思い付きブログ

「山女」感想

【ネタバレ】

◎「山女」

 「この山でわたしは人間になれた」
 「わたしの人生は、誰にも奪わせない」

 総合評価点は、上中下で上くらい。
 ただし、演出が芸術系に少しだけ寄っているので、合わない人には合わないでしょう。物語としては分かりやすいです。

 2023年6月30日(金)公開、監督は福永壮志、脚本は福永壮志、長田育恵、98分。
 山田杏奈(凛役)、森山未來(山男役)、永瀬正敏(伊兵衛役。凛の父)、二ノ宮隆太郎(泰蔵役。凛が好き。)、三浦透子(春役。泰蔵が好き。)、山中崇(寅吉役)、川瀬陽太(角松役)、赤堀雅秋(マタギの親方役)、白川和子(巫女のお婆役)、品川徹(村長役)、でんでん(治五郎役。村長に次ぐ有力者の様子。)など。


 以下は渋谷のユーロスペースにて。




○インタビューで山田さんが、「撮影をしたのは2年ほど前ですが、約1ヶ月半の間、山形で生活しながら撮った作品は私にとってすごく大切なものになりました。」(タウンワークマガジン、2023年6月29日)(「山形に1ヵ月くらい、行きっぱなしでした。」(Yahoo!ニュース、2023年6月18日)とのインタビューもあり。)と。2001年1月8日生まれですから、2021年、20歳の時に撮影という事になります。
 山田さんを明確に知ってファンになったのは「ひらいて」(2021年10月22日公開)ですから、その頃か。「彼女が好きなものは」(2021年12月3日公開)も良かったです。

○冷害で作物が実らず、淡々と飢えや貧しく苦しい生活が描かれる中で、父の伊兵衛が起こした事件、村長らが伊兵衛を疑ってやってきて、罪を被った凛。
 凛を殴る伊兵衛でしたが(日頃の伊兵衛の言動からしても、そうしないと嘘だとバレると思ったからであり、そういう意味では妥当な対応でした。)、後で凛に濡れ布巾を渡す程度の気遣いは出来るようで。罪をかぶってくれてありがとうとも、謝罪の言葉もありませんでしたが。
 そういう伊兵衛のつまらないプライドによって謝れないという面はあるにせよ、男女差別、男尊女卑の家父長制ですから、それはそれで不思議はないのでしょう

 村長と治五郎から凛を生贄にしてくれと頼まれ(巫女のお婆のお言葉により、冷害で困っていると神様に伝える役目として。)、最初は断るも、先祖の罪による罰を終わりにして田畑を返すことを条件に受け入れた伊兵衛。部屋を出て、さすがに凛に対して少し思うところはあるのだな、というシーンはありましたが、その程度。
 飢饉などで食べ物に困ると若い娘を遊郭に売るというのも珍しくはない当時のご時世ですし、売ったという話しは本作でもありました。

 最後の方で、翌日に生贄にされる凛に、お前の好物だ、と言っておにぎりを渡した伊兵衛でしたが、それもその程度。

 子孫が苦労しないように、という事の方が優先するようです(伊兵衛によるそういう意味の発言もありました。)。
 ただ、当時は家を継ぐのは男ですが、凛の弟は目が見えないので、当時であれば現代以上に生きにくくて、結婚もままならないのでは。それでも伊兵衛が凛よりも大事にしているのは、男であり跡継ぎだからということなのでしょう。もし、妻が生きていてもう一人の男を産んだら、弟は凛より冷遇されていたかもしれません。凛が山に消えて、弟が死んだ赤ん坊を川に流す仕事をすることになりましたが、赤ん坊を受け取るときに男の村人から、なんでお前みたいなものが生きているんだと殴られた弟。差別に慣れているからなのか、言い返すと更に殴られるだけだからなのか、何も言わずに川に流しに行く弟、というシーンにも盲目の生きにくさや差別が描かれています。
 (村人が忌み嫌う、そういう赤ん坊を川に流したり、遺体を埋めたりという仕事を伊兵衛の一家がしている。田畑がないので、それでいくらかの金をもらって生きている。)

○冷害が2年も続いて、たくわえも底をつき始めていて、まともに食べていないのにそれ程やせていないしやつれていないのは、人間が演じるから仕方ないのでしょうけれど、産まれたばかりの赤ん坊をその場で殺して川に流すくらいに食べ物に困っているにしてはですが、仕方ないのでしょう。

○生贄を誰にするかを村人が話し合う際、村長の娘だったか治五郎の娘だったかがいいのではと言う声が村人から出て、ダメだと言う村長。村長を継ぐ者だからということだったと思いますが、村人の1人が、村は俺たちがいるからじゃないか、みたいなことをボソッとつぶやくところ。ここは、国というのは国民がいるから国として成り立つという事と同じですが、当時の人が一般の村人がいるから村だとまで思っていたのかは、そういう人もいたかもしれないし、いなかったかもしれないし。
 なお、伊兵衛の一家は人としてのまともな扱いをされていないので、当然、こういう集まりには呼ばれません。

