アイリッシュ・トラッド、すなわち、アイルランドの伝統音楽・・・
チーフタンズもアルタンもコアーズも知らなかった松月がこのジャンルにのめりこんだきっかけは、アメリカン・フォークを掘り進める中で出会ったクランシー・ブラザース(The Clancy Brothers)のレコードでした。
60年代のフォーク・リバイバルの時、渡英して活動していたアメリカのミュージシャンたちとは反対に、彼らは50年代にアイルランドからアメリカへ移住し、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジをはじめとするアメリカン・フォークのシーンで、アイリッシュ・トラッドを演奏して広めていたのでした。
特に末弟のリアム・クランシー(Liam Clancy, 1935-2009)は、あのボブ・ディランから「最高のバラッド・シンガー」と称賛された人でした。また、一緒に活動していた友人のトミー・メイケム(Tommy Makem, 1932-2007)は「アイリッシュ・ミュージックの教父」といわれ、たくさんのメッセージ・ソングも残しています。彼はたいていバンジョーを弾いていますが、たまに「不思議な縦笛」も吹いていて、それがとてもきれいな音だったので、旅に出ればいつもお土産に笛を買うくらい笛好きな松月はたまらなくなってしまいまして、それがリコーダーのように手軽に吹ける笛だと知ると、迷わず購入しました。そう、右の「プロフィール」で松月が吹いている「ティンホイッスル」(tin whistle)です。
2年前に茨城で吹き始めて以来、この笛はわたしにたくさんの友だちを呼び寄せてくれました。特に、水戸や勝田のアイリッシュ・パブや県内のブルーグラス・フェスに出向いて、セッションに参加できたのはとても楽しかったです。
今回ご紹介する「薔薇は紅く」(Red Is the Rose)は、初めて勝田のアイリッシュ・パブ「ドヨーズ」へ潜入した時にも流れていた歌です。70年代以降にリアム・クランシーとトミー・メイケムがレコーディングしたバージョンです。
恋人が離れていっても、いつまでも愛していようと誓う、素敵なラブ・ソングです。わたしも昨年6月の「美野里フォークフェス」で、ちょうど下の映像のような感じで、埼玉のドック・ワトソンことA木さんと、この曲を演奏しました。
向こうの庭に咲く薔薇は赤く
谷間の百合は白く
ボイン川から流れる水は清らか
でも 私の愛する人は何よりも美しい
おまけ - 「ロッホ・ローモンド」と「水辺の春」
ところでみなさん、このメロディに聴き覚えはありませんか?
そう、スコットランド民謡の「ロッホ・ローモンド」(Loch Lomond)として知られていますよね。
「ロッホ・ローモンド」は17世紀、名誉革命後のイングランド(主にプロテスタント)に対するスコットランド(主にカトリック)の反乱で、死を悟ったスコットランド兵が故郷の湖と恋人を思う歌で、スコットランドのフォーク・グループ、コリーズ(The Corries)のバージョンがよく知られています。
それがアイルランドでは「薔薇は紅く」というまったく別の詩で親しまれているのは、非常に興味深いですね。
ちなみに、日本にもこのメロディに独自の詩をつけた「水辺の春」という唱歌があります。
(作詞者の片岡輝(かたおか・ひかる)氏は、「グリーン・グリーン」の日本語版の作詞者でもあります。)
心はずむ 緑の風 そよぎゆく みずうみ
森に丘に いのち息づき はるかに かすみたなびく
めぐりあえる日 夢みた なつかしの みずうみ
いま美しく はるひらき あこがれ遠く はばたく
これも「みんなのうた」で親しまれましたが、わたしは小学校の音楽の時間に歌いました。「音楽委員会」の活動で低学年の教室へオルガンの伴奏をしにも行っていました。今でもよく覚えている大好きな歌のひとつです。