◯ 先行する他社の技術と何が違う?
米アップルが世界開発者会議「WWDC 24」で、独自LLM(大規模言語モデル)の「Apple Intelligence」を発表した。単独のアプリではなく、アップル製デバイスのアプリケーションと深く統合したAPIとして提供される。音声アシスタントの「Siri」でも活用でき、文脈を意識した会話が可能になる。
Apple Intelligenceは、デバイス内での処理とサーバー上の処理を適宜使い分ける。「iPhone」や「iPad」「Mac」と結び付き、それぞれの端末の魅力を高めるところが、汎用的に使われるAIチャットサービスとは大きく異なる。しかも無料で使える。
プライバシー保護を最優先。
他社の生成AI技術とは異なり、アップルはハードウエア事業の価値向上に焦点を当てている。オフラインでも利用できるデバイス内モデルと、オンライン時にサーバーと連動するLLMがシームレスに連動。さらに、独自のプライベートクラウド技術により、個人情報を安全に処理する。
これらのデバイスはプライベートから仕事までユーザーの行動を全て記録している。このため、個人の活動に密接に関連した情報を管理できるのが強みだ。例えば、複数のアプリ間での情報のやり取りや、スケジュール調整などの複雑なタスクも、Apple Intelligenceが整理して適切なアドバイスを提供する。
友人との約束をメールで調整し、その後SMSで変更依頼を受け取り、さらにメッセンジャーアプリで確認するといった複雑なコミュニケーションでも、システムは適切に最新の約束を発見してスケジュールに反映してくれるという。移動手段や出発時間のアドバイス、チケットの手配といったタスクなども、複数のアプリにまたがって効率的に処理する。
一方で、Apple Intelligenceには「ChatGPT」のような普遍的な知識は持たされていない。一般的な知識を披露したり、詩を書いたり音楽を作曲したりするといったAIとしては設計されていないのだ。アップルはOpenAIと提携することで、ネット上の知識や一般的な知識からの回答生成が必要な場合は、ChatGPTを呼び出す機能を提供している。料理のレシピを探す場合はChatGPTを利用し、チケットの手配などプライベート情報に関わるタスクについては、Apple Intelligenceが処理する。
例えば、「新鮮なサーモンを使った簡単なイタリア料理のレシピを教えてほしい」というリクエストに対してはChatGPTが処理し、「横浜スタジアムでの野球観戦のチケットを4枚手配したい」というリクエストはApple Intelligenceが処理する。
同社の生成AI技術は、スマホやタブレット、パソコンとの距離を縮め、生産性を大幅に高める絶妙な仕掛けとして、これからのデジタルライフを大きく変える可能性を秘めている。
英語版は「iPhone 15Pro」以降、iPadとMacはM1以上を搭載するモデルに2024年後半から順次提供される。日本語など他言語への展開は、2025年以降と明言されている。