こんにちは、サニーです。
1,2年ほど前に話題になったミステリー小説
「方舟」
「十戒」(著作:夕木春央)
を読み終えました!
今日はこの2冊の感想を書きます。
ネタバレありですが、真相や犯人、殺人事件に関わるところは反転←反転(長押し)してお読みください。
この2冊の繋がりはほとんどないので片方読んでなくても楽しめますが、「方舟」→「十戒」の順で読むと「おお!」ってなるところがあります。
ちなみに、公式の解説サイトがあります。
方舟
十戒
【2冊まとめてざっくりネタバレなし感想】
「方舟」「十戒」は2冊とも
極限状態で起きた殺人事件を紐解くクローズドサークルミステリー
です
「方舟」は
長らく放棄された地下施設に肝試し半分で行ったら地震により閉じ込められ、しかも地下水が徐々に浸水し発電装置が2週間しか持たない。脱出する方法はあるけれど誰か1人を置き去りにしないといけない状況。
「十戒」は
個人所有で電波も繋がる無人島で事件が起き、犯人に「犯人を見つけてはならない」を筆頭に色々制約を課され、3日間守れば解放されるけど守らなかったら全員死亡を突きつけられ、事実上島に軟禁状態になる。
どちらも過酷
状況は「十戒」のほうがマシかなぁと思うけど、犯人に生殺与奪を握られ自由を制限され、「犯人の言うことは本当に信用できるのか、生きて帰れるのか」と疑心を捨てられずずっと不安な状態が続くのはストレスだなぁ。
「方舟」と「十戒」、状況は正反対だけど巻き込まれた人たちの言動はよく似ている。
大多数の人は危機的状況を認識できているけれどどうすればいいかわからず何もできない人が多く、主体的に動ける人物(探偵役や犯人)が状況を打破する・変えるべく行動するのにひっぱられている。
それは物語の語り手(主人公)も同様。
ただ、それぞれの主人公は正反対の結末を迎えてる。
そして、2冊とも犯人が凄い。
ネタバレなしで言うととにかく凄いしか言えない。でも凄い。
⚠この先ネタバレあり⚠
【方舟】
デスゲーム始まりそうな環境整いすぎ
大学時代のサークル仲間とたまたま見つけた怪しい地下施設を探検してたらタイミングよく地震が起きて閉じ込められた上に地下水の浸水が始まって、脱出するために必要な道具やトリックに使える道具、「お話し合い」に必要になるかもしれない拷問道具が完備されてて、非常食がちゃんと備蓄されてて…
お膳立てが整いすぎて割とマジで一番最初のソウみたいなオチを予想してた
違ったけど。
あんだけ注目されまくってた拷問器具も全然使われなかったし。
この方舟が元々一体どんな目的の施設だったかは結局よくわからず、怪しい宗教団体の施設だったってことしか作中では言及されてない。
物語的にはあくまで「早く脱出しないと死ぬ地下空間」っていう舞台でしかない。
まぁでも犯人の動機はなかなかエグかった
⚠犯人・真相ネタバレ(反転)
脱出するための条件を故意に捻じ曲げ、自分ひとりだけ助かるよう暗躍してたんだもんなぁ…
本当の脱出条件は「水没した非常口を目指してスキューバダイビングする」
だけどこの方法だと脱出できるのは1人か2人。何日かかっても救助を待つゆとりがあるならまだしも、何日かたつと施設が完全に水没して溺死するからボンベや道具を巡って壮絶な奪い合い殺し合いが始まりかねない。そうなると女性である犯人には不利な状況になるから、本当の脱出条件を隠蔽し、「自分たちが入ってきた出入り口を塞ぐ大岩を、1人を置き去りにして装置を使って動かせば残りの皆は助かる」(実際は出入り口の外は土砂崩れで埋まっている)と全員に思い込ませる。