 生贄になる者は、村長などの有力者の娘ではなく、より冷遇されている者、より差別されている者から選ばれるという差別構造も今の日本にも残っていることです。
 男より女、年長者より若者が不利な構造も今の日本にも残っていることです
 神様への生贄となると若い女というのが定番ですが、神様は若い女が好きという事なのでしょうかね。日本の神様には男が多いからですかね。女の神様には何を生贄にするのでしょうかね。生贄という制度は男が考えたものなのでしょうかね。家父長制だと男を絶やすわけにはいかないので男は対象外なのでしょうかね。そもそも、生贄を要求する神様というのもなんなのでしょうかね。

○私が山田杏奈さんを褒めるのは当然として、台詞が無い森山さんも良かったです。山男は人か人ならざるもの(化け物)かは曖昧にしてあるので、人の言葉を話すと人だと解釈される可能性が高いという事でしょう。凛が話しかけるときの言葉を理解しているのかも不明確です。

○岩手県の遠野弁が使われていますが、一部、聞き取れないところや意味が良く分からないところはありましたが、理解を妨げるほどではありませんでした。
 それより、東北の方言にしては分かりやすいなと思った次第。私の祖母が東北出身で、普段は標準語でしたが東北弁を話されると半分以上は意味不明でしたので。
 あと、本作と同様に、祖母も自分の事を「オラ」「オレ」と言っていましたね。

○渋谷のユーロスペースでの、福永壮志監督と三宅はるえプロデューサーのQ&Aトーク回に参加しました(2023年7月16日(日)、上映後に30分程度。)。

 我々のルーツはほとんどが農民なのに、武士ばかり描かれるのに違和感みたいな事を言う福永監督。(→ざっくりとネット検索した範囲では、江戸時代は8割以上は農民だった様子。)
 だからちょんまげの人は出てこないと三宅P。
 当時は照明がないので昼でも室内は暗かったはずなので、自然光のみの暗い画面にしていると福永監督。(→ちょっと暗くて見にくいな、という画面でした。)
 山男は人か人でないかははっきりさせていないと福永監督。
 編集で多くをカットした、いつもカットするので過去作も2時間以内におさまったと福永監督。
 カットしたと俳優に連絡することもあったと三宅P。(→他作でも一緒にやっているので、本作でそうだったのかは不明。)

○さて、必要ならヌードもいとわないと過去作で言っていた山田杏奈さん。山男との出会いのシーンで、そうなるシーンかと思ったら、そうなりませんでした。
 服を脱いだ凛(山男は女を襲うという噂があったので、生きるために覚悟した凛ということでしょう。映像としては、胸より上を映すだけで、裸としては出てきません。)、凛の方に顔を向けて横になっていた山男は寝返りを打って向こうを向きましたから、男女が裸になってすることが何かという意味は理解したという事でしょう。

○山男に出会って、自分の生き方、自分の生を生きることができるようになった凛。赤ん坊を川に流すときに次は人に生まれてくるなと言う凛、村では人扱いされなかったという意味の事を言う凛。
 生贄になって、大雨と雷で火が消えてはりつけ棒が倒れて縄もほどけて凛が山に向かってふらふらと歩き出し、以後は山でひっそりと暮らしたのでしょう。

○公式HPから。
「「遠野物語」に着想を得た、唯一無二の物語 いまを生きる私たちへ問いかける、本当の”人間らしさ”とは

大飢饉に襲われた18世紀末の東北の寒村。先代の罪を負った家の娘・凛は、人々から蔑まれながらも逞しく生きている。ある日、父親・伊兵衛が村中を揺るがす事件を起こす。父の罪を被り、自ら村を去る凛。禁じられた山奥へ足を踏み入れたことから、凛の運命は大きく動き出す。
本作は、柳田國男の名著「遠野物語」から着想を得たオリジナルストーリー。自然の前ではあまりにも無力な村社会、その閉鎖性と集団による同調圧力、身分や性別における格差、貧しい生活を支える信仰の敬虔さと危うさを浮き彫りにしながら、一人の女性が自らの意志で人生を選び取るまでを描く。自分らしく生きること、人間らしさとは、何なのか。凛の物語と彼女が下した決断は、時代を超えて、こだまとなって私たちの明日に響く。」

「禁じられた山に入るとき、運命が動き出す────

18世紀後半、東北。冷害による食糧難に苦しむ村で、人々から蔑まされながらもたくましく生きる凛。彼女の心の救いは、盗人の女神様が宿ると言われる早池峰山だった。ある日、飢えに耐えかねた凛の父親・伊兵衛が盗みを働いてしまう。家を守るため、村人達から責められる父をかばい、凛は自ら村を去る。決して越えてはいけないと言い伝えられる山神様の祠を越え、山の奥深くへと進む凛。狼達から逃げる凛の前に現れたのは、伝説の存在として恐れられる“山男”だった…。」


【shin】


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