こんにちは、サニーです。
今年10月発売で、Xやインスタの読書垢で話題になってた本
『禁忌の子』
読了しました!!!
本書は鮎川哲也賞受賞作、作者は現役女性医師で
デビュー作!
凄すぎ
ミステリとしても社会派としても面白いし、登場人物は主人公をはじめ一人一人キャラや人となりがしっかりしてるし、情緒揺さぶられるし…
もう次回作が楽しみすぎる
これから感想のターンになるけど、
①社会派の部分について
②ミステリについて
に分けて書いていきます!
いつものごとく
ミステリの犯人等は伏せ字にするけど、ネタバレばっちりあるので未読orまだ途中の方は
自己責任でお願いします🙇
⚠ネタバレ注意⚠
【感想】
①社会派の部分について
本書のテーマは
「出生・ルーツの秘密」
「不妊治療と子どもの権利」
かなと。
主人公の救急救命医・武田は、ある日自分のもとに運び込まれた遺体が自分そっくりなことから、
「自分には生き別れになった兄弟か親族がいるのでは?」
と疑問を持つようになる。
で、旧友の城崎と色々調べていくうちに辿り着いたのが老舗の不妊治療クリニック。
武田の母も一時期このクリニックに通っていたらしく、武田は
「ここで不妊治療の末に双子の片割れが別の母親に宿ったのでは?」
と考えるように。
専門的な部分は流し読みしてたけど、理論上は体外受精で可能らしい。
結論から言うと武田の読み通り、自分そっくりの遺体は双子の片割れで、
自分たちの生物上の親は不妊治療クリニックの理事長とその夫(故人)だった。
つまり武田は自分を産み落とした女性(母親)とその夫(父親)とは血の繋がりがない。
全くの赤の他人からの卵子や精子の提供、代理母出産は取り締まる法律はないけど日本では事実上禁止されていて、武田や双子の片割れは日本の医療倫理的には「禁忌の子」になる。
とはいっても、海外で赤の他人の卵子や精子を提供してもらったりSNSで精子ドナーを探す人はごまんといるんだけど。
そして武田は自分の双子の兄の生い立ちを兄の「産みの母」から聞くんだけど、
悲惨の一言。
ここは読んでいて胸糞悪くなった。
手前勝手な事情とお気持ちで、幼い子供に当たり散らすような虐待をする「両親」
保守的な地域の閉塞感。
大人たちの淀んた空気に感化されてか残酷なことを平気でする子どもたち。
双子の兄は歪みに歪みまくって暴力的な人間に。
本当に可哀想すぎる。
3歳かそこらの男の子に、今まで可愛がってたくせに急に理不尽な暴力や恨みつらみ浴びせるようになるんだもんなぁ…
正直、両親が成長して力関係が逆転した兄にやり返されるところは「ざまぁ」って思った。
でも、
関係のない人間までいらん被害にあうんよなぁ。
特別支援級の、口も聞けない女の子が堕胎させられ、兄の詭弁とそれに乗った周りの大人たちの保身で泣き寝入りさせられる…
母親は「少なくとも1人」と言ってたし、他にも被害にあってる女の子はいるんだろうな。
産んだ息子がどれだけ道を踏み外してもお金だけ渡して知らんぷり、出生の秘密を知られてもきちんと向き合わずに「自己保身ばかりだ」と詰られてもピンとこず、ずっと「どこの馬の骨ともわからない遺伝子が悪いのであって私たちは悪くない」と身勝手な言い訳をしてた母親は、
同じ遺伝子を持って真っ当に育った武田を見て初めて後悔をしたと。
まぁ、そうだろうね。
自分達の行いの責任から目をそらすために貶めていた息子と同じ遺伝子をもった人間が、
医者になれるくらいにはきちんと教育を受けていて、
常識的な行動が出来るくらいにはきちんと真っ当に育てられて、
まざまざと自分達と相手の親御さんの子育ての結果の対比を見せつけられたんだもんなぁ。
双子の兄だって根っからの悪人じゃないし、辛い境遇でもウサギを可愛がる心を持ってたんだよかつては。
でも、双子の兄が死んでから後悔したって何の意味もないんだよなぁ。
女の嫌なところ煮詰めたようなこの母親に読んでて嫌悪感しかないけど、武田は一定の理解を示して慮れるの凄いな。いい人すぎる。
終盤の総括の部分でも、体外受精で生まれた両親とは違う遺伝子を持つ子供ルポルタージュの一節という形で
「我々は、子供を持ちたいという夫婦の願いを叶えることばかりに気をとられていて、産まれてくる子供たちの権利を、人権を、あまりにも蔑ろにしてきたのではないか。」
という文が出てきます。
子供が産まれることは、どんな形でも究極的には親のエゴによるものだとは思う。
だけど子供は1人の人間で、大人の都合の良いペットでも親の所有物でもない。
未熟で力のない存在だからこそ、
1人の人間として向き合うという姿勢を忘れてはいけないと思う。
②ミステリについて
ミステリ内容を大まかにいうと、
