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レナウンショック

2020年05月21日 | 社会
レナウンショック、アパレル倒産連鎖の足音

創業110年を超える名門企業は、あっけない最後を迎えた。



 高級紳士服「ダーバン」や「アクアスキュータム」などのブランドを展開するアパレルメーカーのレナウンは5月15日、東京地方裁判所から民事再生手続き開始の決定を受けた。長年の経営不振に加え、新型コロナウイルスの影響で主要販路の百貨店の休業が相次ぎ、売り上げが立たずに資金繰りに行き詰まった。負債総額は約138億円。今後1か月程度をメドにスポンサーを探す方針という。
 レナウンの単体売上高の6割弱は、百貨店向けブランドが占める。その百貨店は新型コロナ影響で客数が急減、一部店舗の臨時休業も強いられた。こういった事態を受け、レナウンの3月次売上高は前年同月比42.5%減(既存ベース)、4月も同81%減にまで落ち込んだ。業績不振から5月中旬以降に到来する債務の支払いにメドが立たなくなり、法的整理の道を余儀なくされた。

  売り上げが大幅に減少していたとはいえ、レナウン社員にとって民事再生法の適用申請は寝耳に水だったようだ。
 
 レナウンのある幹部は、「5月15日の夕方まで民事再生の事実を知らされなかった」と明かす。そして、「大半の百貨店が休業した4月以降は、キャッシュインがほとんどなかった。この時期は発注していた夏物の支払いが重なるタイミングでもある。苦しい台所事情だったとはいえ、民事再生手続きはトップシークレットだったこともあり、まさか数カ月でこんな展開になるとは想像しなかった」という。

  1902年に大阪で繊維卸売業として創業した同社は、1923年に「レナウン」を商標登録し、当時は珍しかったカタカナ表記で顧客に訴求して衣類の販売を拡大していった。その後、国内アパレルのリーディングカンパニーに成長したが、バブル崩壊後の1990年代から業績は下降線を辿る。百貨店の低迷に加え、ユニクロなど大手SPA(製造小売り)の台頭も直撃した。

度重なる人員削減やブランドの統廃合、資産の売却を行いながら、スポンサーを見つけては窮地を切り抜けてきた。2005年には投資ファンドのカレイド・ホールディングスから100億円の出資を受け、2010年には現在の親会社である中国の繊維大手・山東如意科技集団に傘下入りした(2013年の追加出資で子会社化)。

  だが、紡績工場を祖業とし、小売りのノウハウが乏しい山東如意は、親会社として再建に向けた的確な指示を出せずじまいだった。 
 レナウン生え抜きの幹部に経営を任せたが、リストラを続けてきた社内で起死回生に向けた妙案を打ち出せる人材はほとんど残っておらず、赤字体質は変わらなかった。2010年度以降、わずかに営業黒字を達成したのは4期だけだった。

  レナウンの2019年12月期(10か月の変則決算)は、売上高502億円(前期は636億円)、営業損益79億円(前期は25億円の赤字)と大幅な赤字に。その要因は、主力の百貨店ブランドの販売が落ち込んだことと、山東如意子会社との原材料の販売取引において売掛金の回収が滞り、53億円の貸倒引当金を計上したことにある。

 この取引で連帯債務者だった山東如意に支払いを再三求めたが、山東如意自身もM&Aなどに巨費を投じたことで資金繰りに余裕がなく、債務保証を実行できないままだった。

  多額の売掛金を回収できず、レナウンの営業キャッシュフローは大幅に悪化。2019年12月末時点での現預金残高は53億円と、2019年2月末時点の90億円から急減した。53億円の現預金のうち、20億円は借り入れの担保に供されていた。
 
 資金繰りが逼迫する中、2020年3月26日に開かれた定時株主総会で山東如意との対立が勃発。神保佳幸社長と北畑稔会長(いずれも当時)の再任を求めるレナウンの提出議案に山東如意が修正動議を提出。結局、両者の再任が否決される展開となり、急きょ、取締役だった毛利憲司氏が社長に、山東如意の邱亜夫董事長が会長に就任することとなった。

