もうすぐ6月も終わってしまいますが、季節がら、今回も「薔薇の出てくる愛の歌」をご紹介したいと思います。スコットランド(イングランドという説もあり)から伝承されたバラッドのひとつ、「バーバラ・アレン」(Barbara Allen)です。
愛というのは、普段はなかなか気づかないもので、冷たくあたってしまいがち。
相手を失って初めて、その大切さに気づくことも多いですよね。
バーバラへの愛のために死を迎えたウィリアムと、ウィリアムの死によって愛に気づいたバーバラ。
2人の魂はそれぞれ薔薇と茨となって、天国で固い絆で結ばれる・・・という、悲しくも美しい物語の歌です。
このバラッドがアメリカに伝わったのは19世紀の半ばといわれていて、アメリカの民俗学者フランシス・ジェームズ・チャイルド(Francis James Child, 1825-96)のバラッド集に記録されたものとしてよく知られています。これもまた実にいろいろな人に歌われているのですが、こちらではアート・ガーファンクルのバージョンをご紹介します。1973年のファースト・ソロ・アルバム「天使の歌声」(Angel Clare)に収録されています。
教会でレコーディングされたからか、ストリングスの豪華なアレンジが施されているからか、厳かな感じがしますが、
(シンプルなのが好きな方は、ジョーン・バエズとかピート・シーガーのバージョンがおすすめです^^;)
あえてアート・ガーファンクルのを選んだのは、次のバージョンと聴き比べをしていただきたいと思ったからです。実は2001年にリマスターされたサイモン&ガーファンクルのアルバム「サウンド・オブ・サイレンス」(Sounds of Silence)に、ボーナス・トラックとして「バーブリアレン」(Barbriallen)というタイトルでこの歌が収録されているのです。これは彼らの大好きだったエヴァリー・ブラザース(The Everly Brothers)のバージョンを元にしたものと思われます。
(ちなみに、これを含むデモ3曲はどれもトラッドで、しかも1970年の録音らしい・・・アルバム「明日に架ける橋」の後にそれぞれソロ転向しなければ、2人はトラッド系のアルバムでも作るつもりでいたのでしょうか?)
↑旧ブログからのおつきあいの方はご存じだと思いますが、松月は(ソロもひっくるめて)サイモン&ガーファンクルの10年来の大ファンなので、彼らの話題については、ほんの少しだけマニアック?になることをお許しください(笑)
いかがですか? メロディが全然違いますよね。
バラッドというのは、たいてい吟遊詩人たちによって口頭で伝えられてきた歌なので、決まった楽譜がないのです。わたしの知っているだけでも、この歌には5種類以上のメロディが存在します。また、同じメロディを元にしていても、歌い手によっては3拍子で歌われることも、4拍子で歌われることもありますし、歌詞も微妙に異なることがあります。
わたしも茨城でアイリッシュ・トラッドをやってきましたが、伝統音楽を演奏する知り合いのほとんどは、お気に入りの奏者の演奏を聴いて曲を覚え、楽譜にはまず頼りません。楽譜があるとかえってうまく演奏できないそうなのです。伝統音楽にこめられた人々の心は、本当は楽譜を介してではなく、心から心へ直に引き継がれるのです。
☆歌詞の訳☆ ☆6~7番の( )内はS&Gバージョンで大きく異なるところ
それは陽気な5月 緑が一斉に芽吹き始めた頃のこと
やさしいウィリアムは死の床についていました バーバラ・アレンへの愛のために
彼は召し使いを町へ送りました 彼女が住んでいたところへ
「主人の使いでこちらへ参りました あなたがバーバラ・アレンさまなら」
そして ゆっくりゆっくり彼女は起き上がり ゆっくり彼の元へ向かいました
着いた時に言ったのはただひとこと - 「あなたは死んでしまいそうだわ」
「ねえ あの日のこと覚えてないの? 一緒に酒場にいた時のことよ
あなたはそこにいた他の女たちと乾杯して わたしのことは軽く見ていたのよ」
彼は壁に顔を向け 彼女に背を向けました
「さよなら さよなら僕の友だち バーバラ・アレンにやさしくしておくれ」
彼女が野原を散歩していた時 弔いの鐘の音が聞こえました
(彼女は東を向き 西を向き 彼のなきがらが運ばれてくるのを見ました)
ひとつひとつの音が こう言っているようでした - 「薄情なバーバラ・アレン!」
(「ああ 彼をここに下ろして! じっと眺めていられるように」)
その鐘が鳴れば鳴るほど 彼女の胸は悲しみにあふれ 泣き出さずにいられませんでした
(それを見れば見るほど・・・)
「ああ 誰か迎えに来て 家へ連れて帰って! わたしも死んでしまいそうだわ」
ウィリアムは教会の古い墓地に バーバラは新しい墓地に埋葬されました
ウィリアムのお墓からは薔薇が バーバラのお墓からは緑の茨が伸びました
古い教会の墓地を これ以上高く伸びられないところまで伸びると
赤い薔薇と茨は絡み合い 真実の愛で結ばれたのでした
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