犯人は3回殺人事件を起こしたんだけど、動機は一貫して「自分が脱出するための障害を排除する」。
うーん、仕方ないっちゃ仕方ないけどなかなか鬼畜。
最後の最後で主人公だけに真相を教え、他のメンバーはもうすぐ脱出できる!って希望に満ち溢れていたのに真実を目の当たりにして絶望のどん底に叩き落されてたもんなぁ。
しかも主人公には救済の道が用意されてたんだよなぁ。
「探偵役に犯行を暴かれて置き去りにされた自分(犯人)に寄り添って一緒に残っていれば、一緒にダイビングして脱出するつもりだったんだよ」だって😇
ちなみに私、読んでる途中と読み終わった直後はこの犯人のことめちゃくちゃ嫌いだったんよね。
犯人の鬼畜外道っぷりにドン引きした以外にも、この女サークル仲間と結婚した既婚者のくせに、主人公に「夫とうまくいってないの🥺」って相談女ムーブかまして粉かけてたんだよね。というかそもそも主人公とは大学時代は付き合う一歩手前みたいな状態だったのに卒業シーズン付近で今の夫とお付き合い・結婚をしたらしい。そんな関係だから主人公と夫は中学時代からの友達だったのにぎくしゃくしてると。
サークラやないか。
身近にいたら「けっ」って思いそうだけど、作中のサークル女子達もそんな感じだったのか犯人と仲良さそうな様子は見られなかったんだよね😇
まぁ、でも、この女は主人公にも夫の手にも負えない怪物だよな。
観察力、判断力、分析力、演技力、フィジカル、機転、発想、冷静さ、どれも尋常じゃない。
しかも前々から計画してたわけじゃなくてその場その場で自分が助かるための最適解を計算してるんだよなぁ。
畏怖の念が芽生えるわ。
色々凄い犯人だけど、ちょっと突っ込みたいところもある。
物語中盤の
第二の殺人事件
わざわざ首チョンパしてかなり離れたところから超慎重にウェス持ってくる必要なくない?😇
なんか適当な袋かシーツ被せてナイフで顔ズタズタにすればよくない?そっちのが手間もかからないし返り血も防げるし犯人の目的も達成できるしいいことづくめでは?
探偵役曰く「顔面破壊は心理的抵抗がある」とか言ってたけど、首チョンパのほうがきつくない?
犯人について語ってばっかだから、主人公にも触れておこう。
主人公、
絶妙に頼りない
いや、語り手として読者に状況を伝えてくれる分には冷静な思考の持ち主なんだけど。
受け身だし積極性に欠けるんだよね。
探偵役の従兄弟の助手ポジではあるんだけど、ただただ従兄弟に従ってるだけだし。
そして切羽詰まった状況なのに好きな女のことで頭いっぱいになるし。
そもそもサークルに関係ない従兄弟連れてきた理由も、
好きな女とその夫との三角関係が気まずいからっていう。
うーん、頼りない
自分で状況を変える行動をせず誰かの考えや策略に乗っかるだけ流されるだけの果ての結末は…
そして、今作の探偵役の主人公の従兄弟。
ヘタレ主人公に頼まれて着いてきただけの人で、主人公以外全員と初対面。
冷静に状況を見ながら最善を模索し、殺人事件の犯人もズバリ的中させる…んだけど、
(反転)
残念、脱出方法の前提を捻じ曲げられていたせいで最後の最期に犯人にしてやられたりに。というか最初から最後まで完全に犯人の手のひらで踊っていた。
もうね、相手と状況が悪すぎた。可哀想。
総評
ツッコミどころはあるけど、極限状態の徐々に追い詰められる経過は生々しくリアル。
犯人すごい。
【十戒】
生殺与奪の権を他人に握らせるな!
鬼を滅する漫画の有名な台詞だけど、知らん間に10人近くがまとめてがっつり握られちゃったらどうしようもないよね。
いや、回避ポイントはあった。
島吹き飛ぶくらいの爆弾見つけたら四の五の言わずさっさと逃げよ?