  民事再生法の適用申請も、山東如意との意見の相違で異例の手続きとなった。民事再生の申請に対してレナウンの取締役会の半数を占める山東如意出身者は難色を示し、自主再建にこだわったのに対し、レナウン生え抜きの役員は「自主再建を求めるならば売掛金の支払いを」などと要求したもようだ。

だが、結局売掛金は回収できずじまいだった。レナウンの取締役会で意見がまとまらない中、苦肉の策で、保険業務を行う子会社・レナウンエージェンシーが債権者としてレナウンの民事再生法適用を申請した。

  債務保証を実行せず、レナウンを”見殺し”にした山東如意の真意は定かでない。業界関係者の間では「もはやレナウン浮上の兆しが見えなかったため、53億円を支払わずに、見切りを付ける考えだったのでは」との見方も多い。

 今後レナウンは店舗の営業を継続しながら、新たなスポンサー探しを進める。しかし「現時点でスポンサーのメドは立っていない」(レナウン関係者)といい、交渉は難航が予想される。
 
 レナウンの基幹ブランドであるダーバンは高級ビジネススーツで知られるが、顧客の高齢化や職場のカジュアル化により売り上げは年々減少。足元では新型コロナで在宅勤務が急速に広まり、さらなる落ち込みが必至だ。

  大型SC(ショッピングセンター)を中心に展開する「アーノルドパーマータイムレス」も、かつての知名度やブランド力はもはやない。業界関係者は「レナウンに残っている価値は、国内商標権を所有しているイギリスブランドの『アクアスキュータム』くらい」と手厳しい。
 
 衣類販売が低迷する厳しい状況下で、スポンサーに名乗りをあげるアパレルはそうそう出てこないだろう。SCなどに展開する大手アパレルの幹部は、「とうてい支援対象にならない。百貨店が主要販路である以上、当社の既存事業とのシナジーも考えにくい」と切り捨てる。

  アパレル企業以外で注視されるのが商社やファンドの動向だ。中でも繊維事業に強い伊藤忠商事グループはレナウンと取引があったうえ、山東如意とも資本関係を持つ(2011年に出資)。
 
 ただ、ここ最近は伊藤忠もEC(ネット通販)プラットフォームなど次世代の流通チャネルの開拓に投資の重きを置いている側面もあり、業界関係者の間では「伊藤忠の意向は岡藤(正広)会長次第。直接手を差し伸べる可能性はそう高くないだろう」との声も上がる。ファンド関係者も「一部の顧客以外にはレナウンのブランドは知名度が低い。出資するには付加価値を見いだしづらい」と及び腰だ。

 仮に支援先が見つからず破産に至ってしまえば、下請けのアパレル事業者や百貨店への影響も避けられない。

百貨店アパレルの間では、「23区」や「自由区」を運営するオンワードホールディングスが2020年度に約700店舗を閉鎖し、ECへのシフトを加速する方針を表明しているほか、「ポールスチュアート」などを展開する三陽商会も2020年度中に最大150の不採算売り場を撤退する予定だ。さらにレナウンのダーバンやアクアスキュータムもなくなれば、多くの百貨店は衣料品フロアを維持すること自体が困難になる。

  新型コロナの影響が顕在化した2月以降、アパレル企業の株価は軒並み大幅に下落している。「新型コロナで淘汰は想定されていたが、レナウンショックで投資家や金融機関のアパレルに対する視線は一段と厳しくなる」と、中堅アパレルの幹部はため息をつく。 
 現在ある大手アパレルのもとには、レナウンのように長年の経営不振にコロナ禍が加わり、資金繰りに窮したアパレル企業のM&A案件が続々と持ち込まれているという。4~5月の売り上げ急減により、業界内では夏頃にかけてアパレルの倒産ラッシュが起きる可能性も懸念されている。レナウンショックは、長らく構造不況に陥っていたアパレル・百貨店業界の淘汰・再編への序章にすぎない。
     
(2020.5.21.東洋経済)





 
 
 
 
 
 
 
 

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