先日来、釣友の間で話題になっている勝浦漁港の釣り規制の件。
その後新たな情報は聞こえてこないが、私自身も大好きな釣り場の一つであるだけに、状況が気になるところである。
また、今回の件は、一部の釣り人の迷惑行為が原因といわれているが、特定の個人の問題と矮小化して片付けてしまったのでは、きっとまた別の釣り場で同じことが起きる。
関係業界を含め、釣りに携わる者皆が、決して他人事と考えることなく正面から向き合うべき問題だと思う。
ちなみに、漁港施設での釣りをいったい誰が規制するのか。
これは、漁港漁場整備法25条に基づき漁港管理者となる地方公共団体である。
勝浦漁港の場合は、第三種漁港(注)に指定されているので、管理者は千葉県である。
管理者は、法に基づき、漁港の維持、保全及び運営その他の維持管理を行う責任を負うとともに、そのために必要な権限を有している。
漁港管理者が漁港施設での釣りを規制する理由としては、私見であるが、次の3つが考えられる。
(1)安全管理措置としての危険区域での釣り規制
(2)衛生管理措置としての荷捌き場周辺での釣り規制
(3)漁業行使権の保護のための漁港施設内での釣り規制
一般に、堤防先端部への立ち入りが規制されている場合、(1)の安全管理措置を目的とする場合が多いのではないかと思われる。
遊漁者がテトラから転落したり、高波にさらわれたりした場合、釣りを楽しむこと自体は自己責任とはいえ、遺された遺族から、予見可能な事故を未然に防ぐための措置を怠ったとして管理者の責任を問われる可能性は否定できない。
また、万が一、不幸にも事故が起きてしまった場合、遭難者捜索や事後対応等に係る人的負担や費用も決して小さなものではない。
そのため、漁港管理者の立場としては、漁港施設の安全管理の一環として、危険区域への遊漁者の立ち入りを制限する措置を講じざるをえない場合もあるだろう。
港内の岸壁であれば、堤防テトラほどの危険はないと思われるものの、人が転落する危険は当然あるし、船舶が入出港する日中であれば、釣り人の投げる仕掛けが船舶に当たったり、釣り糸がスクリューに巻き付くリスクなど、漁業者側の安全にも配慮する必要がある。
(2)の衛生管理措置であるが、勝浦漁港市場前岸壁の場合、実はこの問題が一番大きいのではないかと思っている。
水産物は生鮮食料品であり、その衛生管理は、消費者にとって最大の関心事の一つである。
従って、漁港管理上も、漁港施設を常に清潔で衛生的に保つことは、最も重要な課題の一つであるということができる。
腐ったコマセが足元に散らばり、ハエが飛び交いゴキブリが這い回るような岸壁で、消費者の口に入る水産物を水揚げすることは許されない。
漁港漁場整備法39条も、「何人も漁港施設を汚損する行為をしてはならない」と定めている。
漁港の維持保全の責任を負う管理者として、釣り人が残していく弁当の食べ残しや岸壁に散乱して悪臭を放つコマセは、極めて深刻で看過できない問題であると思われる。
(3)の漁業行使権については、拙稿「漁業権問題集中講座」でも述べた通りであり詳細の説明は省略するが、漁港管理者としては、漁業者の正当な漁業の操業が妨げられないよう適切に漁港施設を維持管理すべき責任を負っているものと考えられる。
以上のような理由から釣り規制が実施されると考えられるわけであるが、それではわれわれ釣り人として、どのような自衛手段を講じることができるのか。
ひとつには、言うまでもないことだが、漁港管理者に規制を余儀なくさせるような行為を行わないことである。
弁当の食べ残しやペットボトルなどのゴミを漁港施設内に捨てて帰ったり、コマセを足元に散らかしたままにしない。
自分のゴミは自分できちんと持ち帰り、コマセはきれいに洗い流して帰る。
ただし、釣り座を構える場所によっては、うまく洗い流せないこともある。
勝浦漁港の市場前がまさにそのような場所なのだが、車止めのある場所に釣り座を構えてしまうと、バケツで一、二度水を汲んで流しただけでは、車止めに遮られてすぐには足元がきれいにならない。
従って、釣り座を構えるのであれば、車止めと車止めの間の隙間からすぐに水が流せる場所にするか、そうでなければ車止めの内側にコマセをこぼさないよう十分に注意を払う必要がある。
また、漁業者の操業を直接的に妨げるような行為をしないことは当然である。
漁港施設は、釣り公園ではない。自然海岸とも違う。
漁業者や地元の方から注意を受けて、食ってかかるなど論外である。
そして、がつがつしないこと。
混雑している釣り場に無理やり参戦して、いたずらに混雑に拍車をかけたりしないことだ。
この点については既に述べたので、ここでは繰り返さない。
しかし、釣り人に注意を呼びかけるだけでは限界がある。
すべての釣り人が理性的、自制的であるとは限らない。
また、漁業者とトラブルを起こすような釣り人は稀だとしても、コマセ等の残置を完全に防ぐことは難しいと思われる。
不特定多数の釣り人が一か所に集中すれば、どうしても問題は発生してしまうだろう。
そして、集まる釣り人の人数が多ければ多いほど、発生する問題の頻度や影響も大きくなり、やがて漁業者や漁港管理者の受忍の限度を超える。
従って、各種釣り情報を発信する釣り雑誌などのメディアや、釣具店の掲示板ないし店頭での情報提供、さらには個人のSNSなども、情報発信に際しては、釣り場環境へ与えるインパクトについて十分配慮する必要があるのではないかと思うのである。
ルアー雑誌などは、釣り場情報をあからさまに公開しなくても、十分に読み応えのある内容になっている。
立派な姿勢であり、いつも感心している。
餌釣り雑誌も、昨今の釣り場状況に鑑み、このような配慮を行うことはできるはずだ。
初心者の読者向けに、釣り場環境保全のための啓蒙活動を徹底するのも一案である。
少なくとも、漁港や自然海岸を、あたかも整備されたファミリー向け釣り公園のように安易に紹介することについては考え直す余地があるのではないだろうか。
個人のSNSも然り、である。
釣具店の情報発信については「商売だから仕方がないじゃないか」という声も聞くが、目先の商売の為だけにみだりに情報を発信し、その結果として釣り場を潰してしまったのでは、釣具店としての「見識」を問われる。
賢明な経営者なら、スタッフにそのような営業はさせないはずだ。
勝浦漁港については、最終的にどうなるか現時点では不明である。
残念ながら手遅れかもしれない。
しかし、まだ釣りが許容されている漁港はたくさんある。
それらの漁港で、これ以上釣りが規制されないよう何をすることができるのか、関係各方面それぞれの立場で考えていきたいものである。
繰り返しになるが、くれぐれも、一部の釣り人のマナーの問題と矮小化して片づけてはならない。
そうしないと、またどこかで同じことが起きる。
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(注)
漁港漁場整備法に定める漁港の種類は以下の通りである。
第一種漁港 その利用範囲が地元の漁業を主とするもの
第二種漁港 その利用範囲が第一種漁港よりも広く、第三種漁港に属しないもの
第三種漁港 その利用範囲が全国的なもの
第四種漁港 離島その他辺地にあつて漁場の開発又は漁船の避難上特に必要なもの
第一種漁港は市町村が、第二種以上の漁港は原則として県が管理する。
<参考資料>
漁港漁場整備法
千葉県漁港管理条例
勝浦市漁港管理条例
千葉県の漁港一覧
港湾施設における釣り問題研究会報告書(新潟県)
漁港で取り組む水産物の衛生管理(水産庁)
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