確かに一晩くらいほっといたくらいで突然爆発しないやろってなる気持ちはわかるけど、普通に怖いやん。
主人公パパも、保身に走る気持ちはわかるけど主人公の言う通り問題を先送りしただけでいつかは警察に言わなきゃいけないんだし。
そんで一晩明けたら爆発はしなかったけど爆弾盾に行動制限かけられる羽目になるし。
今作のクローズドサークルは
スマホの電波ばっちり届いて3日間限定って言うなかなか開放的な環境
まぁ電波バチバチでもスマホは封印されたけどね😇
それでも前作の全員助かる道のない超ハードモードクローズドサークルと比べると一見希望はある。
がっちがちに行動制限・精神拘束されるけどね!
外部との連絡は怪しまれないように必要最低限だけとるけど会話はみんなに筒抜けとか、基本は単独行動推奨で複数人が30分以上一緒にいてはならないとか。
最大のポイントは
犯人が誰か知ってはならない
例えば皆でアリバイを確認し合うとか、証拠品を探すとか、そういった行為も禁止。
「これ、ミステリーとして成立するの?」って思ったけど、ちゃんと探偵役います。
主人公と相部屋だった人です。
探偵役は他のメンバーの目を盗んで主人公や主人公の父親と密談をする、他の人のスマホをこっそり盗み出すなど危ない橋を渡りながらロジックを組み立て、最終日に推理を披露します。
そんなことしなくても3日間大人しくしてた方がいい気がするけど、
探偵役曰く「思考停止して犯人を探らないのは危ない」
実際(反転)
2日目、3日目とも朝になると誰か1人殺されてて、残りの人間は犯人の証拠隠滅のために協力させられます。
犯人が被害者を殺した理由もわからないから(読者はもちろん読み終わる頃までにはわかるけど)次は誰が狙われるかわからないし、そもそも犯人は本当に3日後に自分たちを解放してくれるのか信用もできない、仮に助かったとしてもその後の警察の取り調べや世間の目で犯人扱いされるかもしれない、でも犯人に歯向かえば全員爆殺。外部との連絡の時も助けを求められず嘘をつかなきゃいけないから急に3日間帰れなくなったことを責められたりする…
なかなか危ない状況だし精神的にきつい…
実際情緒不安定になった人もいたし。
⚠犯人・真相ネタバレ(反転)
探偵役が示した犯人は
第3の被害者の藤原。
殺されたと見せかけて、他メンバーに部屋に閉じこもるよう指示したあと脱出の準備を整えた。
他の被害者の小山内と矢野口は爆弾魔仲間で、ずっと島に保管してあった爆弾をどうにかして回収しようとやってきたけどあっさり見つかってしまい、夜のうちにゴムボートで逃げ出そうとしたけれど小山内が崖の上で足を滑らせ事故死。藤原は矢野口を犠牲にして1人逃げ切ることを思いつき、今回の事件を起こした。
世間的に自分は死んだことにしたいから逃げたあとに残りの人間を爆殺する可能性は低いと考え、今後すぐに自分たちも逃げ出すか一晩様子を見て予定通りにくる迎えを待つか選択してもらいたいから推理を披露したとのこと。
まぁ、真犯人は探偵なんだけどね。
なんというマッチポンプ
探偵役の推理は被害者3人が爆弾魔ってところは本当だけど、小山内殺害からの推理は全くデタラメ。全員きちんと探偵役の手で殺されています。
殺害の動機は
3人は夜のうちに脱出したあと、証拠隠滅のためほかの人間ごと島を爆発させるつもりだったことを知ったから。
探偵役がそのことを知ったのはまさに3人が夜陰に隠れて脱出準備をする現場を見たとき。
他のメンバーに助けを呼びにいく時間もなく自分1人じゃ男3人を止めることは出来ないから、とりあえず起爆装置を持っていた小山内を殺害。
上述推理のように仲間割れして1人が逃走したように見せかけるため「十戒」を用意し、メンバー全員の行動制限をして殺人と偽装工作に暗躍します。
