賽の河原なるものは、実のところ、地獄なるところにある訳ではなく、私と同じ『あの真っ暗な無の世界』に一度渡って戻った人々が、舞い戻った現世に馴染めずに、やがて彼らの中の何かを壊してしまい、ひたすらに石を積んでいるのだ。
石と言うのは様々な欠片で、人によってそれぞれ違う。
哀しみの欠片、喜びの欠片、憎しみの欠片、愛しさの欠片、苦しみの欠片などなど、それはもうそれらの人の数だけ。
私は根を生やしてしまったが故にそれをする事叶わずに、ただ遠目に窓辺から見ているだけだ。
リズはたまに、今日の人はまるまるの石を積んでたよと、私に土産話をしてくれた。
分かっているのだ。
リズには恋しさの欠片や、愛しさの欠片、羨望の欠片、魅惑の欠片、妬みの欠片、そういった物が沢山積まれている事を。
しかしそれらは全て一方通行だと言うことも。
リズは今夜もボロ雑巾みたいになって帰り、そして私の足元に眠るのだ。