そらんぢ堂

アーカイブ図書館として残します。

リズの止り木【7】

2023年06月19日 12時00分00秒 | リズの止り木
賽の河原なるものは、実のところ、地獄なるところにある訳ではなく、私と同じ『あの真っ暗な無の世界』に一度渡って戻った人々が、舞い戻った現世に馴染めずに、やがて彼らの中の何かを壊してしまい、ひたすらに石を積んでいるのだ。

石と言うのは様々な欠片で、人によってそれぞれ違う。

哀しみの欠片、喜びの欠片、憎しみの欠片、愛しさの欠片、苦しみの欠片などなど、それはもうそれらの人の数だけ。

私は根を生やしてしまったが故にそれをする事叶わずに、ただ遠目に窓辺から見ているだけだ。

リズはたまに、今日の人はまるまるの石を積んでたよと、私に土産話をしてくれた。

分かっているのだ。

リズには恋しさの欠片や、愛しさの欠片、羨望の欠片、魅惑の欠片、妬みの欠片、そういった物が沢山積まれている事を。

しかしそれらは全て一方通行だと言うことも。

リズは今夜もボロ雑巾みたいになって帰り、そして私の足元に眠るのだ。




リズの止り木【6】

2023年06月19日 02時00分00秒 | リズの止り木
ただただ眠っていたいのに、それすら赦されない世界。

どれだけの時が流れ去ったのかさえ知る術を持ち合わせていない。

不思議でならないのは、ボロ雑巾で帰って来るリズが、朝を迎えると見違えるように輝いて、そしてまた外へと駆けてゆくのだ。

リズが往来する世界はいったいどんなものなんだろう。

遥か昔の記憶を辿り想像する事は出来る。

果たしてそれが正しいのかは分からない。
私はここから動けずに、また今日もリズの帰りを優しく迎えるだけなのだ。




リズの止り木【3】

2023年06月18日 17時00分00秒 | リズの止り木
みなまで言わずとも分かる。

出掛けて行く時には、あれ程の魅力と憂いを纏っていたのに、帰り着く時にはいつも酷く『穢れ』にまとわりつかれていることを。

穢れか。
私もむしろ穢れそのものだろう。

こうしてまともに生きることも、死ぬことも赦されず、この場を離れることさえかなわない。

もう少ししたら疲れ果てたリズが戻るだろう。

私は唯一動く左手、とは言っても今ではただの枝葉に過ぎないだろうが、今宵もそれで優しくなでてやろうと思うのだ。