突発的な殺人を犯したあと、わずかな時間で一連の計画を思いつき完璧に実行。皆脱出したあとは島を爆発させてしっかり証拠隠滅。
ただ者じゃない。
主人公は
同室だった探偵役が深夜怪しい動きをしたことは知っていたけど、「犯人を知ってはならない」十戒を破ったら爆殺だと脅されたのと確証が持てないこともあってずっと口をつぐんでいたし、あまつさえ父親には探偵役のアリバイを証明した。
よくよく考えれば「個室だった他のメンバーとは違って同室だった2人はお互いのアリバイを証明できる」っていうのは十戒の前では無意味なんだけれど、(私もだけど)島メンバーは気づかなかったので探偵役は「犯人じゃない可能性が高い人物」として信頼度が高くなり、矢野口や藤原の警戒を下げて犯行がしやすくなったとのこと。
島から脱出したあと探偵役は主人公に真相を教え、今後も口を噤むよう笑顔で圧をかけ、主人公は涙を流しながら承諾する…
完全犯罪達成。
主人公、小説をよく読むと探偵役に対して鼻白んだり怯えたりしてるんだけど初見じゃ「大胆不敵な行動と推理に驚いたり呆れている」風にみえるんだよね。
大胆不敵もなにも犯人なんだから好き放題動けるんだけどね。
よくよく見るとまとめ役っぽい行動を取りながら皆を誘導してるんよね。
主人公は探偵役が犯人と知りながら一切邪魔をせず、自分や他メンバーの命運を探偵役に委ねた、消極的な共犯者のような立場。
よっぽどの気概ないと主人公と同じ立場なら誰でも同じだっただろうけど、主人公はしっかり罪悪感を抱えてるから涙が止まらなくなったんよね。
※ここからは「方舟」の真相にも触れます。
⚠「方舟」「十戒」両方とも見てない人は閲覧注意⚠
(反転)
今回一番ビックリしたのが
今作と前作の犯人と同一人物だったこと。
名言はされてないけど間違いない。
小説ラストのセリフ
「じゃ、さよなら」
をみた時はゾワっとした。
あの難易度高ランクのスキューバダイビングと地震で土砂崩れが起きた山からの下山達成して人里に戻れてたんだね。
やっぱりフィジカル凄い。
書類上はまだ既婚者だけど、仕事では旧姓を名乗ってるとのこと。
今回の登場人物がほぼ名字だけしかわからなかったのはこのための伏線か…!
前回も今回も行動原理は一貫して
「不測の事態に巻き込まれたときに、どうすれば自分は助かるのか」
であって、自分の命を助けるために手段を選ばずずば抜けた知力・体力・演技力を駆使して目的を達成するんよね。
凄すぎて一周回ってファンになったわ。
前回は全員の命を直接的・間接的に奪ってたけど、本人は別に快楽殺人者ではないから必要がなければ積極的に他人に害は与えないのよね。多分。
まぁ今回助かった人たちもトラウマやPTSDに悩まされるだろうし主人公に至ってはずーっと重い秘密を持つことに苦しむんだろうけど、そんなことは知ったこっちゃないんだわな。
前回の主人公は犯人を見捨てることで自分が見捨てられて命を落とし
今回の主人公は犯人に従属したことで生涯犯人の影から逃れられない
真反対の結末を辿ってるけど、どちらが良かったんだろうね。
総評
ドンデン返しは前作以上。前作読んでるとより味わい深い。
やっぱり犯人凄い。
【まとめ】
どっちも犯人についてがっつり色々書いたけど、
「方舟」も「十戒」も犯人が凄い。
これに尽きる。
色々舞台となった場所の謎は残っているけれど、そこはどうでもよくて
あくまで「特殊環境での殺人」「そのときの人々(探偵、犯人、モブ)の動き」がメイン。
次回作も絶対あると信じてる!待ってます!
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