったんです。」
「ところで、お前が諦めた経営的戦略眼についてだが、俺が修めるというのはどうだろう。」
奉太郎、よくぞ言った!
と思ったら、「ところで」までしか口にしていませんでした。
「寒くなってきたな。」と誤魔化す奉太郎。
「いいえ。もう春です。」
すると、夕日の中、桜の大木を背にした千反田のまわりに風が吹いて、桜が舞います。
大きな桜を背にした千反田が、そして、痩せすぎていない安定感のあるスタイルと黒髪と暖かみのある性格・表情が、母なる大地をつかさどる神々しさと母性を感じさせます。
奉太郎を見てにっこりとする千反田(しかもドアップ)。
(細かい色合いとかは、カメラの性能もあるので気にしないで下さい。左頬の下の光みたいのは、舞う桜の花びらで、写真に撮ると輝きが増しただけです。)
また、2人の帰り道は、最後まで全体としてピンクがかった色合いでした(夕日でピンク色っぽいのは、少し変ですが)。
これは(、1話から何かと示されてきた薔薇色の高校生活とは異なりますが)、灰色の高校生活をよしとして奉太郎が避けてきた、しかし里志が実践してきたはずのピンク系の高校生活が奉太郎に訪れたということであり、奉太郎がそれを良しとしたということでもあるのでしょう。(残念ながら、既に、里志はピンク系の高校生活とはおさらばせざるを得なくなったように思えますが。)
この1年で、奉太郎も成長したものです。
既に紅は差していないものの、生きびな祭で見たかった、桜を背景にした、この1年で随分と大人になった千反田の姿を目の前に少しほほを赤くして照れる奉太郎。
実質的に千反田から奉太郎への愛の告白であり、それに気付いた奉太郎です。
エンディングの曲のとおり、千反田の方から告白したということです(もう少し前までは、千反田から告白するとは予想していなかったので、ここは読み誤りました。)。
【エンディング】
ハート型の桜の花びらが舞う中、2人そろって向いているのはきらめく夕日の方向。
次に2人の足元と自転車の後輪を写し、その手前には桜の花びらとともにツクシが4本。高いのとそれより少し低いのが寄り添うように並び、その少し手前に少しだけ離れて最初の2本より低めのが2本。
ここでエンディング曲へ、そして終了。
ツクシは4本あるので、奉太郎と千反田、里志と摩耶花なのでしょうか。
里志と摩耶花はまだ付き合っているとは少し違う感じで、互いにいろいろと引っかかることを胸に抱えながら、という感じなので、手前の少し離れた2本のツクシが2人の微妙な距離感を表しているとも言えるでしょう。
「氷菓」は4人の青春物語でしたから、最後に4人を象徴するものを写して終わるというのも理解はできます。
それとも、奉太郎と千反田、そして2人の子供なのでしょうか。
子供だとしたら、手前の2本の高さからして小学生くらい。まだ付き合ってはいない2人なので子供というのは早いかなと思いますが、22話の終盤は2人だけの話だったわけで、里志と摩耶花が最後に出てくるのは、却って場違いだと考えることもできます。
ところで、雰囲気からして、あのような里志と摩耶花は上手くいくとは思えないので、付き合っているかのような形はしばらく続くでしょうけれど、気持ちが大きく近づくようには思えないところです。つまり、遠からず別れるだろうと。
バレンタインから(付き合ったような感じになってから)1ヵ月半も経っているのに、少し前の、奉太郎と里志と摩耶花の3人の石段のシーンのぎこちなさからしても、そう考える方が妥当かと。
千反田と奉太郎の明るい未来を暗示する最後のシーンに、暗い未来を予想させるものを入れ込むのは、不自然かと。
となると、2人の子供かな。子供は早すぎるけれど、そう考えるのが一番無理がないでしょう。
【まとめ】
季節は春、恋も何事も始まりの季節です。ツクシのように芽生えたばかりの2人の気持ちですが、ツクシは力強く育つ植物です。
初恋(4人とも実質的な初恋と、勝手に推測中)は実らないことが多いものですが、実る恋もある、と示したエンディングなのでしょう。
派手さはなく淡々と日常が過ぎてゆくこの地方都市で、名家の一人娘として自分の生き方に覚悟を決めている千反田えるが、桜の小さな花びらの舞いをアクセントとした夕日のきらめきの美しさに負けず劣らずに映えています。
可愛さと凛々しさ、少女性と女性性、母性を併せ持った千反田える。
人間的かつ母なる大地をつかさどる神々しさを併せ持った千反田える。
印象的なエンディングでした。
左から、福部里志(cv阪口大助)、折木奉太郎(cv中村悠一)、千反田える(cv佐藤聡美)、伊原摩耶花(cv茅野愛衣)。
とてもいい作品でした。とっても。
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