自分の出生に関わりそうな身元不明の死体の謎をとくのに、武田は旧友医師・城崎に協力を依頼。調べていくと老舗の不妊治療クリニックの存在が浮かび上がる。事情を知ってそうな理事長に話を聞きに行く直前、理事長は密室で死んでいた。警察は自殺だと思ってるけど、不自然な点が多い。果たして本当に自殺なのか。他殺なら犯人は誰なのか。
といった感じ。
鍵となるのは「背理法」
すなわち、
前提となる条件を立証する仮説にことごとく矛盾が生じたとき、そもそも前提条件が間違っている
結論を言うと、
理事長の死因は衝動的な自殺。原因は武田が尋ねてくる直前に会った人物。
で、「犯人」は
主人公の妊娠中の奥さんの絵里香
事件の流れは
絵里香は実はもう1人の武田の兄妹で、武田の双子の兄にある日突然色々暴露され、暴行される。
このままだと夫やお腹の子に危害を加えられると恐れ隙をついて反撃。意識不明になった相手を車イスに乗っけて海まで運んでドボン。
その後、武田が不妊治療クリニックの理事長から真実を聞く約束をしていることを知って先回り。理事長に自分の身の上、武田の双子の兄を殺したこと、武田と結婚して子供を身ごもっていることを伝え、武田には何も伝えないよう懇願。絵里香が帰ったあと、自分のやったことに罪悪感に耐えきれず自殺。
壮絶
タイトルの「禁忌の子」はまさに最大のタブー・近親相姦から出来た主人公の子どものことだった。
主人公の衝撃たるや…。
でも、理事長的にも衝撃だよね。
理事長はグレーなことをしてても悪徳金満医師ではなく、むしろ理想に燃え信念を持った立派な医師。
日本の不妊治療の発展に文字通り身を捧げてきたけど、その結果が
血を分けた子供たちの悲惨な末路。
片や子供を大切にすると約束した両親から身勝手な理由で虐待されたあげく道を踏み外し殺された息子、
片や知らずに兄と結婚し近親相姦の子どもを授かり、もう1人の兄に真実を暴露され暴行された挙句殺してしまった娘、
片や真実を探しにこれから自分のもとにやってくる、何も知らない重すぎる十字架を背負った息子。
心を壊して衝動的に自殺するには十分よね。
真実を知った武田は多少葛藤したものの妻子を愛し守りたい気持ちは変わらず
真相を突きつけた探偵役・城崎を口封じしようとします。
まぁ失敗するけど。
そんなことをするには武田は人が良すぎるし、絵里香も望んでいない。
むしろ
武田の性格を見抜いたうえで「人に殺意を向けられてみたい」という欲求のために武田を煽った城崎のほうが人でなし。
城崎、探偵役にふさわしく「感情が常に凪いでて感情に振り回されることなくシンプルかつ論理的に物事を考える」性格なんだけど、
感情に支配される人の気持ちが全くわからないから感情のうねりが強く出る「事件」に関心をもち、
「僕は人間になりたぁい!」
的な理由で首を突っ込んで感情の勉強をしてるそう。
武田に何度も心のなかで「探偵より犯人のほうに親和性がある」って評されてるけど、
なんだかんだ人を思いやれる行動がとれて医療倫理も持ち合わせてる
光のサイコパス
まぁ武田を煽った理由は狂ってるけど。
事件の結末はたまに見られる、
当事者たちに推理を披露するけど探偵は警察に話したり公にはせず、
真相を秘密にするタイプ
賛否分かれるタイプよね。
武田や城崎が危惧したことを考えると、この結末が無難よな。
ただ、「禁忌の子」には「知る権利」がある。
墓場まで持っていくつもりでも何かの拍子に知ってしまうかもしれない。
混乱するだろうし、決定的な溝になるかもしれない。けど、決断をエゴだと自覚しているならその時は誠実に向き合ってあげてほしい。
「禁忌の子」が、知っても知らなくても自分の人生を肯定して生きることを願う。
ちなみに、私のミステリの楽しみ方は、ロジックを組んで謎に挑むよりも小説の雰囲気を楽しんだり、「こいつが犯人だったら面白いなー」というひねくれた視点で目星をつけたやつをもとに憶測をしてみる邪道なタイプ。
今回もひねくれ視点で犯人を推測したら当たった🤗
プラス、もう一つ特殊な視点で犯人を予測してた。
この小説、武田と城崎のバディものやん?
事件前後からずっと一緒に行動してる。真面目なフツメン医師と一見優しげだけど曲者の美形医師。旧知の仲で、武田は城崎の秘密を知っている。
何が言いたいか分かるよね😇
倫理をかっ飛ばして腐った眼で見て、分かったんだよ。
誰が退場するかが😇
で、予測当たってたし、続編出ること決まってるから犯人はここでご退場かなーって思ってたら
…ん?この結末?あっさり終盤でバディ解消?
続編は城崎と春田(女の子研修医)のバディ?
「かんじんなものは目にみえないんだよ」
by星の王子様&武田母
うん、見えてなかった。
腐った曇りだらけの眼じゃやっぱり見えてなかった😇