芥川賞が決まった。砂川文次氏の『ブラックボックス』が獲った。
ぼくは、候補に上がった作品をまだ読んでいないので、これから時間があるときに読んでいこうと思う。
今回候補に上がった、五つの作品の中で、ぼくはなんとなく島口大樹氏の作品が気になった。そこで、彼のデビュー作である『鳥がぼくらは祈り、』を読んでみた。
読後の率直な感想を言うと、とても青臭く、未熟な作品でありながら、画期的な視点の切り替えというか、独特の文体で語られていたので、そこがとても印象的だった。
青臭い、と感じたのは、高校生の日常を描いている点では当然のことかもしれない。
画期的な視点の切り替えというのは、この小説の中ではかなり「カメラ」というのが大事なモチーフになっているのだが、カメラを回すように視点がバラバラに切り替わっていく。こうした人称の切り替えはどうやら今回候補に上がった『オン・ザ・プラネット』でもあるらしく、作者はかなり映画好きなんだろうな、というのがわかる。
実際、この『鳥がぼくらは祈り、』においても、そうした過去の映画作品から影響を受けたであろう描写がいくつか出てくる。
ユーモアのある散逸的な会話という点では、間違いなくジャームッシュやタランティーノの影響はあるだろう。
また小説の最初の方で漫才をする友人を茶化す場面や、地元の祭りの中での喧嘩などは、たけし映画を意識したような作りのような気がした。
おそらく通ってきた映画や小説などが、そこらへんの少し古いカルチャーの影響もあるのかもしれないが、とにかく斬新な視点の切り替えと統一性のない文体で若さを感じる一方で、どこかノスタルジックな雰囲気も感じられる。
これは僕が10代の映画監督シタンダリンタの作品を観たときにも感じた新しさと古さの融合である。
総じて、僕はこの小説がとても好きだった。今、あまりこうした未熟で不器用な作品というのは書けないのではないか。島口大樹はこれからも追いかけていきたい作家の一人になった。