十軒家の先には高さ2メートルほどの
小さな崖がありました
崖の前は草はらが広がっていて
ここでよく遊びました
生家の近所には、十軒家(じ(ゅ)っけんや)と呼ばれている
長屋がありました
同じ格好の家が10軒、横並ぶ景色に子供の私は
迷子になった時を思い出すのでした
元旦の朝は 父がおとそを1番小さな盃に注いでくれました
鶴の絵が描かれた盃と急須のセットは金で縁どられていて
特別感のある品物でした
1年に一度お目にかかる器でいただくおとそは
甘くてとてもおいしかったです
伯母と祖父の暮らす母の生家は
私の好きな匂いがしました
形容するのが難しい匂いです
掃除の行き届いた古民家の匂い と言ってもいいのですが
もうひとつ、そこに暮らす人の人柄が加わった匂い
そんな匂いでした
4年生くらいから朝、新聞を読むようになりました
テレビ欄と三面記事は必ず、家庭欄は時々読みました
家庭欄には人生相談のコーナーがあり、10才の子供には
なんのことだかわからない言葉にぶつかることが
ありました
ある時読めない漢字を母に聞くと 一瞬言いかけたのに
口をつぐんでしまいました
声に出すと恥ずかしい読みだったようです