潮待小屋

漁業権問題集中講座⑥「磯のサザエは誰のもの?」  

 

さて、ここでちょっと休憩して頭の体操をしてみよう。
本題とは直接関係ないので読み飛ばしていただいてもかまわない。

質問:磯のサザエは、誰のものでしょう。

答えは、「誰のものでもありません」。

第1講「漁業権とはなにか」で説明したように、漁業権は「物権」であり、特定の海面で、排他的に水産動植物を採捕する事業を営むことのできる権利である。
しかし、磯にいる個々のサザエやアワビは、本来は誰の所有物でもない。
そして、誰かがこれを採捕し、占有が開始された時点で、「所有権」が発生することになる。
いわゆる「無主物先占」の法理である。
(民法239条「無主の動産は、所有の意思をもってこれを占有するによりて、その所有権を取得す。」)

しかし、漁業関連法令が絡んでくると、話はそう単純ではない。
そこで、次のような場合分けをして整理してみよう。

(1)まず、サザエを採捕したのが適法に操業する漁業者であれば、漁業者は、漁業権に基づき採捕したサザエについて「所有権」を原始的に取得する。その後は、煮て食おうが焼いて食おうが自由である。

(2)次に、漁業法、水産資源保護法、漁業調整規則等に反する違法な漁(密漁)を行った者の場合はどうか。
この場合は、法令に基づき、密漁者等の採捕したサザエは執行当局により「没収」される。

(3)それでは、(2)に該当しない遊漁者が採捕したサザエの場合はどうだろう。
遊漁者の行為が漁業権の侵害にあたる場合(注)には、かかる不法な原因によって占有開始したサザエについて、遊漁者が正当な所有権を取得することは認められないと考えることができそうである。
ところが、漁業法や漁業調整規則の規定を見る限り、上記(2)に該当しない遊漁者が採捕した水産動植物を「没収」することができるという規定はない。
また、漁業者にも、この場合における当該サザエの引き渡しを求める権原はない。漁業権は個々のサザエに対する支配権ではないからである。漁業者が威迫や恫喝により強制的に当該サザエを取り上げたりすると、別の意味での違法性が生じることとなる。
従って、このような場合には、「遊漁者が自発的に占有を放棄し、誰のものでもなくなったサザエを自ら海に放して違法状態の治癒を図る」というのが穏当な解決ということになるのであろう。


~つづく~
(目次ページへ)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)
(2)の違法な漁には該当しない遊漁者の行為が、漁業権の侵害に該当する場合があり得ることについて、第5講参照。


  

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コメント一覧

管理人
>遊漁者さん
ご意見ありがとうございます。
ご指摘の通り、「権利侵害を主張して排除しようとするか、それとも許容するかは漁師さんの判断」と説明すべきでした。
ここに訂正させて頂きます。
どうもありがとうございました。
遊漁者
漁業権の侵害に当たるかどうかは権利者が決定することではありません。
したがって「許容するか排除するかの判断が漁業権者にまかされている」というのは厳密には間違いです。
事実上はそれに近い状況ではありましょうが、「漁師の判断にまかせる」という件については法的な根拠がありません。

①漁師さんに注意された(注)遊漁者は、「自主的に」占有を放棄する。
②漁師さんは、誰のものでもないサザエをその場で確保し、海に放す。

の他に「適法の範囲内であることを主張する」という選択肢が残されています。

その結果、告訴される可能性もあるわけですが、告訴すなわち違法行為であるというわけではありません。
法律の概要を記述したコラムで「漁師の判断に任せる」という結論はいかがなものでしょうか?

ご自身もコメントしているように、漁師個人には何かを許可するという権限はありません。
それと同時に何かを禁止する権限もまた持っていないのです。
管理人
>?さん
具体的な状況が分からないので何とも言えませんが、漁師さんがそうおっしゃったのであれば、そもそも漁業権が設定されていないか、あるいは漁協として公認しているということになるのでしょうか・・・。
ちなみに漁師さん個人には遊漁者に対して何かを許可するというような権限はないはずです。
その場で 漁師さんに促されて
 焼肉なんか焼かないで 目の前でサザエ拾って焼けばいいじゃん と言われ 採りにはいって焼きましたがこれは罪でしょうyか?
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